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9-4 シンジロー完全燃焼


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pホクト

「……弟、か」


 ホクトの鋭い目が楽しそうにおれを見た。


キャラ (13)

「ひ、ひいいいいいい」


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「話の続きだ……。お前はなぜコイツ……ハヤトに依存して生きる? 弟として、兄を越えたいという気概はないのか?」


「な、ないよ……だって、アニチには勝てるはずが……」

 その無敵の兄貴は、ホクトに叩きのめされ、無言で床に転がっている……。

「…………まるで洗脳だな。だが、それもまた、ハヤトの狂気のなせる技か」

 独り言のようにホクトがつぶやいた。

 不思議とその口調は穏やかで、たった今圧倒的な暴力で兄貴を叩き潰した男と同一人物とは思えなかった……。


キャラ20

「だがな、シンジロー。お前がとっくに兄を越えているとしたらどうする?」


キャラ (3)

「え?」


「お前に、ふたついいことを教えてやろう。そもそも、そのために俺は今日ここに来たのだからな。予期せぬイレギュラーが起こったが……」

 ククク、とホクトは皮肉げに兄貴を見て笑った。

「ふ、ふたつも!?」


pホクト

「まずひとつめ……お前らアリバ ―― 福岡ファイターだったか ―― の中で、教団が危険視した存在が二人居る。……ヤギハラとシンジロー、お前だ


pシンジロー

「教団? 危険視?」


 なにがなんだかサッパリわからない。でも、あれだけバカ強くなったヤギハラを『危険』というのはなんとなく理解できる気がした。

 でも、どうしておれの名が……?

「特に、シンジロー。お前だ。お前には、他の誰よりも大きく強いアリバがある。それも、他にはない特殊なアリバがな」

「……そ、そんな……だって、おれのアリバ、なくなっちゃったんだぞ!? なんで、それなのに、他のみんなより強いアリバがあるんだよっ」


pホクト

「お前はそれを無意識下で抑え込み、発現しないようフタをしているのだ。……『兄を越えたくない』という、信じがたい理由で


pシンジロー

「………………………………」


「……さて、ふたつめだ。聞きたいか?」

 ホクトは気絶した兄貴をチラリと見ながら言った。

「………………………………」

「お前の大好きなその兄貴だが……アリバを持ってない」


キャラ (3)

「……………………え…………」


キャラ20

「ハヤトにはそもそもアリバがないのだ。鴻ノ巣山に隕石が落ちたとき、直撃を受け瀕死の重傷を負ったソイツを、ナミが救った。自分のアリバでな。その治療の過程で、擬似的にアリバが身についただけの、ただの一般人だ」


 ……星空が落ちてきたような、

 ……足元の床が崩れ落ちたような、

 ……世界が暗転したような、ショックだった。

 そ、そ、そ、そ、そんな…………。

 兄貴にアリバがない?

 兄貴がただの一般人?

 そんなのウソだ……うそだ……うそだ!!


pシンジロー

「テキトーなこと、言ってんじゃねえぞおおおおっっっっ」


pホクト

「本当だ。あのカスガという守護使いも知っている」


 か、カスガくんがっ!?

 でも少し思い当たることがあった。

  兄貴はいつ頃からか、あまり自分が前に出て戦わなくなった。

 そして、カスガくんは、そんな兄貴の身を、やたらと気遣ってたような気がする……。そういえば、シモカワも……。


キャラ (3)

「そ、それは兄貴自身知ってるのかよっ!?」


キャラ20

「当然だ」


「い、いつからだっ!?」

「シンデレラパークの騒ぎのあとだと聞いている」

 シンデレラパークのあと……!?


焚き火


 ピンときた。あのキャンプの夜!

 兄貴の態度はどこか変だった。きっとあのとき、兄貴はナミさんにそのことを聞かされたんだ……。

 な、な、な、なんてことだ……そうだったのか……。


キャラ (13)

「………………………………」


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「……これでわかっただろう。お前はとっくに兄の強さなんて越えていたのだ。福岡ファイター最弱の男は……ハヤトだ」


「………………………………」

「どうした? ショックのあまり、口もきけんか……?」


pシンジロー

「やっぱりアニチは、強ウイィィィィィィィィィィィィーーーーーー!!!!」



 おれは、右手の指でロングホーンを作りながら、スタンハンセンのように夜空に叫んでいた……!


