1/4真鶴記2「あなたがいるってことだけで」

真鶴記その1⇒★★★

思い知らされ、気づかされ、それでもまだちっとも消化できないまま
真鶴を後にした。
お姉ちゃんの最後の場所はやはりよくわからなかった。
お姉ちゃんは「探さないで」とも「ここだよ」とも言わず
私たちの好きにしたらいいよ、と思っているような気がする。
お姉ちゃんにとってもうその瞬間は昇華されているのかもしれない。
だからこそ生まれ変わる前の天国界での最後の仕事である
私のこと、その先にある母のことをどうにかしようと奮闘してくれているのだと思う。

姉の最大の心配事である母のためにもまずはわたしを幸せにしたい姉だけれど、
そのわたしがいつまで経っても変われないので業を煮やして過酷な状況を見せてくれたのかもしれない。
といっても実は大して過酷でもなんでもないのだ、多分。

そんな感じで私はまだ
未消化だから悲しくてやりきれない時間を過ごした。

意識がどこかへいっている優しい人が哀しかった。
暗闇の中に小さな光を感じると、それをより感じたので
背中を向けた。
ごめんね、と心の中で何度もつぶやいた。
ふたつに裂けた心が哀しかった。

自分の頭がパックリと口を開けているのはわかっていた。
お姉ちゃんは
「口を閉じなさい」
と言ったんだよね・・・・。

でも欲しくて欲しくてたまらない。
独占したくてたまらない。
でも、でも、でも。

旅館の部屋の窓から海が見える。
夜には東京では見られない星を眺めて
朝にはまばゆい太陽の光を感じて
でも、でも、でも、と何度も自問自答を繰り返した。
そのうちに、ある歌が私の心の中をめぐるようになった。

あなたがいるってことだけで。

でも、の代わりに何度も何度も「あなたがいるってことだけで」と繰り返した。

帰宅したその日の夜中に、急に体調を崩して発熱した。
夢の中にいるように
動こうとすると四肢が思うように動かず
地面が磁石になって身体がのっそりと吸い寄せられるようで
頭の中も靄がかかっていて重い。
ここはどこなんだろう。
今までのことは全て夢だったのかもしれない。
夢からさめたら1年前の、いや、もっと前の、何も知らない私がいるのかもしれない。

1日中、馴染んだような知らないような部屋で寝転がりながら
ドラマを見ていた。
時々、泣いた。
物語は時に、自分の気持ちを代弁してくれた後に
「それでもいいんだよ」と言ってくれるから、泣けて困る。
どれだけ他人に丸ごと肯定してもらいだいんだろう、わたしって・・・・。
自分ですればいいのに。

夜になって目を開けると愛が待っていた。
夢かと思ったけれど夢じゃなかった。
桃色のドリンクと眠りの世界でひとりじゃなかったこと。

あなたがいるってことだけで。

お姉ちゃん、わたしはまだわからないことだらけだよ。
頭の口もまだ開きっぱなしだよ。
本当にこれでいいのかいつも迷ってる。
人を騙して、傷つけて、そんなわたしが幸せになるには
痛みを感じなきゃいけないんだよね。
それでも忘れちゃいけなくて、必要で、取り組んでみたほうがいいことって、あるよね。
この道を歩くって決めたんだから。

なんて空を見上げながら語りかけると
まるで少女漫画が映画化されて、その1場面の中にいるみたいな
気持ちになって
胸がつまってくるんだけれど、それはちゃんちゃらおかしいことだ。
だって、本当はメロドラマはとっく終わっているんだから。
悲劇のヒロインはもういなくなって
ここにいるのは軽やかな喜劇で嬉劇のヒロインのはずだ。

こんなこと、なんてことない。
3流ドラマにもならないような、物語性などない、たわいないことだ。
深刻にならない。
目線を変えたらどうってことないこと。
エネルギーをクルっと変えてみたらいいんだよ。
そんな簡単にできるかよ!
簡単にできないって決めているのはわたし・・・・か。

ただ夏の約束を胸に
「あなたがいるってことだけで」を口ずさむだけでいい。
単にそれだけのハナシ。

真鶴はそんなことを教えてくれた。
わかってんのかなぁ、わたし。

お姉ちゃん、わたし、絶対にもっと幸せになるから。
そしたら私が死ぬ前に生まれ変わって、
また出逢いたい。


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