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クロチアゼパム日記⑬ 解雇規制の緩和と年末調整の廃止 2024/9/23

 自民党総裁選も終盤となっているが、解雇規制の緩和とか年末調整の廃止そして年収の壁撤廃などは、「強制的親子別姓」と同様に時局に副わないテーマであり、争点設定として誠にセンスが悪い。年収の壁は撤廃ではなく、より高額に引き上げることこそ労働力確保に資する今日的施策だと思うのだけども、これは専門性の高いテーマであり 僕は深掘り出来ない。ただ、前者ふたつについては、思うところがあるので忘れないうちに書いておきたい。
 まず、解雇規制については、えいやっと緩和できるものではない。原則、規制は状況の進展に合わせて緩和・撤廃されるべきものだ。しかし、その規制を生んだ背景や効果をよく確認した上で慎重に扱われなくてはならない。解雇規制の緩和の目的は、所謂「人材の流動化」とされるが、流動化するから生産性が上がるということはないし、働きやすくなるということもない。強い需要と柔軟な雇用機会、需要に見合う供給要件(スキル)があれば、人材は働き甲斐を求めて勝手に流動する。現にIT業界などではどんどん転職できる。出来る人材は奪い合いであり、60歳超えてもスカウトが来るくらいである。結果として流動するのであって、人材の流動化を目的として解雇規制を語るのは、ピント外れである。昨今の「人材の流動化」は、「解雇のし易さ」の言い換えに過ぎないのだが、安直な解雇はその企業にとって良い結果をもたらさないと思う。持て余すような社員でも雇用を守るという企業姿勢は、その会社を支えている社員たちへのセーフティネットとして機能しており、ロイヤリティや挑戦意欲の源となっていると僕は考えているからだ。
 政策として考慮すべきことは、付加価値の高い(稼げる)産業・雇用の創出とそれに応える供給力の拡充である。(産業政策はさて置く。) つまり、スキルギャップや志向ギャップの補填をどう進めるかだ。長期的な視点であれば、AIや自働化機械の導入によって人に求める労働量やスキルは縮小するであろうし、教育システムの近代化によって若者の高スキル化は進むものと考えられる。しかし、現前にある労働力不足、また、将来に亘っても人的作業が必要となる建設や介護などの業種での需給ギャップに対する施策が必要だ。配電ネットワークの保全やトラック運転手、介護士などのエッセンシャルワーカーは、待遇によって引力を強める方策をまず探るべきである。しかし、結局のところ、国力を維持強化するだけの労働力を日本人だけで満足することは出来ないのであるから、外国人労働者を受け入れる他ない。他でも書いたが(③多様性への寛容_外国人労働者)、僕は計画的移民(帰化)の推進を強く主張したい。「我が国は移民政策を採らない」は、「憲法に国防軍と明記」と同様、威勢はいいが物事を前に進めようとしない姿勢である。移民一世は土木作業員として働いたが、2世は一級建築士となり、三世はとび職の社長になった、こういう家族は、良き隣人であり同胞である。増えてくれることに何の問題があろうものか。日本で働く外国人は使い捨てではなく、老後も家族も人道的に遇されるべきであり、それには帰化が一番明朗だ。同時に、帰化を望まない外国人労働者に対しては公明かつ厳格な制度で向き合うべきであり、違法滞在者の就労を見逃してはならない。
 労働の需給ギャップと合わせて必要な対策は、非正規労働者が被っている不利益の解消だ。一概に非正規が悪いとも言えない。メリットによって自ら非正規雇用を選んでいる人が多いことも事実であろうし、短期的ニーズを非正規で埋めようとする企業にも理がある。非正規雇用という形態はあって良い。しかし、正規と非正規では処遇面で明らかに不平等であること、非正規から正規雇用への転換が難しいことは、無視できない社会問題である。同一労働同一賃金が守られず給与格差があることは不当であるし、いつ失職するか分からず、将来を見通せないことは大きな不安である。企業からキャリア形成やスキルアップの機会を与えられないことも不幸である。よって、非正規から正規への移動を容易にする施策が求められる。僕は、「非正規雇用枠の規制」を提案したい。業種職種によってその割合は一律とはならないだろうが、従業員に占める非正規の割合を規制すれば、非正規から正規への道は大きく広がると思う。
 年末調整の廃止すなわち給与所得者の確定申告化について、今のところ世間の評判は悪いが、僕はこれに大賛成だ。納税額は、自分で申告してこそその重みが理解できる。多くの給与所得者は、手取りで生活しているのであるから、源泉徴収票をしっかりと見ることはあまりないであろうし、年末調整ではむしろ得したような気分になってしまっているのではなかろうか。源泉徴収(含む年末調整)は、納税者をたぶらかす仕組みであるし、企業に余計なコストを強いる制度である。確定申告は難解で面倒だ、という声があるが、税額算定も納税の義務のうちであるし、申告作業も給与所得者控除を使うのであれば、年末調整での控除申告と大差ない。税務署がパンクするという心配もあるが、今まで企業側で相当する作業を担っていた人たちが、出向すれば済む話である。e-TAXが高度化し申告者のリテラシーが向上すれば、円滑化・合理化が進むであろう。僕が問題とするのは、被雇用者の税務申告や納税作業を企業が肩代わりする源泉徴収制である。 公租公課(国税、地方税、保険、年金)は、国民ひとり一人が自身で納付すべきものであり、源泉から取りにいこうとすることは原則論としておかしい。納税が義務であると同時に、納税拒否は自然権的なものであると僕は考えている。国や地方行政が腐敗したり悪辣なものに簒奪された時、納税を止める手段を主権者が有していることは有効であると思う。

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