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読んだことを忘れたくない あるいは読み返したくなるはずのお話

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活字の海を波乗り中に見つけたお気に入りの記事を残しておく自分用の文集。本棚の片隅に並べて、その背表紙を眺めているだけで申しぶんのない時を過ごせるような小さな出会いの積み重ね。
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#エッセイ

生きているうちにしかできないこと

残りの人生がどのくらいか、なんて考えるようになったのは、40歳になった時だったと思う。それまでは死ぬのがすごく怖かったけど、それは自分にとってかなり先の未来であったからこそ、怖かったのかもしれない。 先が見えない恐怖、とでも言うのだろうか。 40歳になった時、人生折り返しだと思ったのは、鮮明に覚えている。今までそんなことを考えたこともなかったから。今まで生きてきた年数よりこれから先の方が短いかもしれない、と言う切実な感覚はあの時が初めてだった。 さらに年齢を重ねて、周囲

焦らせるな、社会よ

社会に「憤りを感じ」ている暇はない。 その間にも、私の大事な時間は流れていくからだ。 転職サービスで、「圧倒的成長」を標榜するヘッドハンター達に、「怒り」を覚えたりはしない。 なぜなら、私自身そのサービスに21歳の時から登録しているからだ。 だが、どうしても「自己責任化」が止まらない日本社会に、日々勝手に「焦り」を感じさせられてしまっている自分がここにいる。 これは「自然発生する焦り」ではなく「社会的に醸成された受動型焦り」なのだ。何もしていないことに対する焦りではない。何か

香港の海鮮料理店のおじちゃんの一言で、転職を決めた話

「すみません……お茶のおかわりください」 辺りをキョロキョロ見渡しながら、私は慣れない広東語でホールのおじちゃんに声をかけた。 日本との時差がたった1時間なんて信じられないくらいの別世界・香港にある小さなレストランで。 外国語を使うのは、とても勇気がいる。 賑やかな場所で、大きな声を出すのが嫌だからか。日本人であることを、なんとなく隠したいからか。もし間違っていたら、恥ずかしいからだろうか。 「はいよー! さっきと同じポーレイ茶だよね? 今持って行くよ!」 おじちゃん

ヒーローのヒーロー

初めて、ヒーローになりたいと思った。 小学1年生の時。 ピンチの時にかけつけてカッコよく敵をやっつける、漫画に出てくるような正義のヒーロー。 強いだけじゃない。優しくて、前向きで、一瞬で周りの空気を明るくしてしまうような人。 その存在を思い出すだけで勇気が湧いてくるような、太陽みたいな人。 男性的なイメージが強いけれど、そんなの関係ない。 女だって、ヒーローになりたい。 私が本気でそう思うようになったのは、彼女との出会いがきっかけだった。 いつだって、君のヒーローでい

女子高生の私が大好きな家庭科の先生に裏切られた話

家庭科の授業ではいつも先生に驚かされる。 その日も私たちは週に一度の楽しみとして家庭科室へやってきた。体験的な授業を多くされる先生だったため、座学は久々だった。今日は何をするんだろうと期待に胸を膨らませながら筆記用具を手に席に着くと、先生は言った。 「今から小テストを始めます。」 先生のその一言は、これから始まる楽しい時間の終わりを宣言したも同然だった。 テストという単語は我々学生にとって、条件反射で嫌悪感を抱いてしまう存在である。筆記用具だけを持って来させたのはこの為

『他人も自分と同じ感覚だろう』という考えを捨てたら人生楽になった。

「なんかこれ好き」「なんかこれはいやだ」 多くの人がこの感覚を持って、そしてこの感覚に従って、 選択したり、発言したりしていると思います。 その好き、きらい、苦手、気になる、の感覚が だいたいみんな自分と同じと思い込んで過ごしていました。 この思考はかなり疲れるし、ときに危険なもので、 この考えを捨てることによって人生が劇的に変わったので 書いてみたいと思います。 ・『他人も自分と同じ感覚だろう』とは 学生のころ嫌いな先生がいたり、校則に納得していなかったり、社会人に

世界からなにも消えないとしたら

かたちあるものは、いつかなくなる。 春の夜の夢のごとく。 風の前の塵のように。 それは感覚としてわかっているはずだったけれど、地学の授業で星の一生を学んだとき、本当にそうなんだなと感じた。 星が辿る道は、大きさによって異なる。 軽い星は、少しずつ終わりを迎える。 重い星は、星が一気に潰れ、超新星爆発を引き起こす。 先生は淡々と語り、私も平然とノートをとっていた。 でも、わずかに、目の前が、揺れた。 星もいつかは消えてしまうのだと知って。 星の一生は、人間の命

