カトウイチコウ

元画家。現、描いてない画家。最近は文章を書きます。短編なのか詩なのか何なのか、自分では…

カトウイチコウ

元画家。現、描いてない画家。最近は文章を書きます。短編なのか詩なのか何なのか、自分ではわかりません。

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濡れ方

傘をさしてても濡れた。雨が降っていて、濡れないように傘をさした。雨はミクロだった。ミクロな雨が傘をさしてても濡れるような降り方で降って、傘をさしてたのに濡れた。傘の使い方は間違ってなかった。正しくさした。傘は雨によって適正に濡れて、傘と同じ濡れ方で僕も濡れた。 猫がいた。駐車場に猫がいた。僕とだいたい同じ濡れ方で猫も濡れた。僕とだいたい同じ濡れ方だったけど、猫は傘をさしてなかったから少しは違う濡れ方をした。でも僕は傘をさしてても濡れたのだから、結局のところはだいたい同じ濡れ方

    • クエッグ

      会社作ろうと思うんです。あなたはきっと、お前みたいなバイトと短期の契約社員しかやったことのない者が何を言っているんだとお思いでしょう。私もそう思います。でもよく考えたら、よくじゃなくてもと言いますか、もはや考えるまでもないですが、このままでは私は生きていけないのです。年をとってきてしまって、もう雇ってくれるバイトもあまりなくなってきました。病気したり、体が動かなくなってきたりしたらどうしますか?もうバイトできないですよね。健康診断は受けてないですよ。だって病気が見つかってしま

      • テレビが悪いわけではないが

        お父さんはテレビばかり見ています。いつも、本当に、ずっとテレビを見ています。うちは新聞もとっています。昔からずっととっています。お父さんは新聞も読みます。でも少しだけ読んで、あとはずっとテレビを見ています。本も読みません。インターネットも見ません。だからお父さんはほとんどだいたいは、テレビしか見ていません。食事の時間はお父さんとお母さんと僕と三人でご飯を食べます。僕はおいしいおいしいと言ってご飯を食べます。だってそれは本当においしいご飯なのです。お父さんはご飯を食べながらテレ

        • 熊と川

          熊が出た。うちのすぐ近所の川だった。熊はただ山から降りただけで、人がそれを見ただけだった。 その日は天気が良くて、僕は川にでも行けたらいいなと思った。川は大学生なんかが集まって、何かを焼いて食べたりしていた。味付き肉やチーズの入ったソーセージや、そういったものを。ジョギングをしている人も多かった。バトミントンやキャッチボールをしている人もいた。川にはたくさん人がいて、みんな橋より下流の方にいた。橋があった。小さい橋だった。たまに地下鉄に乗る時はその橋を渡って駅に行った。橋

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          手のひらひらひら

           部屋の真ん中に彼女は立って、まっすぐ立って、両手を水平にかかげて、手のひらをひらひらさせている。指に髪の毛がまとわりついている。手のひらをひらひらさせて髪の毛を落とそうと、足元にはゴミ箱があって、そこに髪の毛が落ちるイメージで。静電気のせいなのか、髪の毛は落ちない。僕は部屋の入口からそれを見ている。僕には彼女の指にまとわりついているその髪の毛は見えない。だからただ彼女が手のひらを、部屋の真ん中に立って、ひらひらさせている動きを見ている。ひらひらしている。部屋は明るい。陽が入

          手のひらひらひら

          犬小屋に犬

           犬小屋がある。犬小屋に犬はいない。犬は家の中にいる。その犬は犬小屋にいた犬とは違う。犬小屋にいた犬よりずっと小さい。その犬は犬小屋にいた犬を知らない。  犬は家の中にいる。散歩の時以外は家の中にいる。家の中は雨も雪も当たらない。散歩の時以外は雨も雪も当たるところには行けない。家の外に犬小屋がある。犬は犬小屋に入ったことはない。いつも人と一緒に家の中にいる。  玄関脇に犬小屋がある。道路からその犬小屋が見える。犬小屋に犬はいない。犬がいなくても犬小屋を見て犬小屋だと思う。

          左に曲がったら渋滞です

           左に曲がったら、道が渋滞してた。左に曲がらないで、真っ直ぐに進んでたら、渋滞しなかったのかもしれないと、左に曲がって、渋滞してたから思う。もし左に曲がらないで、真っ直ぐに進んで、渋滞してたら、左に曲がれば、渋滞しなかったのかもしれないと、思うのだろうと、左に曲がって、渋滞してる中で思う。左に曲がっても、真っ直ぐに進んでも、この辺りはどこに行っても、渋滞してるのだと、思うことが一番いいのかと、左に曲がって、渋滞の中で思うけどもし、左に曲がって、人を跳ねてしまったとして、左に曲

          左に曲がったら渋滞です

          ひとり遊び

           実は、こう見えても今の自分にけっこう、満足とまでは言えないけど、全然ダメなとこも、仕事とかでは特に、全然多いけど、それでも意外と、今の自分悪くないかなとか、ある一面ではかなり理想的な、幸せとか言ってしまってもいい生活も、主に家庭に関する一面とかでは、できてる感じがあって、妻とも仲良くやってるし、あくまで僕の側から見てだけど、でも妻の側から見てもきっと、同じような感じで思ってくれてるようには、僕には見えて、自分自身のことに関しても、嫌いじゃないし、なかなか面白い人になったな自

