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「もう少しで人生が変わってたかもしれませんね」と医者に言われた話

6〜7年前だっただろうか、掲題のコメントを苦笑まじりに医師から言われたことがある。


ーーそもそも、何故そんなことを言われたのか?


ある晴れた夏の日、私は友人たちと朝から九十九里浜に来ていた。

雲ひとつない晴天の日にも関わらず、人はまばらで海水浴を満喫していた。

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一緒にいた友人は大学時代からの付き合いで、気のおけない仲で、久しぶりの再会の面々もいて、私のテンションは太陽と共に高く高く昇るだけだった。


波打ち際でビーチボールやボディボードで楽しんでいた際に、テンションが上がりすぎた私は調子に乗ってバク宙をした。1回目は回転がわずかに足りず、膝を少し砂浜で擦ってしまった。

今度こそと思い、2回目の跳躍ーーーと飛び上がろうとした瞬間、寄せてきた波が足に絡みつき、あっけなく私のジャンプ力を奪った。そうして2回目の跳躍は完全に回転が足りず、私は首から砂浜に落ちた。

(慣れないことはするもんじゃないな)

そう、私は体操部でも何でもないどころか、バク宙の指導なども一切受けたことはない。時々プールや海に飛び込む時に、後ろ向きに回転をつけて飛び込む程度の、ただのお調子者だった。

落下の衝撃は、そんなお調子者から次なるトライの意欲を完全に削ぎ落とすのに十分な威力だった。


その後は、飛び上がることもなく普通に海水浴とバーベキューを楽しみ、帰宅の途についた。


帰宅途中から、特にクシャミをする際などに背中にズキンという痛みがあったので、大事をとって翌日に通院することにして、その日は眠りについた。


翌朝も鈍い痛みは続いており、近くの整形外科を訪ねた。


診察してくれた先生はご年配の先生だった。
「どうしましたか?」
「はい、海でバク宙に失敗して首を強打しまして…」
恥ずかしさを堪えながら医師に伝えると、呆れたような、苦笑いを噛み殺したような、何とも言えない表情で「そうですか」と呟き、湿布薬を処方してくれた。

帰宅後、処方された湿布薬を背中に貼りながら、一抹の不安が拭えずにいた。


私は学生時代はずっと運動部だったこともあり、打ち身や捻挫などは慣れっこだったのだが、その時の痛みは過去にあまり感じたことがないような種類のものに思えたからだ。
(かなりの衝撃だったからかな)そんな風に自分に言い聞かせ、ザワつく気持ちを抑えながら、眠りについた。


翌朝、まだ痛みは引いていない。
会社を休んで、別の病院に行くことを決めた。

前回の整形外科とは異なり、大きめの総合病院を訪ねた。

簡単な問診の後、レントゲンとMRIを撮ることになった。もちろん問診の際には、医師は先日の医師と同様に複雑な表情を浮かべていた。まぁ、気持ちは分かる。

そんなこんなで思いもよらず、生涯初のMRI撮影が終わり、思いもよらぬ診察結果が医師の口から告げられた。

「第6胸椎と第7胸椎が圧迫骨折していて、さらに1箇所にヒビが入っていますね」


(胸椎が圧迫骨折!?!?!?)


恥ずかしながら、その時まで私は胸椎がどこにあるかも、圧迫骨折という言葉も全く知らなかった。


ばっくり言うと、背骨の一部が衝撃により潰れて折れてしまったとのこと。


私は骨折したらめちゃくちゃ腫れて発熱すると思い込んでいたし、背骨なんて折れようものなら、歩くことなど出来ないと思っていたので、まさか自分の背骨が折れているなんて、全く予想もしていなかった。

あまりに想定外の事態に思考がついていかず、呆けた顔で何度も医師に確認した。
「え?え?折れてます?え?」

もちろん何度聞いたところで、折れた骨が瞬間的にくっつくなんてことはない。

さらに衝撃だったのが、治療法である。
「ギプスとか付けるんですか?」
「いえ、背中にギプスは付けられないので、湿布薬を貼って安静にしておいてください。3〜4週間でくっつきますから」


(えっ?湿布だけ?)


「それだけでいいんですか?」
「はい。痛み止めを出しておくので、痛みが強い時は飲んでください。あと重たいものは出来るだけ持たないように。脊椎は大丈夫でしたので。あと少しで人生変わってかもしれませんね」


医師はサラリとそう言った。
確かにその通りである。私はただ運が良かっただけなのだ。ただ、色々な衝撃がありすぎて、その事実をうまく理解できなかった。


そこから4週間、再度通院してMRIを撮る。
医師が診察した通り、元通りくっついているとのこと。

(背骨って、湿布でくっつくのね、、、)


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人生、どこで何があるかは分からないものです。わずかな幸運とわずかな不幸の差が大きな転機につながることがあるかもしれません。
#塞翁が馬

みなさん、海でバク宙する際は十分にご注意ください。
#ちなみ私はシラフだったにも関わらず失敗しました

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