社会人まいご

新卒入社から3ヶ月。 「働く」ということがわからなくなってしまったので、いったん会社を辞めました。 * 好きなことを仕事にして全力投球するか、仕事は生きる手段として割り切り、プライベートの時間を充実させるか。 昨年、就職活動をするにあたって、目の前にあるのはその二択だと思っていた。 どっちかしかないから、どっちかを選ぶしかない。強迫観念のようにそう思い込み、しかしほとんど迷うことなくわたしは前者を選んだ。 そこで、編集者を志して就職活動に励んだのだがうまくゆかず

思い通りにならない世界だからこそ、努力で変えられるものくらい変えてしまおう

高校入学したてのとき、クラスの学級目標を先生が与えてくれた。 約10年前のことだが、印象的だったので鮮明に覚えている。 【過去と他人は変えられない、だから未来と自分を変えよう】 というものだった。当時の私は早くも音楽の世界を通して世の中の理不尽さを痛感していたのできっと心に留めていたのだろう。 この言葉を胸に頑張ってきた。 私が人生にひどく絶望していたとき、親友から 「生まれた場所、周りの環境なんて自分の努力では変えられないから、だからこそ自分の努力で変え

全財産を使って外車買ったら、えらいことになった

12月19日 追記 こちらの記事が、とんでもねえ経緯と熱量で、英語ほか10言語に翻訳されました! 英語翻訳された奇跡の舞台裏note 英語翻訳版の記事 全財産の内訳は、大学生の時からベンチャー企業で10年間働いて、したたり落ちるスズメの涙を貯め込んだお金と。 こんなもん、もう一生書けへんわと思うくらいの熱量を打ち込んで書いた本の印税だ。 それらが一瞬にして、なくなった。 外車を買ったからだ。 運転免許もないのに。 「調子乗ってんなよお前」と思った人も、「どうせ“わた

最後まで読みたくなる文章と途中で読みたくなくなる文章

日常的に、noteで色々な書き手さんの文章を読んでいると、自分が「読みたくなる文章」と「読みたくなくなる文章」の傾向がなんとなくわかってきたので、そのことを書きたいと思います。 ちなみに、私はただの一般人です。文章を書くということについてはまったくの素人です。ブランディングとかマーケティングとかSNS運用とかSEOとか?、そういうのも何にもわからない人間の、ただの一つの意見です。 だからこれから書くことは「多くの人に読まれるための文章術」などではなく、単に私自身が自分の好

私が本当にライターを選んだ日。

ある朝。ふと目を覚ました。まだ眠い。今何時だろうと思って、ベットのサイドテーブルに手を伸ばす。手に取ったスマホは「もう朝の9時だよ」と教えてくれた。 昨日は朝5時まで仕事をして寝たので、9時ではまだ眠い。数カ月前に会社員をしていた時は、もう家を出ていた時間だったが、その姿はもうない。 目も腕も思うように働いてくれない中で、なんとかスマホの通知を確認する。すると、SMSのメッセージが5件届いていた。普段あまり見かけないアイコンの通知に、何事だろうとメッセージを開くと、懐かし

素直なことばで書く

「素直になろう」 そう思いはじめたのは、文章を書くようになってからのことだ。 1年前「ブロガーになるぞ!!!」と決めて、文章を毎日とにかくがむしゃらに書くことに専念した。 ブロガーというと「アフィリエイトやアドセンスで稼ぐ!」といったイメージだが、わたしはエッセイのような自分の経験談や思いを書き綴るタイプのブロガーになりたいと思っていた。 なので、世間一般がイメージする”ブロガーで稼ぐ”というイメージとはすこしズレていたかもしれない。 どういったことを書けば、人に読

お寿司も指輪も自分で買える、私でいたい

子どもの頃から仕事をバリバリこなす女性に憧れていた。 当時、周りの女の子たちが「将来の夢はお嫁さん」や「20歳台前半で結婚するんだ」という理想の話を聞くたびに、「みんなそんなに早いんだ」とびっくりしていた。 小学生の頃から「すぐには結婚しないだろうなあ」とぼんやり思っていた私。中学か高校の卒業文集で「何歳に結婚したいですか」という質問に対して、めちゃくちゃ譲歩して「28歳」と書いたことを覚えている。 本当は30歳台で書きたかったけれど、みんなが25、26歳といった、割と