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時が流れど、あなたの魅力は変わらずにあり続ける。


例えば、「時が流れても変わらないもの」を「本質」であると定義したとして、私たちは、無常に流れる時の中で、一体何を大切にすべきなんだろう。


1. あなたの魅力を引き出すヒント


私は長年、美容院ジプシーでした。

なんとなく「変わりたい」という気分になって、ホットペッパーを開いて、「今日あいている近場の美容院」を探し、突撃する。「どんな姿になりたいか」なんて決めないで、いつも可もなく不可もない、無難な髪型に落ち着く。髪一つで、人生そんなに変わるわけないしね、と思いながら。

そんな私の感覚を大きく変えてくれたのは、とある美容院で受けた「骨格診断+パーソナルカラー診断」でした。

正直、診断のみで数万円吹き飛ぶ価格設定に、「高っ」と思いました。けれど、ちょうど20代半ばを超えたところだった私は、一生モノの小物や衣類など、背伸びして買いたいお年頃でした。思い切って「自分に本当に似合うもの」を探すための投資だと思って、足を運びました。


カラフルなドレープを合わせては外し、椅子に立っては座り、そう思っていたら目玉をのぞき込まれ――。一体、何を「診て」いるんだろう、と思うような動きをたくさんしてから、美容師さんが診断結果を教えてくれました。

・骨格:ストレート
・パーソナルカラー:スプリング

この二つの診断結果を得るために数万円吹き飛ばした、と考えたら、大損したと思ったと思います。しかし、この2つはあくまで「ヒント」なんだと、美容師さんは丁寧に教えてくれました。

「この二つ以外が【似合わない】とは思わないでくださいね。この二つは【あなたの魅力を引き出すヒント】だと思って接してください」

骨格ストレートだからこのワンピースは似合わない。スプリングだからラベンダーは似合わない。そう決めつけるのではなく、こう考えてみてください、と。

「私はこのワンピースのどこに惚れたんだろう」
「ラベンダーという色の何に惹かれているんだろう」

素直にそうしてみました。

「いいなぁ」と思って着たけれど、何かしっくりこない「この」ワンピースの、「何」が好きか、じっくり考えました。

私はこのワンピースの形の「そで部分」が好き。
違うブランドのお店に行き、骨格ストレートでも似合う形のワンピースで、同じような「そで」の処理をしているものを探して着てみたら、オーダーメイドみたいにぴったりくるものが手に入って、驚きました。

ラベンダー色は、肌が透き通って見えるから好き。
私の「スプリング」の色の中から、私の肌が透き通って見えるカラーを選んで身に着けてみたら、顔色が輝いて見え、衝撃を受けました。

そうか、骨格診断とパーソナルカラー診断は、骨格や色で、着るものを縛るわけじゃない。服やメイク、アクセサリーに、自分が合わせに行くのではなく、「自分」を輝かせるものを選ぶためのものなんだ。

色とりどりのものが溢れる世の中、日々変わりゆく流行に流されて「自分」を失いやすい毎日の中。この診断を受けた後、私は「自分」という軸を、得ることができたような気がしました。

その後、カラーと骨格診断の結果をもとに、ヘアカットとカラーをしてもらいました。鏡を見た瞬間、思わず笑ってしまうほど、自分にときめく、という経験をしました。


2. 一番大事なのは何?


フリーランスになったんですよ~という話を、先日髪を切ってもらいながら話したところ、「どうやったら上手に文章って書けるんですか?」と美容師さんに尋ねられました。

「正直、私には文章の良し悪しがわからないんです」

文章に関して何か聞かれても、私はずっとそう答えています。生み出すものに、きっと正解はない。伝わればいい、とは思うけれど。

「一番大事なのは、伝えたいものがあるか、だと思っていますので……」

歯切れの悪い返答をしてしまった私に、美容師さんはうんうん、と微笑みながら頷いてくれました。サクサクと切られていく毛束を眺めながら、私は独り言のように、ぽつぽつと、言葉を紡ぐ。

要は、誰が主役なのかということを、ここのところ、ずっと考えていて……。私は、『誰かの伝えたい想い』や『伝えるべきこと』をわかりやすく言葉に落とすことがお仕事ですから……上手い文章を書こう、という意識は、できる限りもたないようにしているのかもしれません」

口に出してみて、私はそんなことを考えているんだと、自分でも新たな気づきを得ました。

「きっと私は、『私』ではなく『あなた』を軸にしたものを生み出したい、その一心で文字を書いていて、それにニーズがある限り、その営みを続けたいと思っているだけなんだと思います」

そんなことを突然語ってしまい、お恥ずかしい、と思っていると、美容師さんは、微笑みながら頷いてくれました。

「僕も昔、同じことを考えていましたよ。美容師って、『俺がやったカラーが』『俺がやったカットが』って言いたいっていう欲求が、どうしても沸いてくるんですよ。でも、それって僕がやるべきことなのかなーって考えたら、ちょっと違うと思いまして」

そう言って彼は、私の髪に迷いない手つきで鋏を入れ、魔法みたいに私を変えていきます。

「僕は、目の前の人が、歳を重ねてもずっと魅力的でい続けてもらうには、どうしたらいいんだろうって、考えたんです。そうしたら、その人自身の魅力を引き出すことが、一番大事だ、って結論に至ったんですよね。ほら、流行りは変わるけれど、その人自身の魅力は、時が経っても、唯一無二でしょ?」

その言葉をたっぷりと咀嚼しました。

「だから、骨格診断と、パーソナルカラー診断、やってるんですね」

自分を合わせに行くのではなく、生まれ持った骨格、肌の色、目の色、自分に合ったものを選ぶ経験を、私自身が経験したからこそ、よくわかりました。徹底的に私を主役にすることを、この美容師さんは大事にしてくれる。

「うん、可愛い」

出来上がった髪型を見て、満足そうにつぶやいて、美容師さんは鏡を持ってきて、私に手渡します。左右に頭を動かして、私も笑いました。

「うん、可愛い」

髪ひとつで人生が変わるんじゃないか、なんて思わせてくれるほど、いつも可愛く仕上げてくださる。


3. 核にあるものはきっと変わらない

例えば、「時が流れても変わらないもの」を「本質」であると定義したとして、私たちは、無常に流れる時の中で、一体何を大切にすべきだろう?

私達は、美容室できっとこんな命題について語っていたのだろうと思います。そして生まれた共通見解は、「目の前のものや人の魅力や、唯一無二のらしさ」を主軸とすることを、一等大事にしていきたいね、という意見でした。

時が流れ、世の中が変わり、歳を重ねれば、似合うものも好みも意見も変わる。しかし、見せ方は変われど、その核にあるものはきっと変わらない。その人やものにしかない魅力というのは、ずっとあり続けます。

それらを引き出すことは、楽しく、ワクワクします。引き出した魅力をカタチにして、それらを通じて幸せが生まれたり、喜びが生まれる様子を見て、微笑みたい。自分の名を残したり、個性を尖らせるより、ひっそりと相手の魅力を際立たせる存在として生きることに、誇りを持って死にたい。

要は、私達は自分ではないものが持つ「魅力の原石」を磨き、輝く姿を見て、ニヤニヤしたい変態なのです。

そして、本質的に生き残るのは、きっとそういう選択をしている方じゃないかと、ある種小狡く考えながら、生きている。


そんな大層な議題を、美容師さんに付き合っていただいた時のお話でした。


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