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入浴中しょんぼり息子が放った本音

何気ない言葉ではあったけど、私たち親子にとっては大事な一コマだった気がする。今回は入浴中のお話。

いつもの3人

主人はいつも帰ってこない。同じ会社に勤めているので仕事で遅いことは明白なのだが、平日の22時に家にいれば早い方。当然その時間まで待てないから、いつも私と子供たち二人の計三人で入浴をする。

以前は休日くらい父ちゃんと入ろうか、ということもあったけど、最近はめっきり少ない。父ちゃんは朝シャン派なので、なかなか夜に入りたがらないのである。主婦の方はお分かりかと思うが、洗濯のタイミングやらお風呂掃除のタイミングも全部ずれる。私としては夜に入ってほしいのだが、頑として譲らない。私はしぶしぶ許容している。

そんなわけで、とある休日も父ちゃんは家にいながら私と子供二人のいつもの3人で入浴することになった。父ちゃんが家にいるときは私が先に浴室に入る。メイクを落としている間に子供たちはリビングで父ちゃんと服を脱ぎ、はだかんぼうでパタパタとやってくる。たいてい、ドンドン!とたたいて無言のアピールは1歳の娘で、「○○くんがきたよ~~!」と走ってくるのは3歳児の息子。擦りガラス越しに見える肌色の小さいシルエットはいつもかわいい。

絵本とイタズラ

私が自身を洗っている間、子供たちは湯舟に入ってキャッキャと遊ぶ。お湯の中で読める絵本を読むこともあるし、スポンジのような素材でできた魚やカニを壁にペタペタ貼ることもある。じょうろにお湯を入れて注ぎあいっこをしてみたり、器にお弁当を盛り付けてご飯屋さんになることもある。お風呂の中はいつも自由だ。

この日はどういうわけか、ずっと息子はしょげていた。声もださず、黙々と湯舟からお湯を掻き出していく。「お湯が減っちゃうよ~!ママも入りたいから、お湯を外に出すのはやめてほしいなぁ」無言で息子はうなずいた。

洗い終えた私も湯船に入る。狭い縦長の湯舟に子供二人と入るのは割と窮屈ではあるのだが、この密着もまた幸せ。私が入ると息子は湯舟の外に出た。入らないの~?熱くなったかな?と声をかけるが、相変わらず無言である。私は絵本を娘と楽しむことにした。

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まだ絵本への集中力は皆無に近い娘だが、機嫌がいいのか一緒にページをめくって「ばぁーー!」「きゃああー!」と叫んでいた。珍しく機嫌がいいなぁと私もルンルンでいたら、突然息子がまた湯舟からお湯を掻き出し始めた。それがあまりにも乱暴で、ガンガンと音を立てながらお湯をどんどん出して行く。

「さっきもお願いしたでしょ!なんでまたやってるねん!しかもガンガンいうたらお風呂こわれるやんか!優しくしてねってお願いしてるのになんでそんなにガンガンいうねん!」

ああ、遂に怒ってしまった。しかも猛烈に言葉を並べてしまった。言った瞬間に私もハッと我に返ったものの、言葉を引っ込めることはもうできない。息子は桶を握った手をだらんと垂らし、コチラをじっと見ていた。でも、やっぱり何も言わなかった。

2人時間の本音

娘はまだお風呂に入りたかったらしい。のけ反る娘は主人に託し、浴室の中は二人きりになった。相変わらずふてくされている。

「おいで」

呼んでも全然動かない。

「そこは冷えるよ。ママと入ろう。早く入っておいでよ。一緒に入ろう?」

桶を置いて、黙ってそーっと入ってきた。でも、まだ離れた場所にいる。縦長の湯舟なので、お互いが向き合うように浸かっていた。「こっちにおいでよ。」こんどは私の上にてろーんと浮かぶように仰向けに寄ってきた。

