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「令和」を大予言。(短編小説付)


 2025年には、団塊の世代の方たち(以降アラセブと記します)が75才となり、高齢者の5人に1人は認知症、全人口の10人に1人は介護が必要、高齢者の約半分は貧困になると推定され…

 2025年問題というと、どうしても、深刻な話ばかりが目立ってしまいますが、2200万人のうちの8割は介護が必要な方もいるでしょうが認知症ではなくて、約半分の方は特にお金にも困っていない、子育ても、家のローンも終わって時間の余裕もあって、何より、アラセブの方は圧倒的に人数が多い。

 40~50代の方々といえば、働き方改革で、時間は増えたけど金は無し、かつてのように休み返上でがむしゃらに仕事するわけにもいかず、飲み屋に行くのもはばかられ、普段家事をしていなかった夫達は、家に居ても煙たがられないよう家事に勤しみ、家計は夫婦共働きでも、家のローン、子供の学費であっぷあっぷ。
 一方で、ずっと独身、引きこもっている方も多いらしい。
 そして、その子供達の若い世代は、そんな親の姿を見て、地味に堅実志向。
スマホさえあれば、それで満足していそうです。

 新しく始まる『令和』、新しい時代のトレンドの中心にいるのは、もしかすると若者たちではなく、アラセブの方たちかもしれません。
 友人や連れ合いの死に直面し、自分たちに残された時間がそんなに多くはないことを、しっかり自覚された方々が、自分たちのQOLを、どのように向上させていくのでしょうか?

-『令和』のトレンドキーワードは

生きているうちにもう一度』

ボクが予言する『令和』を、一足先にご紹介いたしましょう!



★介護入所施設に、ライブハウス併設型が登場。即、満室御礼に!

 通所施設には、バンドの練習・音合わせに通う感覚。福祉施設に防音スタジオがあるのは、もう当たり前。


 認知症予防のために、チーチーパッパと童謡に乗せて指を動かしたり、体操したり、収録曲が古い曲しかないカラオケで歌う程度、たまに行われるボランティアの素人手品や素人劇、そんなレクでも、戦争を経験した世代は、それでも従順に、慎ましやかに楽しむかもしれません。

 ところが、福祉施設の利用者の方々も、だんだんと、戦争を知らない子供たちが中心となってきます。

 アラセブの方々の中には、元ロックンローラーはいっぱいいます。
 若い頃、ビートルズに魅了された人々、「二十歳の原点」を読みながらジャズ喫茶に入り浸っていた人々、諸口あきらさんを、「アニイ」と呼んでいたカントリー好きな人々、石原裕次郎さんはヤクザなドラマー…

 そんなやんちゃなアラセブが、チーチーパッパとカラオケで、満足するわけがありません。
 
 プロ並みの腕前があったのに、諸事情で音楽の道をあきらめていた方が活動を復活、そんな方たちばかりではありません、
♪もしもピアノが弾けたなら~
と、楽器演奏にあこがれていた方々が、1からスタートし始めるのです。
 中学で初めてギターを手にして、高校を卒業する頃には、いっちょまえに人前で演奏してました、なんて良くある話です。
たとえ70歳で始めても、75歳にはもうプロ並みの腕を持つ方が現れるかもしれません。

♪たがいにギター鳴らすだけで、わかりあえてた、奴もいたよ

 バンド演奏を通じての絆をお持ちの方にとって、その活動を維持することは、とても大事なQOLなのです。

あの頃の僕らは、美しく愚かに、愛とか平和を詞(うた)にすれば、それで世界が変わると信じてた…

の世代は、『あの頃の僕ら』に戻りたがっているのです。


 

★ 母の日のカーネ―ションのように、父の日はホタルが定番に。

 ホタルが鑑賞できる、都会から日帰り可能な近郊の温泉、介護・看護人常駐サービスが大人気!


