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「違いを喜べる教室」につなげる授業実践。2年間の教材をご紹介!

こんにちは、カタリバRootsプロジェクト(外国ルーツの高校生支援)です。

シリーズ3本目の今回は、カタリバがこれまで連携校と行ってきた授業実践の概要と教材を一気にご紹介します!
外国ルーツの高校生への支援は、今まさに課題の把握とともに実践が積み重ねられている段階です。現場での兆しや先生方の想いや取り組みをご紹介しつつ、この記事に目を通してくださるみなさまとも一緒に、子どもたちの可能性に蓋(ふた)をしない支援の在り方について、考えていけたら幸いです。

今回は実際の教材をご紹介し、次回以降、授業実践を通しての学びの詳細や先生方へのインタビューを順次お伝えしていく予定です。

📗このテーマの連載記事
volume 1:「多様性が当たり前」な時代の教室の在り方とは?先進事例から学ぶ
volume 2:マイノリティ性を巻き込み、誰一人取り残さない工夫が教室にもたらす変化とは?
volume 3:「違いを喜べる教室」につなげる授業実践。2年間の教材をご紹介!<<今回>>

カリキュラム概要

今回紹介させていただく教材は、総合的な学習の時間や学校設定教科の時間を活用して先生方との連携授業を行った事例です。

もちろん、多様な背景を持つ子どもたちが同じ教室で過ごし、学びにつながる授業や出来る工夫は特定の教科に限りませんが、今回は特にキャリア学習での実践例を中心に取り扱っています。

授業の背景には、
志望している進路が多様だったり、
来日してすぐの、外国にルーツを持つ生徒たちが共存している、
そんな教室での先生方の想いや考えがありました。

「違った背景を持つ生徒が、高校の3年間を通してどのように自分自身と社会をつなげ、キャリアを築きあげることが出来るのだろう?」

そんな問いかけから、
先生方の育てたい生徒像や現状の課題をヒアリングしながら、
入学から卒業後を見据えた、つながりのある授業展開を意識しました。

下記の枠組みは一例として、学校ごとの目指す姿に応じたカリキュラムをともに考え、実践を重ねてきました。

キャリアにつながるための力の軸(縦軸:ライフスキル、自己表現力、つながる力、未来創造力)、
それぞれの学年でつみあげる学習過程(横軸:自分を知る、社会を知る、深める・まとめる)、
そして生徒が出来る幅を広げる学習活動を想像した例が下の図です。

図:学年を通したカリキュラム例

カリキュラムを考える上での軸や学習過程は、
1980年頃にGloria Ladson-Billings教授が社会的マイノリティに属する生徒を能動的に引き込むための教育学として、
彼女自身のアフリカ系アメリカ人の研究をもとに3つの教育要素に落とし込んだ 「Culturally Relevant Pedagogy(文化に対応した教授法)」の考え方や、そこから派生した「Culturally Responsive Education(文化レスポンシブ教育学)」を参考にしています。

(図:文化レスポンシブ教育学の3つの教育要素)
出典:Understood for All Inc., “What is culturally responsive teaching?”を翻訳・編集


過去2年間の「実際の教材」ご紹介🎉

今回は、それぞれの「力」に沿って行った授業教材を掲載します。教材やその一部をご自身の授業や教材などにぜひご利用ください!
すべて無料でご覧・ご使用いただけます。

いずれも、学校の授業の時間(50分程度)で運用され、Google Slideを使用した投影スライドやプリントとなっております(複数コマを要した授業設計も含まれております)。また、使用言語としてはやさしい日本語を使いました。

教材:ライフスキル

授業:「リソースマッピング」
目的:マッピングを通して、自身の職業観・進学観や周辺の環境について可視化し、生徒自身の就職・進学に対しての認識を確認して外へ踏み出す具体的な行動に結びつける。
授業プリント: note共有プリント_リソースマッピング
投影スライド note共有スライド_リソースマッピング

授業:「進路の探し方」
目的:大学進学・専門学校進学・就職活動のシュミレーションを通して、ツールから情報を収集する能力を身に着ける
授業プリント: note共有プリント_進路の探し方
投影スライド: note共有スライド_進路の探し方