          ジャリ

           ソバ殻の枕は頭が乗っかった時にジャリって鳴って、砂利って字はジャリって音のことなのかなと、ふと思った。そう思ったのはジャリって鳴ってからけっこう、十分とか、十五分とかたってからだった。  何度か来てる整形外科の初めて乗るエレベーターで、初めて上がる二階フロアの端っこの、診察ベッドの上に仰向けに寝っ転がった。ソバ殻の枕がジャリって鳴った。看護師の女性は僕の首の骨についてのいくつかの質問をした後で、診察ベッドの僕の枕元に立って、頭の上から僕の首を閉めるような格好で、両手を僕の首

          夜寝る時、お腹の上に黄土色のフォックスが寝そべってる想像をする

          どこからか、いつの間にか、フォックスは、いる。  夜に、ベッドに寝っ転がって、上を向いて、天井を見る。 天井は今日も面白くないから、目を閉じる。空気を、鼻からいっぱい、吸う。部屋の空気が、鼻からいっぱい、僕の中に入って、部屋が少し、小さくなる。吸った空気を、口からいっぱい、吐く。部屋は元の大きさに、戻る。目を開ける。半分だけ、半分くらい、目を開けて、見る。フォックスはいる。どこからか、いつの間にか、フォックスはいる。フォックスは黄土色で、ここに、僕のお腹の上に、こっちに、僕

          夜寝る時、お腹の上に黄土色のフォックスが寝そべってる想像をする

          ババア

           ばあちゃんとババアは違う。ばあちゃんはお母さんとか、おばちゃんとかを、年齢とか、場合によっては見た目とかのところで、通り越して、もっと先に進んだ人で、それは僕のイメージとして、だいたいそういう感じで、でもきっと僕じゃない他の人にとっても、なんとなくはそんな感じで、そんなに違わないんじゃないかと思うけど、それがばあちゃんで、でもババアってのはそれと違う感じで、イメージとして、きっと歳とか、場合によっては見た目とかは関係ないことがあって、若くても、まだ三十代くらいでもババアって

          マスクが欲しい

          私は笑ってる。普通に笑ってる。ぜんぜん普通。タイムラインが荒れてるだけ。ただそれだけ。タイムラインで荒れてるだけ。ウイルスが、ウイルスと、現政権への不満と、そんなものの変化形の、たくさんのいろいろで、タイムラインが荒れてるだけ。マスクは買えない。ただそれだけ。タイムラインを閉じてしまえばぜんぜん普通。目に見えないらしいけど、信じてないなんてことはなくて、だからタイムラインではちゃんと、適正に、あっち見てこっち見て、うろたえて、泣き散らして、叩き潰して、ちゃんと、適正に、タイム

          マスクが欲しい

          くるま

          映画で見るような、シェフの長い帽子をかぶったおじさんがジャンパーを着て、外で、ポストに郵便を入れていて、ただそれだけなのに何だかおかしくなってしまって、シェフの帽子って本当に長いんだとか、ジャンパーは着たけど帽子は脱がなかったんだとか、思って笑った。夜で、一人で、車で、信号で止まった時に。車には一人しか乗ってなかったから笑ったのも一人だった。その一人は運転席に座っていて、それは僕だった。運転席が車の真ん中についてないのはおかしいとずっと前に誰かが言った。ダッシュボードに突っ立

          バックドロップをしてる途中

          普段、あんまり見ないくらいに大きく空が見えていて、僕は宙に浮いている。バックドロップをされている途中のところだと思う。地面から足が浮いて、顔とか、体の前の面が上の、空の方に浮いているところだと、実は、バックドロップをしたのは、したというのは仕掛けたというか、バックドロップは一人じゃできないことで、それを成立させるには二人は、最低でも、いると思うんだけど、その二人のうちの、している方とされている方がいるとして、それはもしされている方がしている方に、俺をバックドロップしろ、と命令

          バックドロップをしてる途中

          夜、キッチン

          グラスが割れた。夜、キッチンで、暗かった。電器はつけてなかった。電器をつける前だった。電器をつけようと、頭で考えたわけではなく、半ば自動的に、体が、電器のスイッチに、壁の、手を、右の、伸ばそうとした時に、足元、裸足の、指の、爪、すぐ前で、耳は、僕の、音が、繊細な、と、後に、今になってそう、思えるような、砂が、の、イメージ、を聞いた。同じ時に、でもたぶん、前に、一瞬、小さな、インパクト、足は、の裏と、足は、の指は、床の、キッチンの、感じ、触感とか、冷たさとか、が、一瞬、動いた、

          夜、キッチン

          ハクビシン

          向こうの、道路の右っ側を女の人が、髪の長い、僕と同じ方向を向いて、僕と同じ方に向かって、交互に、右と左のパンプスを交互に、繰り返し地面に置いて 猫が それより手前の、僕のすぐ先の道路の左っ側、猫が、右から左に道路を横断し終えて、どっかの、家族の、家庭の、家の、駐車場に停まっている、外国の、見慣れぬ車の、前を覆っている、たぶん電動式の、でかい、真っ黒いゲートの、下に潜り込むために頭を、走りながら、ちょっとだけ下げた 電車が右から左へ向けて、二番線の、通過駅の、快速のスピードで