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「はじめての出版③〜一枚のめぐり逢い」

優秀な企画は、一枚の紙にきわめて平易な言葉で集約できる。

これは僕が広告の世界で今まで「企画」をつくってきて痛感したことです。
パッと聞いて誰もがその新しさと面白さを理解できる。その企画に乗りたくなる。

理想論でありながら、本質論です。
くどくど説明しなければいけない、
言い訳のような注釈がたくさん必要な企画は競合であれば負け、
実施できたとしても跳ねない事が多いのです。

それは本を書くことにおいても全く同じでした。

さて、前回勢いよく担当編集者と

「本を一緒につくりましょう!」

と堅い握手を交わした後、興奮醒めやらぬ中、

「…で僕は何をすればいいのでしょうか?」

と、問うと、

「では、簡単な企画書を書いていただけますか?
○タイトル
○企画趣旨
○章立て
をA4一枚にまとめていただければそれを基に議論させていただきます。
書式等は特にこだわりませんので」

それを聞いた時に、
「あ、やっぱり広告の企画書と考え方は同じなんだな。それならすぐ書けそう」とちょっとだけホッとしたのでした。

しかし、それは本当に甘い考えでした。
実にそのたった一枚の企画書をつくるのに3ヶ月くらいかかってしまったのです。既に未知の生みの苦しみは始まっていました。

まず「タイトル」
これは書籍で最も大事なものです。

本には色んな買われ方があります。

○著者の普段の発言・発信を見て買う
○Amazonなどのレビューで評価の高いものを買う
○カテゴリー(小説、ビジネス、自己啓発など)を限定してその中から買う

などデジタル社会になってから、書籍は多面的にじっくり選ばれている印象があるわけですが、実はかなり多いのがそれらの真逆の、

○衝動買い

なのだそうです。そうなると「タイトル8割、表紙2割」という法則も存在するようで、書籍の顔であるタイトルは最重要ポイントなのです。
このタイトルを決めるのに、最後までもの凄い量の案を考えることとなりました。(タイトル決定のエピソードは別の日にじっくりと)

次に「企画意図」

これは「誰のためのどんな本か」を簡潔に、100〜200字程度で説明するものです。この短い文章は、コンセプトであり、何を世に問うのか?を指し示す、いわば書籍の背骨となるものです。

この文章を書く過程は、広告における「ブランドステートメント」
づくりによく似ていた気がしています。
そう、つまりその開発過程とまったく同じように、
短い文章を何度も何度も書き直し、執筆を開始した後も、
編集者と軌道修正を繰り返しながら少しづつ完成していきました。

そして最後まで悩み続けたのが、
「この本を一言で言い表すと何の本か」という問いにどう答えるか?
でした。
完成直前までそれは固まらず、頭を抱え続けました。

最後に「章立て」

これは実際に執筆するにあたり、どんな構成の書籍にしていくかという、
いわばお品書きのようなもの。

何章構成か?各章で何を語っていくのか?
全体で俯瞰した時に伝えたい内容がわかる構成になっているか?
などのチェックポイントを踏まえてつくっていきました。
章立てに関しては、編集者によっては企画書の段階では大雑把でいい、
と言う人もいるようですが僕はかなりそこも悩んで詰めたので
時間がかなりかかってしまいました。

そんなこんなで、冷静にしかし熱量を持って伝わる企画書を書いては直し、悩み続けて3ヶ月。
なんとか書き上げた僕は編集者との打ち合わせに臨みました。
相変わらず涼しい顔で微笑むインテリ感満載の男。聞けば東大卒らしい。議論するとか言ってたけどどんな弁で圧倒しようと言うのか…。
が、しかしA4一枚の紙を一読して返ってきたきた彼の言葉は、実にあっさりしたものでした。

「いいですね。これで行きましょう。原稿執筆、開始してください」

「あ、はい。あの、原稿の体裁は?WordとかGoogleドキュメントとかpagesとか…」

「自由です」

「締め切りは?どれくらいのスパンでお送りすればいいでしょうか」

「特にないです。書いたらキリのいい所で送っていただければ」

「タイトルってこれでいいですか?」

「まず、こちらで行きましょう。ただ、すいません。タイトルは最終的にこちらで決めさせていただく可能性があります。」

「え?あ、はい…」

ええ…。そんなに自由なの?タイトルってそういうもんなの?これ、本当に書籍になるの…?
様々な葛藤を抱えながら、執筆が始まったのでした。

<つづく>

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