ノーミス

フィギュアスケートの 2019 - 2020 シーズンはグランプリシーリズ、全日本選手権が終わり、日本人選手が参加する大きな大会は2月の四大陸選手権と3月の世界選手権を残すのみとなりました。


実は前々から気になっていたことがあります。それは大会に臨む選手がインタビューで「ノーミスで滑りたい」と発言するのを良く耳にすることです。ここで選手が言っている「ノーミス」というのは、主にジャンプのことを指していると想像しますが、一つのミスが致命的になる場合もあるので(それでも採点方法が変わり一度の転倒では試合に影響がないこともあります)、致し方ない部分もあるでしょう。大きな大会になれば尚更です。

「ノーミスを掲げる」ことでスイッチが入る選手もいるでしょうから、「ノーミスで滑る」ことを目標とするのが悪いとも言い切れません。ただ毎回この発言を聞く度に違和感を覚えるのは、「ノーミス」はあくまでも結果だからです。滑っている選手もまさか失敗しようと思っていないでしょうからこんな言葉が出てくるのは指導者のせいかと勘ぐってしまいます。


そんな事を思っていたら NHK の「軌跡のレッスン」でフィギュアスケートのハビエル・フェルナンデスさんが「ジャンプが跳べたとか跳べないとか道端の石ころみたいなもの。大切なのは完璧な結果じゃない。完璧な結果より努力。スケートの道を表現者としてまっすぐ歩いていって欲しい。」と言っていたのを見て安堵しました。

教えることはまだまだ初心者というフェルナンデスさんですが、もしこれからコーチをするのなら、試合で勝てる選手が育つかどうかは兎も角、フィギュアスケートを通じて人生を導いてくれる素晴らしい指導者の道を歩むのではないでしょうか。


思い出すのは伊藤みどり選手。カルガリーオリンピックでは氷上で滑ることが楽しくて楽しくて仕方ないことが見ている者にも伝わってきました。それがアルベールビルオリンピックのオリジナルプログラムでは見ている者が心配になる程の不調で出遅れ。フリーでも最初のトリプルアクセルを失敗してしまいます。

このまま終わってしまうのかと思った後半、まさかトリプルアクセルのコースへ。あれから何十年経った今でもこのシーンを見ると鳥肌が立つのは、競技としてのフィギュアスケートではなく、あの瞬間にそれまでのスケート人生が凝縮されていたからでしょう。


番組は「氷の上には君にしかできない表現がある」の言葉を残しエンディングを迎えます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?