 6月、ホタルのシーズンは父の日と重なることが多いようです。
 ボクの予想では、『令和』の時代、「父の日」「ホタル」がしっかり関連付いて、「父の日=ホタルキャンペーン」が大々的に展開されるでしょう。

 もし将来、うちの娘たちが結婚する相手が義理堅い方で、義理のお父さんへのプレゼント選びで悩ます事が起こるかもしれない、こちらの方から先に、

「父の日には、ホタルを見に連れて行ってくれんかね…」

とリクエストしてあげたい。

 自分で動けなくなって手間をかけてしまう時が来るかもしれません。
けれど『令和』には、ホタルが鑑賞できる都会から日帰り可能な近郊の温泉が展開する「父の日=ホタルキャンペーン」が全国的に流行になり、介護保険外だけれど、「介護福祉士・看護士が常駐で、ホタル狩り&温泉のサービスが受けられる!」なんて温泉が当たり前になっていることでしょう。

 そして、ボクがこの世からいなくなって、でも、娘が孫たちとホタルを見に行くこともあるはず。
 そんな時、ホタルの中には、孫にまとわりつくのがいたりする。

「このホタル、私の事が好きなのかな?」

なんて孫が言うと、

「もしかしたら、そのホタル、おじいちゃんかもしれないわね…」

娘が言ったりする。

 それを聞いた孫はうなずいて、ホタルに向かって話しかける…

「おじいちゃん、私、頑張るからね!」

 何を頑張るか知らんけど、そんな風にボクの事を偲んでくれたら嬉しいじゃぁありませんか!
 「令和」の時代も、日本という国が、父の日に家族でホタルを楽しめる国でありますように!



★鉄道模型のテーマパークがOPEN!

Nゲージ、プラレールが脚光を浴び、40~64歳引きこもりの人達が 仕事を始めだす!


 多くの「鉄道マニア」にとって、年齢差、社会的地位、容姿は、人間としての存在価値としてほとんど意味を持たず、そのリスペクトの対象は、鉄道に関する知識や嗜好、一概に価格だけで表現できない所有するコレクションの貴重さ等にあるようです。

 昭和の終わり頃、それぞれを「おたくは?」等と呼びあうことから、この「鉄道マニア」を含めて、ホビーにのめり込む男性をさして、陰気で、コミュニケーション能力のない、女性にモテない男性たちというイメージも伴って植え付けられた、「ヲタク」という言葉が生まれました。
 最近ニュースで話題になっている40~64歳の引きこもりの方々は、「ヲタク」という言葉が出始めたころが多感な青春時代、そんな時期に「ヲタク」と呼ばれ、女性から蔑まれて、疎外感から引きこもった方も多くいるのではないでしょうか?
 だからといって、多くの「ヲタク」の方々は、決して、その趣味を捨ててしまったわけではありません。
 引きこもるまではいかない方でも、平成の間は、「隠れヲタク」となって、日常から離れた時だけ、こっそりと、そして、一旦、鉄道模型の世界に入るやいなや、ひとりで楽しい笑顔に変身していた方も多いのです。

 「アニメヲタク」と呼ばれる方々は、「平成」の中ごろから、秋葉原や日本橋あたりから芽を出してきていましたが、「鉄道ヲタク」の方々にとっては「平成」は暗黒の時代、その「平成」は幕を閉じます。

 新しい時代「令和」になって、それまで、生活・仕事に追われていたアラセブの方たちに、ようやく自分の時間ができ、物置の奥に大切にしまわれていた鉄道模型の封印が解かれ、その輝きを取り戻しはじめます。

 ボクは、この、蘇ったアラセブ「鉄道マニア」が、同じ「鉄道マニア」の40~64歳引きこもりを、外へ引っ張り出してくれるのでは、と期待しています。
 
 40~64歳の引きこもっている方々も、部屋では、SNSで外の様子を覗っているはず。
 年齢差、社会的地位、容姿なんてどうでもいい空間が現実にでき始め、たくさんの方が楽しく語り合っている、そんな「鉄道マニア」が集う場所が、アラセブの方を中心にあちこちに増えてきている、近くにある、という情報を得たら、行ってみたい、その人たちとなら一緒にいたいと、思うようになるのではないでしょうか。

 最近は、鉄道好きを公言する女性も多く、「鉄道マニア」「鉄ちゃん」として、広く市民権を得るようになってきました。
 『乗り鉄』『撮り鉄』と比べると、鉄道模型は、まだまだ、男性特有のモノというイメージがありますが、それでも、リスペクトされはしても、以前のように、疎まれることもなくなるでしょう。

 最近、大型のショッピングセンターで、鉄道模型の専門店を見かけるようになりました。
 休日の鉄道博物館は満員です。
「令和」になったなら、ますます鉄道ホビー関連の市場は広がっていきます。
 鉄道模型に特化した、テーマパークが誕生する日も、そう遠くはないでしょう。

 社会的地位や経済力が無いと入れない料亭があるように、鉄道に関する知識が低いと入れない鉄道ホビーを語れる店、も当然現れそうです。
 そんな店なら、たとえ何十年も家に引きこもっていた方でも、鉄道への情熱を語れるなら、服装がダサくても無愛想でも、それも味、一躍その店の看板スタッフとして、やりがいある仕事が持てる時代がやってくるのです。



★北の大地を走るイージーライダー

千歳空港近くのレンタカー屋さんで、サイドカー付き大型バイクの貸出しが大人気!


