見出し画像

世界農業遺産にも認定!日本で唯一継承される椎葉の「焼畑」

椎葉村が日本三大秘境と呼ばれる所以ゆえんにはいろいろな“ワケ”があると思います。
コンビニがない。信号機が一つしかない。山々が反りたつほどの奥地。平家落人伝説がある。神楽が村内26ヶ所で継承されている……などなど。

その中でも、欠かせないキーワードがあります。それが「焼畑」です。

縄文時代から続く伝統農法である「焼畑農業」を日本で唯一今も継承し続けているのが、ここ椎葉村です。農薬や肥料を使わず、山の斜面を焼いた灰によって土壌を豊かにし、様々な作物の輪作栽培を行っています。

焼く場所を毎年移し、焼畑をしたその年にはソバ、翌年にはヒエやアワ、そのまた翌年には小豆、大豆と、順番に4年間作物を栽培して農地利用した後、20年〜30年程度の休閑期間を設けて山に返します。

ここで、焼畑の手順を簡単にご説明します。

①やぼきり
火入れする土地の木々を前年秋〜冬にかけて伐採します。伐った枝などは集めて積んでおき、火入れの際に燃えやすくしておきます。

②火入れ
やぼきりしておいた土地に火を入れます。時期は8月初旬頃。周辺の山へ火が移らないよう、火入れする面の外周の草木を刈って防火帯を作っておきます。火入れの前には唱え言で山の神に祈りを捧げ、お神酒を差し上げます。

③種まき
火が収まった直後、まだ地面の熱いうちにソバの種をまきます。そうすることで、種が熱によってはぜ、発芽しやすくなるのだそう。種をまいた後は、竹やほうきなどで種と灰をサッと混ぜます。

種まきから2〜3日もすると小さな芽が顔を出し始め、30日前後で小さな花を咲かせます。山に現れる一面真っ白な花畑は本当にきれいです。

ソバは種まきから数えて「75日目の夕食に間に合う」と言われるほど、収穫までの実りが早い作物。8月の初めに種まきをすることが多いので、収穫時期はだいたい10月中旬あたりになります。

このようにして、焼畑をした土地で育まれる作物は、焼けた灰によって土壌がよくなるおかげで、実りも豊か。そして様々な作物を作り、山に返す作業を毎年あちこちの土地で繰り返していくのです。

このようにして自然と共生する循環型農法である焼畑は、かつては日本各地で行われていたそうですが、時代の流れと共にその姿を見ることができるシーンめっきり減りました。そんな中でも、椎葉ではこの焼畑が継承され続けてきたのです。

それは、椎葉が急峻な山々に囲まれていて平地が少なく、米や他の作物を作ることが難しい環境だったから。確実に収穫物を得られる農法こそが焼畑でした。焼畑は、椎葉の山で人々が生き抜くための糧であり、自分たちを生かしている山への感謝と敬意の表れでもあったのだと思います。

そして時代は移り変わり、現在では「高千穂郷・椎葉山地域の山間地農林業複合システム」として2015年に世界農業遺産に認定され、椎葉に残る焼畑の価値は世界的にも見直されています。まさに今世の中で叫ばれているSDGsの価値観が、実は大昔から椎葉には根付いていて、今も失われてはいないのです。

これから先の時代も、この秘境の地が本来の在り方を失うことなく、日本の原風景を残していくという意味でも、この焼畑を守っていかなければならない。椎葉村民はそんな使命感を胸に秘めています。

執筆・中川薫(https://note.com/kaoru_nakagawa/

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?