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2005年、あのバンドが僕をモッシュピットエリアまでぶん投げた #人生を変えた一曲

大学入学を機に、軽音楽サークルに入った。18歳のことだ。モテたかった。中高6年間男子校で、バスケしかやっていなかった。童貞だった。とにかくモテるためには、ギターを背負うしかないと思った。マイクを握り、伝説の曲を作って歌うしかないと思った。

ベニヤ板みたいなテーブルの上で、入部届けを書いた。「バンド経験、なし。パート、ヴォーカルかギター希望」。その日中に開かれた新歓コンパは、二次会まであった。精子みたいな匂いが立ちこめるカラオケボックス。歌がめちゃくちゃうまいやつがいた。聞いてみれば、まさかの同期という。あ、無理だ、これは勝てない。耳で悟った。入部前の挫折である。自分の挫折史上最速かもしれない。

挫折したのだからさっさと他のサークルに行けばいいのに、飲み会がなんだか楽しくて、そのまま居座ってしまった。誰もコールをしていないのに、安くて強い酒を勝手に飲み干してトイレで吐き、便器をまくらにして寝る先輩がたくさんいた。その場で馬が合った同期4人で、バンドを組む。空いていたパートがベースだったから、ベーシストになれと言われた。「いや、俺、楽器やったことないよ?」「大丈夫、弦、4本しかないから」。最近、最果タヒさんの『「好き」の因数分解』を読んだらこう書かれていた。

“「楽器ができない子がバンドに入るとき、おすすめされるパートはエレキベース」というあるある話には、いいようのない苛立ちを覚える”

その通り過ぎた。ベース舐めんな。

授業と就活が大嫌いで、酒と音楽が大好きなサークルだった。入部したばかりなのに、すぐに新入生ライブがある。バンドメンバーが初心者でもできそうな曲を探してくれて、ほぼルート弾きだけで攻略できるTHE YELLOW MONKEY『プライマル。』を演奏することになった。

『プライマル。』のベースはイントロだけグリッサンド(弦を抑えたまま指を滑らせて音程をなめらかに変化させる演奏技法。キマるとかっこいい。)が必要で、唯一の見せ場とも言える。しかしどれだけ練習しても全く習得できず、不安を抱えたまま、あっという間に本番の日を迎えた。

新入生ライブが行われる校舎内のスタジオには、サークルのメンバーしかいない。先輩たちは泥酔して寝ているか、腕を組んでこちらを見ているかの2種類。前者はともかく、後者は品定めするような目でこちらを見ていた。

漂う緊張感。4カウント。イントロが始まる。披露したグリッサンド。ブブぅン。全然抑えられてない。なにこれ、おならの音? 今でもあの音が耳の奥で鳴って死にたくなる。

そんな訳で、僕のベーシストデビューはイエモンだった。でも、これはあくまでも序章。僕の“ロックデビュー”といえば、その次に演奏した、ストレイテナーだった。ここからがようやく本題。僕の人生を変えた一曲は、ストレイテナーの『REMINDER』だ。


「これ、かっこいいからやろう」

バンドを組んだばかりの居酒屋。メンバーの誰かがそう言って、CDプレイヤーに繋がれたイヤホンのボリュームを最大にして、テーブルの上に置いた。流れてきた曲を、一発で気に入ったのを覚えている。 

幼少期からずっとJ-POPオリコンチャート上位勢の音楽で育ってきた「ゆとり耳」だ。先輩たちの演奏するゆらゆら帝国とか、プライマルスクリームとか、ガンズアンドローゼズの良さに気付くには、まだ時間が必要だった。でもストレイテナーは違った。キメが多くて気持ちいいし、歪んだベースの音がやたらとカッコいい。わかる。これはカッコいいバンドだ。

「そもそも、今までどれがベースの音かなんてわかんなかったのに、テナーだとわかる。なんで?」「ひなっちのサウンド特徴的だし、あとは、スリーピースだからじゃね? 他の音少ないし」「なるほど、レミオロメンと一緒ね?」「いやお前、全然わかってねーかもだわ、それ」 

メンバーから借りたストレイテナーの『ROCK END ROLL』を皮切りに、邦ロックに目覚めることになった。だからこそあの場で聴いた『REMINDER』が、間違いなく“人生を変えた一曲”である。あの日がなかったら、ナンバガにもバンアパにもスーパーカーにもくるりにもフジファブリックにもクリープハイプにもMy Hair is Badにもマカロニえんぴつにもオレンジスパイニクラブにも出会えなかった。 

新入生ライブ当日。『プライマル。』を演奏後、オマケのように僕がヴォーカルとして歌う『REMINDER』。さっきのヴォーカルより、明らかにヘタだよね。そんな声が聞こえてくる気がする。それでも叫ぶ。マイクに噛み付くようにして、最強の音楽を歌う。その瞬間、始まった気がした。モテとかじゃなくて、僕なりの音楽との日々が。

今は亡きSHIBUYA-AXで初めて生のストレイテナーを見た日もよく覚えている。メンバーが登場した途端、リミッターが外れてモッシュピットに飛び込んでいったあの日の記憶。今思えば笑っちゃうような話だけれど、「ロックの入り口」って本当におもしろい。それまでの人生に「指定席がないライブ」なんて存在しなかったのだ。「モッシュ」や「ダイブ」なんて用語の意味も当然知らないし、ペンライトやサイリウムを振る世界しか見てこなかった。

そんな温室育ちが、いきなり呼吸困難寸前のモッシュピットエリアにぶん投げられた。パニックだ。暴動だ。戦争だ。なんだこれ。めちゃくちゃに気持ちいい。どでかいスピーカーから直接ぶつけられる音圧。自分自身が楽器になったように、内側から跳ねた。音楽は最高だ。その日から、ヒットチャート上位のアーティストをほんの少し嫌悪するように捻くれてゆく自分がいた。

汗だくになったバンドTシャツを見て、友人と笑い合ったロッカー前の光景。その時の空気まで、容易に思い出せる。今となってはもう戻ってこないかもしれない。あの密すぎる空間で、僕は確かに、違う世界と出会ったのだった。「最近なんだか丸く収まってきちゃってんじゃねーか」って自分を鼓舞したいとき、『REMINDER』は、僕をあのモッシュピットエリアまですぐにぶん投げてくれる。


こちらの記事は、LINE MUSIC公式noteオムニバス連載「#人生を変えた1曲」に寄稿したものです。今回ご紹介した、ストレイテナーの『REMINDER』も、LINEMUSICで、誰でも月に1回、無料でフル再生できます。


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小説、コラム、エッセイ、取材記事などを書いています。書籍『明け方の若者たち』(幻冬舎)2020.6.11発売。

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オムニバス連載 #人生を変えた一曲
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様々なライター・クリエイターとのコラボ企画。それぞれが「人生を変えた一曲」について自由に綴るオムニバス連載。

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