 ボクの住んでいる町は、県境近くの山の中腹にあり、休日ともなると、近くの道の駅は、ライダーたちの休憩場所になります。
 そのライダーたちをよくよく見ると、けっこうお歳を重ねた方々が多く、一番若い方の人でも40代位と、お見受けします。

 アラセブの方の中には、かつてのライダー仲間が、要介護で車椅子になっているという方もいるでしょう。

 イージーライダーを観て憧れて、かつて仲間と一緒に走った、どこまでも続くまっすぐな道を、もう一度走りたい。
 友が車椅子というのなら、そいつをサイドカーに乗せて、俺が走ってやろうじゃないか!

『令和』の時代に、「生きているうちにもう一度シンドローム」が、きっと巻き起こります。



★旅マガジン『令和の旅人』が創刊!

創刊号の表紙は、スナフキン。
日本国内を、ゆっくり巡る一人旅をコンセプトにした雑誌が大増刷。
(アラセブには、やっぱり紙ベースの情報です)


「生きているうちにもう一度シンドローム」は、イージーライダーだけにとどまりません。

・若い頃に、集団就職で都会へ出て、もう、何十年も故郷に帰っていない…
生きているうちにもう一度、故郷の景色を目に焼き付けたい。

 ・長年連れ添った配偶者に旅立たれ、独り身になってしまったけれど、ライブハウスで知り合った方との新しい恋の予感。
生きているうちにもう一度、燃えるような恋がしたい、亡くなった配偶者との想い出を断捨離するために、昔、新婚旅行で行った宮崎のフェニックスの木陰を一人で歩いてみる。

・若い頃、大きなバックパックを背負って日本国中を旅した元カニ族が、もう重たい荷物は辛いけれど、生きているうちにもう一度、新しい出会いを求めて旅に出る。

 アラセブの方々の国内旅行のブームは、間違いなくやってきそうです。

♪愛する人と巡り合いたい どこか遠くへ行きたい

 元カニ族が、定宿としていた代表格はユースホステル。
 安価で、旅人同士の交流が可能で、宿泊客の素性が登録されているようなスタイルの宿がきっと現れるでしょう。
 日本の国内旅行は、星野リゾートのような施設でゆったり過ごすスタイルと、かつてのユースホステルのような宿泊施設を巡る旅人スタイルに2極化していくのではないでしょうか。



★ 民泊フランチャイズの全国ネット

 過疎の空家だらけの限界集落が、日本の秘境として観光資源に!


 近年空き家の増加が問題になってきています。一方で、海外からくる観光客の増加に伴い、宿泊施設の不足が問題になっています。
 泊まりたいという需要があるのだから、空いている家を供給すれば、ウィンウィン。
そう考える旅行業者が、近々に現れることでしょう。
 旅館や民宿のように、宿屋として食事の提供等をするのではなく、ただ、空いているときに空家・部屋を貸すだけのスタイル、空き家の持ち主をフランチャイジーとして、負担の少ない運営のノウハウ伝授、宿泊客の予約手配・支払等は運営側が管理・展開すれば、日本全国いたるところに民泊施設が生まれ、例え辺鄙なところにあろうとも、それはそれで、元カニ族や、イージーライダー御愛用の宿となりえます。
 また、大きな空家を、「民泊シェア」するスタイルもめずらしくなくなるでしょう。



★こだわりの「ミンカフェ」ブーム

憧れの根底にあるのは、朝倉南のお父さんのようなライフスタイル。


 そろそろ、仕事で現役引退が見えてきたおじさんたちが描く憧れのリタイア後、田舎の古民家を安く手に入れて、自分なりにDIYして、気に入りのレコードを流しながら、お客さんは店を気に入ってくれる人だけで構わない、そんな隠れ家のようなカフェを開く…
(人によっては、お好み焼き屋だったり、おでん屋だったり、飲み屋だったりするのかもしれません)