抱き寄せて聞いてみた。「ねえ、なんでしょんぼりしていたの?」

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何も言わない。聞き方を変えてみた。

私「ママに怒られたのが嫌だった?」
息子「ううん、嫌じゃなかったよ」
私「そうかぁ。じゃあ○○ちゃんと絵本を読んでるのが嫌だった?」
息子「ううん、絵本は嫌じゃなかったの」
私「そうかぁ。じゃあどうしてずっとしょんぼりしてたの?」
息子「…嫌だった」
私「何が嫌だったの?」

また、黙ってしまった。さらに聞き方を変えてみた。

私「ママね、みんながお風呂に入ってくる前のこと、わからないんだ。先に入っちゃってたからさ。お風呂に入る前に、何かあった?」
息子「父ちゃん」
私「父ちゃん?父ちゃんの何が嫌だったの?」
息子「父ちゃんに怒られたの」
私「そうかぁ。父ちゃんに怒られちゃったのか」

詳しくは言わないけど、たぶん早く服を脱がないから怒られたのだろう。大好きな、しかも滅多に一緒に過ごせない父ちゃんと本人はじゃれているつもりだったに違いない。相当なショックだったようである。その後、突然吹っ切れたように息子の表情が笑顔に切り替わった。

息子「よし!じゃぁ○○くんの頭洗おっか!」

頭を指さすヒョウキンな仕草と言葉に、思わず私は笑ってしまった。

かとみさの本音とこれからの育児

3歳児とは言え、まだまだボキャブラリーは少ない。経験も少ない。そんな中で今回の場合、彼が選んだのは「言わない」ということと「お湯と浴槽への八つ当たり」だった。

心の中で引っかかっていた彼のもやもやは、本人にしかわからない。だけど、今回のことで私が意識をしていたことは、ゆっくりと「彼の言葉を待つこと」と、「Yes/No で答えられる質問を挟む」ということだった。そして最後に、本音を教えてくれた後は「評価をしない」。教えてくれたこと、嘘をつかずに心を開いてくれただけで、もう満点である。私はそう思うことにしている。

3歳児だって立派な人間!とはいいつつも、嫌という感情だって「嫌という言葉」と結びつくまでには時間がかかる。少しずつ気持ちと言葉を結び付けながら、新しい自分自身の表現方法を身に着けるしかない。こればかりは急いでも仕方がないのだが、大体の大人は焦っているように思う。主人もまた、然り。

なにか子供たちとコミュニケーションがうまくいかないとき、大人は言葉で制してしまう節がある。言いくるめたとてその場はうまくいったとしても、子供たちの心にはきっともやもやがくすぶるはずだ。それでもそんなもやもやが積み重なって、いつか本当のことを言ってくれなくなることの方が私は怖いと思っている。

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「子供が心苦しいときに打ち明けてもらえるような存在になりましょう」言葉ではそういうアドバイスは簡単である。でも、言うがやすし行うが難し。子供の心の奥底の言葉を引き出しつつこの存在であることをキープする、ということ。実は相当に大変なことである。

子供たちが大きくなるにつれ、大人側の言葉の選び方のセンスだって問われるだろう。なかなか本音を言ってくれるわけもないし、無理にこじ開けようものなら逆効果にもなりかねない。でも、試行錯誤はしながらも、子供の心にだけは絶対に寄り添う。この芯だけはぶれてはいけないと思っている。私のやりたいことの押し付けにならないようにするバランスは難しいなとも思うけど、この繰り返しが遠回りのように見えて一番の近道だと信じている。まあ、育児に近道なんてないんですけどね。

20歳になっても、おかんにはほんまのこと言うね、と言ってもらえるような存在でありたい。そんなことを思ったその夜。「○○くんね、ママのことだいだいだいだい、だーーーーーーーーーーーいすき!ちゅ!」私に盛大なハグとキスをして、「おやすみー!」

彼は5秒で眠りについた。




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