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Who Killed My Poppin'?

 5th Elementsは80年代ダンスシーンを席巻したダンスクルーだ。
 当時としては珍しかった女性ポッピン、Boogaloo D(E,Therston)をはじめ、Funky zara、G-nome、Silver、Undoの5人はアメリカ全土にファンク旋風を巻き起こした。(中略)しかし1989年4月25日、チェコでのダンスキャンプへ向かう5人を乗せた旅客機が、所属不明の飛行物体により撃墜されてしまう。この事件は当時、外交問題として紙面を賑わすが、ダンサー達には伝説の非命として深い悲しみをもって迎えられた。
──『フィフスエレメンツ-死後20年とその軌跡-』(2009年刊)

 それを読んだのは、奴らが全てにケリをつけた後だった。
 とにかくあの時は真っ昼間から、俺は曾祖父さんの遺品整理に追われてた。ある程度片付けも終わり、残りは屋根裏だけだったんだが、そこで事件は起こる。
 梯子を上ると、5つの棺桶が整列していた。まるで何かを待つように。
 
「聞こえてるぜ。」棺桶の一つから声がした途端、俺のiPhoneから大音量で"(Everybody) Get Up"が流れ出した。曾祖父さんが好きだったザップの曲だ。俺は必死に操作するが、音量は下がらない。

「俺にも聞こえてるぜ。」「ああ」「勿論だ。」ロジャーの歌声が"そら起きろ"と呼びかけるたび、残りの棺桶からも次々と声が上がる。
 "みんな起きろ"
 脳髄の奥まで響くスネアのビートが棺桶を揺らす。響く重低音。棺桶の錆釘が落ちる音が聞こえた瞬間、降り積もった埃が吹き飛んだ。塵の突風に、俺は耐え切れず目を閉じる。
 風が止み目を開けると、埃のスモークと窓から差し込む逆光の中、影達が思い思いのポーズを決めていた。一つはパペットじみた影、一つは片足で立つアフロの影、一つは仁王立ちの大柄な影、一つは膝をXに折りたたんだ痩せぎすの影。
 だが最後の棺桶だけは、まだ閉じたままだった。
 "起きて踊れ"

【続く】

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