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正しいKPIの設定とは ~まやかしの地方活性化にならないように~

以前、このタイトルで書くといってそのままだったので。

まず、KPIというものの説明を。wikiの文章だが、まとまっているうえにこれから語ることの説明がしやすいので。

重要業績評価指標(じゅうようぎょうせきひょうかしひょう、英: Key Performance Indicators, KPI)は、組織の目標達成の度合いを定義する補助となる計量基準群である。KPI はビジネスインテリジェンスにおいて、現在のビジネスの状態を示すものとして使われ、今後の対応策でどうなるかを予測するのに使われる。KPI をリアルタイムで監視することを BAM(ビジネスアクティビティ・モニタリング)と言う。KPI は、リーダーシップ育成、雇用、サービス、顧客満足といった定量的計測が難しいものを定量化する場合に使われることが多い。KPI は(例えば、バランスト・スコアカードのような技法を通して)一般に組織の経営戦略と関連している。
実際の KPI は、その組織の特性や戦略によって異なる。組織の目標達成度合いを測る補助となるもので、特に成果を定量化しづらい知識ベースのプロセスに関するものが多い。
KPIは、組織の方向性、ベンチマーク、目標、時系列などの測定対象の重要な一部である。例えば、「顧客毎の平均収入の増加を2008年末までに10ポンドから15ポンドにする」と言った場合、「顧客毎の平均収入」がKPIである。KPIは、主要成功要因(KSF)とは異なる。例えば上記の例では、「顧客毎の平均収入」を増やすという目標を達成するためになすべきこと(例えば、新製品投入)がKSF になる。

さて、引用が長くなってしまったが、業績を評価するといえば、まさにきょう投票の東京都知事選で「マニフェスト達成ゼロ」の方が都知事選で再選を目指しているようだが、これをKPIの世界に置き換えると、
・KPI≒マニフェストとすれば何もできていない
・BAMができていたのかどうかもわからない(満員電車のBAMとかならまだしも、気候によって変動する花粉とかモニタリングする意味があるのだろうか)
・KSFはどういうものかの議論すらされていない(満員電車解消に二階建て車両とか言うちゃう位である)
はっきり言って、経営者であれば即首である。これが政治の世界ではまだ続けられるのだからまあ気楽なものである。

上記の引用にあるように、「KPIは、組織の方向性、ベンチマーク、目標、時系列などの測定対象の重要な一部である」。そのため、組織が何を考えて何をKPIに設定するかは大切である。では、これを地方活性化に当てはめるとどういうことが言えるのか。たとえば、地域経済の活性化、ということであればどんなことがKPIとしていえるのだろうか。

たとえば、三重県いなべ市が平成27年に掲げた総合戦略では、『地方にしごとをつくり、安心して働けるようにする』にすることを掲げて『企業誘致の推進や、起業・創業支援、雇用と就労のマッチングにより安定した雇用の供給を図り、賑わいと活気のあるまちづくりを進めます。また、農業の担い手の確保や、地産地消の推進等により、持続性のある安定的な農業生産活動を支援するとともに、市内の特産品を活用した産業振興を進めます。』ことを方向性として定めている。その上で、従業者数(工業統計) 人をH31年で 18,000人(H26実績値16,382)、事業所数(工業統計)を180社(H26同176)とすることをKPIと定めた。H29の経過報告によると、それぞれ達成率は104.5%、98.9%となっている。一見、まあまあの成果に見えるが、何で増えたか、減ったかという分析がされてこそのKPIである。たまたま、大企業が本社を移転して、従業員数が増えたのか、新規創業施策をたくさんやったのに事業者が増えていないのか。その部分がいかに反省されているかを徹底的に議論しなければならない。(実際いなべ市は、KSFとして市長による企業へのトップ営業とか、市役所改築にあたり、周辺に飲食業の新しい施設整備などがある。ただ、減った要因の分析は弱い)
いなべ市は比較的細かなKPIと反省がされているように見える。しかし、多くの地域では細かな反省ができていない。ただ、一番の問題は、「KPIの未達成を外部要因のせい」にしてしまうことだ。例えば今回のコロナ騒動など。

ある程度外部要因は仕方がないにしろ、どのようなKSFを設定していたのかが問題である。観光客数であれば、国内外へのPR施策を打ったうえでKPIを設定する。ただ、そのPR施策がKSFと連動しているのか。そこのKSFを事前に細かく検証していたのかが問題となってくる。例えば、鄙びた農村を主軸として癒しの観光地として100名の新規観光客訪問(宿泊を伴う)をKPIとして設定するのなら、外国へのPRより、東京圏など都会圏へのPRの方が費用対効果は高いように見える。東京圏の人が「宿泊で」移動するとしたら、その鄙びた農村に「癒し」だけで来るかと言えば懐疑的なので、「食」「風景(桜や紅葉など)」などのキーワードを加えることが効果的だと思われる。また、若い人はSNSでの情報取得がメインだが、高齢者は相変わらず雑誌や旅行代理店による情報取得が大きいので、そのいずれかにPRを、しかも何月に集中して打つことを検討するべきである。もし成功したとしたら、その場合「世代を絞って、チャネルを限定して集中的にPR施策を打ったこと」がKSFになる。もしそのPR時期をこの3月4月にしていたとするなら、それは外部要因にはなる。1年間だらだらとPRをやっていたのであれば、ことさらコロナのせいにはできない。現代では往々にして地方活性化は「東京圏から人を観光なり移住で奪い合う戦争」になっている。KPIを設定するのはよいが、その達成のためには何がKSFとなりうるかを突き詰めて考え、また事後に検証していないのは非常に問題である。ただの税金の無駄遣いにしかならないので。

正しいKPI設定には、どんなことがKSFになるのかを正しく見極める目が必要である。そのためにBAMが必要になってくる。問題は、絵にかいたぼた餅が棚から落ちてくることを期待したようなKPIであったり、正しいBAMができていなかったり、自己中心的なKSFではいけないのである。地域経済であれば地域でどれだけお金が回っているかを把握したうえでKPIを設定するべきだが、その把握を怠っているとしか言いようがない事業が多い。

先に、関係人口に関する記事を書いたが、どうも地方移住に関してはKPIをゆるくゆるくしているように見えない。おそらく、移住、となるとハードルが高いからであろう。自然と人口は減っていくので、地域内の人口維持といったKPIを設定するのは自治体として恐ろしくてできない。しかし関係人口では地域を潤すことはできない。そのきっかけになることはあるかもしれないが、その先への戦略がなければ地方活性化は達成されない。地方自治体がKPIを設定する際に我々が見なければならないのは論理的な「KSF」がその検討段階であり、BAMが適正にされうる状態にあるのかということである(それを委託先に丸投げするようではならないのだが、、、)。

今回の都知事選でKPIを設定しているような候補者が見受けられないのは、少なくとも世界に知られた都市の知事選挙としては情けないと思った方がいいのではないか。

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