教材プリント例、「リソースマッピング」より

教材:自己表現力

授業:「自分を語る(10年後に自分がいる場所)」
目的:「10年後に自分がいる場所」を考えることを通して、これからの自分が大切にしたいことや、他者との共有から可能性を広げる
授業プリント: note共有プリント_10年後に自分がいる場所
投影スライド: note共有スライド_10年後に自分がいる場所
(注:生徒1人1台端末環境でオンラインでアクセス出来るメタバース空間を使用)

授業:「自分の軸を考える(Sparkプロジェクト)」
目的:生徒個人が「自分の心が動くとき」をテーマに動画/写真/文字を使って自身表現し、ウェブサイト作成を通して相手に伝える
授業プリント:note共有プリント_Sparkプロジェクトnote共有プリント_Sparkプロジェクト2
投影スライド:note共有スライド_Sparkプロジェクト
(注:Google Sitesで無料のウェブサイトを作成するツールを使用)

教材:つながる力

「実社会とキャリア(誰を採用する?)」
目的:採用者の視点を通して人のスキルについて話し合い、生徒自身が必要なスキルに自覚的になる
授業プリント: note共有プリント_誰を採用する? 1note共有プリント_誰を採用する? 2
投影スライド: note共有スライド_誰を採用する?

「実社会とキャリア(社会人と一緒にキャリアの選択を考える)」
目的:社会人に「どんな人と働きたいと思うか?」をインタビューし、自分自身のスキルや経験を伝えてフィードバックをもらう
授業プリント: note共有プリント_社会人と一緒にキャリアの選択を考える
投影スライド: note共有スライド_社会人と一緒にキャリアの選択を考える

教材:未来創造力

「アクションプランと実行」
目的:進路決定までのチェックリストやタイムラインを見て、「自分は今、進路が決定するまでの過程でどこにいるのだろうか?」の認識を可視化する
1回目授業プリント: note共有プリント_アクションプランと実行
1回目投影スライド: note共有スライド_アクションプランと実行
2回目授業プリント: note共有プリント_アクションプランと実行
2回目投影スライド: note共有スライド_アクションプランと実行2

あとがき:授業で共通していること

様々な実践の積み重ねは、教室の中にある多様性への配慮がなされる授業は何が共通しているのかを問い続ける時間でもありました。

今回ご紹介した授業を改めて見ていくなか、授業づくりに対して3つの工夫の共通がある気づきがあったので、最後に共有します。

  1. 「自分の認識や経験」を表現することからはじまる授業設計

    1. アイスブレイクやワークショップの導入で、教室にいる人がそれぞれ違う捉え方や認識を持っていることを可視化することで、明確な答えを求めるのではない授業づくりにつなげる。

  2. 「今の自分」から始まる体験や行動に基づいたアクティビティ

    1. 教室にいる人全員が足りない知識を埋める。新しい知識の会得を前提とするのではなく、生徒個々が自分にとって必要だと思う体験や知識を選べるアクティビティの選択肢をつくる。

  3. 「他者とのつながりのきっかけ」をつくる

    1. それぞれ違う/答えがないの共通認識の先に、自分の考えや他者の考えへの共感やつながりをつくるための時間や対話を大事にする。

授業をつくる上で文化レスポンシブ教育学の考え方を繰り返し噛みしめるポイントは、「今の姿」からしかはじまらないに集約されると感じます。個人の経験を通して積み重ねてきたことを、学ぶ共同体としてどう教室の中で認知をし、それぞれが貢献出来るのか。

ある論文では、「文化レスポンシブな授業はただの良い授業ではないか?」とタイトルに表現されたこともありますが、個々が自分の表現やお互いの考えに共鳴している姿は、学び合える教室につながっている姿だと感じます。

教材や授業づくりに関してのお問い合わせは、 roots@katariba.netまでメールにてお願いします。

***
次回は、こちらの教材を活用した授業の様子の詳細をお届けします。
お楽しみに!

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