キャラ20

「……ム?」


「アリバが消えちゃったとき、おれはただ、みんなのところから逃げることしか考えなかった。もう戦えないとすぐにあきらめた! だけど、兄貴は違った! シンデレラパークのあとだって、兄貴は逃げずに、おれたちのリーダーとして戦い続けた!」

「…………………」


キャラ (3)

「自分にアリバがないってわかったのに、兄貴はそんなことオクビにも出さずにふるまい続けたんだぞっ!? そんなこと、他の誰にもできるもんか! ホクト! アンタにだって無理だね!」


キャラ20

「…………なかなか失礼なことを言ってくれる」


「そして、ホクト! おれには本当にすごいアリバが眠っているんだなっ!? ホントのホントだな!? ウソじゃないなっ?」

「ホントのホントだ。ウソではない……」


pシンジロー

「だあったらっ! やぁって、やるぜええええええええええぇぇぇぇ!!!」


 おれの中から、真っ赤な、熱い、無限に湧き出るような、ほとばしりがあふれた!


pホクト

「バーニング!?」


pシンジロー「兄貴は強い! ぜったいに強い! アンタよりもだ! 弟のおれがそれを証明してやるっ! おれがアンタに勝てば、おれより強いアニチは自動的にアンタより強いってことになる! そうだなっ!」


「……ムチャクチャな理屈だが、勝てれば、そうなるかもな」

「絶対の絶対にだな!」

「絶対の絶対にだ。勝てれば、だが」


キャラ (3)

「よっしゃああああーーーー!! やることが決まったぜええええ! おれはもう迷わないっ! ホクト! カタギリブロスを、福岡ファイターを、ナメんじゃねえぞおおおおおっっっ!!」


キャラ20

「…………信じられん。アリバが……膨れ上がって……暴発する……」


「おれは今っ! 猛烈にいいぃぃぃっ! 熱血してるううううううううぅぅぅぅぅ!!!!」

 ボッカーーーーーーンンン!!

 それはまさに大爆発だった! おれの中で、今! 信じられないくらい強い炎が! 渦を巻いて燃え上がっているぜえええええええ!


pホクト

「……はは。アシラギの言う通りだな! まったく意味のわからん理由で、おそろしいほどのチカラに目覚める。お前たちは……本当に面白い!」


 ホクトは満足げに笑った。

「目覚めたな、【炎の暴発シンジロー】。その状態を『バーニング』という」


pシンジロー

「バーニング!?」


キャラ20

「そうだ。お前たちアリバの切り札。テンションが異常に高まり、自らの殻を破ったとき、自乗作用によってアリバが極限まで高められ、限界いっぱいのチカラを出しきれる。

 特に炎属性はバーニングしやすい特性があるが、シンジロー、お前だけが、そのバーニングを自らの意思で引き起こすことができるのだ」


キャラ (3)

「おれが……」


「そして、お前のアリバは特殊だ。不安定だが、上限というものがない。自分のこころ次第で、どこまでも際限なく高めることができる。

 自らバーニング状態を作り出せるお前が、そんな天井知らずのアリバを持つゆえに、教団はもっともお前を恐れ、警戒したのだ」

「そ、そんなことを、どうしておれに教えてくれるんだよ! ていうか、ホクト! アンタほんとにおれたちの敵なのかっ!?」


pホクト

「敵だ……。道化でもあるがな」


 自嘲気味に言った最後のことばは、おれには聞こえなかった。

「さあ、シンジロー。見せてみろ! お前の本当のアリバを!」


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pシンジロー

「よっしゃああああああ!! どうせおれは弱くて負けて当然なんだっ! だから、開き直って、全開でいくぞオラァああああああああああ!!!」


 ボオオオオオッッッッ!!

 おれのテンションが! おれの叫びが! おれの燃える血潮が! そのままエネルギーとなる!