 古民家物件を、わざわざ手に入れなくても、親がいなくなって空家になった実家だったり、子供達が独立してガランとしてしまった築50年近くなる我が家の一部を改装する手も。
 また、奥さんが趣味で始めた菓子作りや料理の腕が、生徒を集めるくらいになっていたりしていたら、ちょっとしたスイーツ屋さん兼スイーツ教室にしてみたり、旦那さんが作った野菜で、週に3日だけ、新鮮なサラダを添えたランチの店を開く。
 初期費用は多少掛かるけれども、人を雇ったり家賃が無い分、起業へのハードルは低いかもしれません。

 個性的なお店が、あちこちに生まれだして、常に営業しているわけでない様々な古民家のカフェを探索するブームが到来、ミンカフェラーのインスタグラムのフォロワー数が6ケタを超えるような時代がやってくる日も近いでしょう。



★『ブーメラン族』の、ドローン狩りが社会問題に!

玩具業界に空前のブーメランブームが到来。
一方で『ブーメラン族』と呼ばれる、やんちゃなアラセブたちがブーメラン片手に宅配ドローンを略奪する。


 玩具・雑貨業界の片隅にしがみついているボクの、ただの予感です。
実は、この『令和』の予言の中で、このブーメランブーム到来だけは、かなり当たりそうな気がしているんです。




(小説)
令和6年 介護施設に併設されたライブハウスにて




 このライブハウスに初めて来た頃は、お客は年寄だらけだったけれど、今日は、若いカップルも何組か見かけられた。

 ソロでギターを弾いているのは、若い頃、狭い三人部屋の会社の寮で一緒だった、健介だ。

 若い頃から器用だった健介は、初めてギターを手にしてからまだ5年だというのに、ライブステージで、こずかい銭くらいは稼げる腕になっていた。
健介には、ファンクラブもあって、オッカケのような女性もいるらしい。

 健介は、若くして奥さんを亡くし、娘さんも結婚して家を出てしまい、独り身の気ままな暮らし。
 まだまだ女性を惹きつける色気があるのは、奏でるそのメロディーだけではないのかもしれない。


 ステージから降りてきた健介に声をかけた。

「相変わらず、盛況だな!
車椅子でも、演奏には関係ねえよな。かっこよかったぜ」

 健介は、「要支援2」らしい。
家の中では、歩行器を使えば、なんとか歩けるらしいが、屋外での移動は全て車椅子だ。
 そんな車椅子での一人暮らしを心配して、娘の旦那さんは、一緒に住もうと言ってくれているのに、
「介護保険は使ってるけど、まだ、一人でなんとかやっていけてるんだから、いいじゃないか」
と、娘夫婦の世話になろうとはしないらしかった。




「山田先輩、覚えているかぃ?」

 健介と若い頃過ごした、狭い三人部屋の会社の寮には、もう一人、2年先輩の山田さんという人がいた。
山田先輩は、母親の介護のために、定年前に会社を辞めていて、もう、何年も音信不通のままだった。
 ところが、数日前の事、突然その山田先輩から、FACEBOOKの友達申請があったのだ。
懐かしくて、メッセンジャーで何回もやり取りをした。
 お母さんは、2年ほど前に亡くなられたらしい。
今は、田舎の実家で、ミンカフェというのをやっているのだそうだ。

「メニューなんかは、料理学校の先生までしていた奥さんが考えているらしい。
先輩は畑仕事担当だそうで、ランチに使う野菜なんか作ってて、不便な田舎なのに、インスタみて来たって客が増え出して、最近、スナフキンが表紙の旅雑誌でも紹介されて、けっこう繁盛してるんだって!
コーヒー淹れるのが上手くなったって、自慢してたよ」

「あの、山田先輩が?」
 健介は、驚いた顔をしている。
若い頃の山田先輩は、真面目でおとなしい、部屋では鉄道模型ばっかりいじっていた、ちょっと変わり者だったのだ。

「カフェのページで画像をあげてるんだけど、カフェの横にある蔵を自分で改造して、立派なNゲージのジオラマが作ってあるんだ。
 最近できた、銀河ナントカっていう鉄道模型のテーマパークにも置いてないような、レアなやつを走らせたりしてるんで、好きな人は、遠くからでもやってくるんだって。
近くに列車が撮れる絶好のスポットもあって、車で連れて行ったり、ガイドもしているらしい…」

