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焙煎街、本日狂風なり

 大岡義兵が明日店を開けるのは無理そうだった。首をかっさばいた暴漢をどかし、軋む骨に無理を言わせ立ち上がる。
 店内はグレネードでもぶち込まれたみたいにとっ散らかっていた。フランスで買い付けたアンティークの椅子はガラクタに。工芸品のテーブルはアホどもの血で目も当てられない。
「滋野、備品を使うな」
「チャカ見たら条件反射で」
 男の耳に菜箸を突き立てる滋野を睨む。暴走族の頃の喧嘩は抜けないらしい。
 辟易しつつ義兵はミルで豆を潰す。ネルドリップで濾された液体に仕上げを少し。
「"スペシャルブレンド"だ。傷に効く」
「すんません」
 珈琲を飲み下すと疲労が癒えた。少しは前向きになれそうな気がする。
「ブルマンもガンジャもジャマイカに限る……」
「やっぱスメラギコーヒーの仕業ですかね」
「だろう。よほど焙煎レシピが欲しいらしい」
 個人喫茶にとって焙煎法を教えるのは店を畳むのと同義だ。他で飲める味にどうしてわざわざ金を払う必要がある?
 間の抜けたマリンバ音。
 死体の革ジャンからだった。通話を押す。
「よお、義兵さん」
 聴き馴染みの声。田宮ローストのヒデ爺だった。
「スメラギの犬になったか」
「悪く思わんでくれ」
「お前の生皮でネルを縫ってやる」
「待て、これは忠告だ。あんたの焙煎ノートには懸賞金2000万が賭けられとる。この街は血眼で」
 義兵は電話を切った。
「滋野、ノート持ったか」
「ハイ」
 言うが早いか、コーヒートラックがガラスをぶち破った。車体の「Are you happy?」が癇に障る。
 義兵は銃を掴み、無造作にぶっ放した。
 続いてゴルフクラブ持参で駆けてきたのは、珈琲アダムの澤村。だが、もうこの世にいない。
 澤村を潰し、滋野がトラックのアクセルを踏む。
「どこ行きます?スメラギ本社?」
「田宮ローストだ。借りを返す。」
 横のコンビニが爆ぜた。背後から軽トラが猛追する。荷台にはRPGを掲げた老婆がいた。
「ギヘ〜っちゃん♪」
「萩夫婦だ。逃げるぞ」
【続く】

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