 頭なんか使うだけムダだっ。おれはまっすぐ突っ込んでいく!


pシンジロー

「食らえええええええ!!! 熱血パアアーーーーーンンンンチッッッ!!」


 とっさにホクトが鋼鉄の義手で受け止める! いいもんねっ! アニチの必殺パンチも止めたコイツには止められて当然! だけど、そのまま撃ち抜く!


pホクト

「ぐううううッッ」


 バキンッ! ホクトの義手が後ろに跳ね跳んだ!

「……【イージスの盾】で防げんとは……ここまでかっ」

 そう吐いたホクトの身体が、獲物に襲いかかるケモノのように、グンッと一瞬沈んだ。

 アニチを倒したあのコンビネーション!

 どうせ見えないし、避けられないから、我慢する!

 ドガガッ! おれの顔面にパンチが来るけど、熱く燃えたぎる今のおれは止まらねえええええ!

 バシン! ホクトの電光石火の水面蹴り! けど、おれの足はそれに耐えた!


pホクト

「……ぐ、グランドスラムも効かんのか……」


pシンジロー

「へへへ! 母さん、丈夫に生んでくれてありがとう! アニチのお仕置きにも長年耐え続けてきたおれの身体に、そんなのきかないもんねーーー!」


 そうやって、おれのテンションが上がれば上がるほど、からだの奥底から無尽蔵に湧き出るチカラは、どんどん勢いを増していく!


キャラ20

「……なるほど。美化した兄の幻影を、無理やり自分の前に歩かせ、それを追いかけることで、己をどこまでも高める……それがお前のアリバのカラクリか……」


 ホクトが、なんかまたゴチャゴチャ難しいことを言ってる。

「……ハヤトの狂気が、お前のイビツさを作ったと思っていたが……実際は逆かもしれんな……」

 聞いてもどうせわからないっ。スルーだっ。


キャラ (3)

「ねえええええっっっっけえつつつぅぅぅぅぅぅ!」


 だからおれは叫ぶ! こころのおもむくままに!

「やあってやるぜえええええ! 食らえオラぁ! おれの渾身の超熱血技!」

 全身が紅蓮の柱になったようだった。

 おれは今ハッキリと、その技の名を叫ぶ! おのれの意思で!

 おれのレベル3必殺技【バーニングシンジロー】!


シン立ち絵 (3)

「バぁぁぁぁぁニぃぃぃぃングぅぅぅぅぅシンジロおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 夜空を焦がす特大の炎を噴出させながら、おれはホクトに渾身の頭突きをブチかました!


プロローグ2 (14)


pホクト

「………………………………!!」


 ホクトはまともにぶっ飛び、展望台の柵に背中を強打して、ヒザをついた。


pシンジロー

「どうだ! 見たか、おれたち兄弟の底力を! 負けを認めるか!? まだやるかっ!?」


 プスプスと黒焦げになったホクトは、それでもニヒルな態度を崩さない。

「…………いや。今日はここまでだ。認めよう……俺の負けだ」


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キャラ (13)

「アニチはお前より強い! それでいいな!?」


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「……ははは。いいだろう。それも認めよう……ハヤトは俺より強い。……これで満足か……?」


シン立ち絵 (3)

「やったぜ、アニチイイイィィィィィィィ!!!」


 おれはぐっと腕を曲げてガッツポーズを作り、星空に向けて勝どきを上げた。

「……だが、こんな妙な認め方をせずとも、ソイツは、この俺よりも、ある意味では強いと言えるのだ」

ホクトは床で気絶したままの兄貴を見て言った。


pホクト

「お前は、それを、最悪なカタチで思い知ることになるだろう……」


 そして、黒いロングコートをバサリとひるがえし、階段へと向かう。


キャラ20

「……だが。世界を救う神気取りの男……アシラギが仕組んだゲームを、お前のような不確定要素がひっくり返すのは、痛快かもしれんな……」


 言い残し、ホクトは夜の鴻ノ巣山展望台から去っていった……。


pホクト

「ナミがハヤトに賭けたように、俺もお前に期待するとしよう」


 そんな捨て台詞を残して……。


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