 健介は、あの山田先輩が、そんなにアクティブなのが信じられないようだった。
「山田先輩、確か、お子さんはいなかったし、奥さんと二人だけだろ、大変そうだな」

「人も雇ってるらしいよ。
 なんでも、ひょっこり一人でやってきて、鉄道模型のジオラマを何時間もじーっと見ていた50前の男が、突然、ここで住み込みで働かせてくださいって、で、最初は、気味悪かったんだけど、話してみると結構気が合うので、そのまま、居てもらってるんだって。
そいつが、今では『生きジコク』と呼ばれて、評判になってるらしい」

「なんだい、その『生き地獄』って?」

「今までの、国鉄の頃からの時刻表を全部憶えていて、たとえば、お客さんから、『高校の頃、島根まで各駅停車で旅したなぁ』なんて話を聞くと、その列車の名前とか運行時刻とか、どんな車両だったか、すぐ答えてくるんだって。だから、地獄でなくて『生きジ、コ、ク』」



 そろそろ、今日来た目的の本題に。

「おもしろそうだろ!
でさぁ、梅雨が明けたら、一緒に先輩のとこまで、行ってみないか?」

「簡単に言うなよな。無理だよ。
もうオレ、膝が使いもんになんないし、外では、ずっと車椅子だよ。
昔のようなわけにはいかないさ…」
 健介は、寂しそうに笑いながら、そう言った。

「カミさんが施設に入ってしまってから、また、バイクに乗り始めたんだ。
いろんなとこ行って写真撮ってインスタにアップして、結構フォロワーがいるんだぜ。
 最近、近所のレンタカー屋が、サイドカーを扱いだしたんだ。それ、借りるさ。
俺の横じゃ、イヤか?」

「ありがたい話だけど、先輩の実家までなんて、日帰りというわけには行かないだろ。
泊まるとこなんて、無いんじゃないか」

「過疎で、周りは空家だらけ。それが、最近流行の民泊になってて、そこへ素泊まりで安く泊まれるように頼んどいたよ。
山田先輩が、知り合いに頼まれて、そんな民泊をフランチャイズでやっているそうなんだ。
メシは、奥さんに頼んで、店、開けてもらうよう、お願いしてもらった」

 健介は、呆れ顔で、
「なんだ、そこまで話ができているのか! 
ありがとうよ。
 鉄道好き以外が行くような、観光名所とか、なにかあるのかい?」

「何にもないよ。
 でも、それが好都合なんだ。
 オーストラリアにいる息子が『ホントに狩りで使ってたブーメラン』っていうのを送ってきたんで、それを、ちょっと、試してみようかと思ってるんだ。
 近頃、町中で、本格的なの投げてたら、ドロボーか?と怪しまれるようになって、おもちゃのばっかりで遊んでるんだ…」

 健介は、大笑いしている。
「連れてってもらうついでに、一つお願いしていいか?
ちょっと、遠回りになるけど、俺が、中学まで過ごした村があるんだ。そこへ、寄り道してくれないかな?
 もう誰も知り合いもいなくて、すっかり変わってしまっているかもしれないけど、生きているうちにもう一度だけ、子どもん時の景色を、目に焼き付けときたいからな」

 「そんなお願いなら大歓迎だ。楽しいツーリングになりそうだ」



 
 帰り支度をしはじめた健介に、訊いた。
「今夜は、ヨコで、ショートステイかい?」

「いや、今日は娘の旦那さんが、ホタルを見に、温泉に連れてってくれるんだ。
孫も、連れてきてくれる」
孫の話になると、さっきまでの男の色気はすっかり消えて、やさしいおじいちゃんだ。

「オレは、これから、コンビニでアルバイト。
ガソリン代、稼がなきゃな。
じゃあな。娘の旦那さんと、かわいい孫に、よろしく!」




 コンビニへ向かう道すがら、介護施設に預けているカミさんの事を考えていた。

 今度、あいつをサイドカーに乗せて、走ってみるか。
次の日、あいつが忘れてたって、かまやしない。
オレが、あいつと走ったこと、ちゃんと、覚えててやる。


(おしまい)


歌詞引用…『もしもピアノが弾けたなら』西田敏行・作詞 阿久悠
『Ya Ya (あの時代を忘れない)』サザンオールスターズ・作詞 桑田佳祐
     『五線紙』 竹内まりや・作詞 松本隆
     『遠くへ行きたい』 ジェリー藤尾・作詞 永六輔

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