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10-2 開幕

風景 (21)




キャラ (3)

「…………もう! 今度はぜんぜんつながらない! あいつどこでなにやってんだーーーー」


キャラ (9)


 ナミが電話を叩き壊しかねない勢いで言った。

 すでにカタギリ家には全員集合しているのに、かんじんのリーダーだけが、朝からずっと居ない。

 ナミの電話もさっきは繋がったようだったが、どこで何をしているかは、はぐらかされたらしい。


キャラ (7)

「こっそり格闘技の練習でもしてるんじゃないですかねえ。最近、悪意もやたらと強くなってきてるし」


キャラ (17)

「男にはひとりになりたいときもありますな? どこかで孤独に浸ってるかもしれませんな?」


キャラ (2)

「ヌヘヘヘ。別の女とデートでもしてんじゃないですか」


キャラ (4)

「そそそ! ケイさんとか……


キャラ (12)

だまれ! 特にカワハラ! ナミさんがおるのに、そんなワケなかろうがっ!」ズバズバッ!!


pカムラ

「うぎゃあ!!」


pカワハラ

「ぎゃひぃっ!」


キャラ (18)

「そうでゴザルっ。ハヤトどのもまた愛の戦士……そんなフラチなことをするおひとではゴザらん!」


キャラ (3)

「そーだねー。アイツはそういうところは信用できるよ、ナミー」


キャラ (13)

「ナミさん! 大丈夫ですよ。兄貴はナミさんを裏切ったりはぜったいにしません!」


キャラ (19)

「…………ぼ、ボクたち……べつに……そーいうかんけいじゃ……ハヤトをしばる権利とか……ボクにはないし……」


キャラ (11)

「……それはともかく、珍しいな。ハヤトに連絡がつかんというのも」


 たしかに。ハヤトって男は鉄砲玉だし、マイペースで、自分からはあまり連絡してこない。だが、こっちからの連絡にはすぐ答えるのだ。


キャラ (6)

「……かりに、もしナミを裏切り、他の女と密会などしてようものなら……このコミネ、ヤツを処刑する……」


他の女」というところで何かが引っかかった。時間はまさに、俺とサユリが会うはずだった頃合い……。

 ハヤトから面会場所や時間を聞き出されたのは、俺がコッソリ行かないよう釘を刺されたのだと思っていたが、もしやアイツ、自分がサユリと話をつけに行ったんじゃ……。

 と、そのとき。はかったかのように、当のサユリから着信が来た。

 ピッ。


キャラ (16)

「さ、サユリ……?」


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『ヤノくん……福岡ファイターはみんなそろってる?』


「…………どうして、おまえが、それを知ってるんだよお……」

『そりゃあね……アナタたちの敵、悪意だからね!』

 目の前が真っ暗になった。



キャラ (4)

「悪意っ!? って、どういうことだよお!」


 俺の叫びで、ざわついていたまわりが、水を打ったように静まり返った。

 その静けさの中、やけに上機嫌なサユリの声が、異質に響く。


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『ワタシは悪意になったってこと! で、ヤノくんたちが探しているヒトなら、ここに居るよ! 今のところはまだ無事だけど、いつまでもつかな』


「は、ハヤトもそこに居るのかよお……!」

『まあね! 最初からこのヒトが狙いだったからね!』

「さ、サユリ……いったいどうなってんだよお……」

『相変わらず、血の巡りが遅いねっ! ハヤトさんには毒を飲んでもらった! はやくなんとかしないとヤバイよ!』

「ど、毒!? ハヤトに? なんでそんなことするんだよおおおお!!??」


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「……はじまりの場所で待ってる!」


 電話は切られた……。

 とたんに、仲間たちからの質問の嵐。


キャラ (1)

「ヤノさん! ハヤトがどうしたの!?」


キャラ (3)

「今の電話、サユリちゃんなのかー?」


キャラ (13)

「なんで兄貴はサユリさんと一緒なの!?」


キャラ (6)

「処刑か? 処刑が必要かッ?」


キャラ (2)

「ヌヘヘヘ。友達のカノジョと寝取られ展開……」


キャラ (12)

「だまっとけ!」ズバァッ!


キャラ (7)

「ムホホ。毒とか聞こえましたが……?」


キャラ (17)

「話がまったく見えませんな?」


 俺だって、話はまったく見えない……。だがとにかく、泣きそうな顔になっているナミに、わかっていることを告げた。

 サユリからの久しぶりの電話……俺の代わりに話をつけに行ったハヤト……そこでハヤトが毒を盛られたこと……。

 ……サユリが……悪意になってしまったこと……。


キャラ (11)

「ついに敵も本腰を入れてきたということか」


 ササハラがクールに言った。

「福岡ファイターに、初めて明確な攻撃を仕掛けてきた。それも、リーダーであるハヤトをピンポイントに狙って。……サユリは自分のことを悪意だとはっきり言ったんだな?」

 ササハラの問いに俺はうなずく。

「これまでのデータから、悪意に取りつかれた人間は、意識が明晰なほど強力な傾向がある。それに、いくら悪意でも、ふつうの女子大生に毒など簡単には手に入るまい。組織だって動いていると考えるべきだろう」

 組織……。サユリがなんで……。


メインキャラ (12)

「ヤノさん……はじまりの場所って、もしかして」


 ナミが顔を上げた。

 さっきまでの戸惑いは消え、決意に満ちた、凛とした顔になっている。


pヤノ

「……福岡市動物園、だぞお…」


 俺たち福岡ファイターは、夏の日差しの中、動物園まで急いだ……。



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 夏の緑があふれんばかりに茂った福岡市動物園……。

 サユリはここが好きで、俺たちは何度もデートで訪れた。

 不器用で誤解されやすいサユリは、他人から悪く言われたり、敵を作りがちなタイプだったけど、こころの純粋な、ひたむきな女だった。

 動物が好きなのも、人間みたいに悪口を言ったり、裏切ったりしないから、だと……。

 そんなサユリが、どうして悪意になんかなってしまったんだよお……。

 ゲートをくぐり、ジリジリした日差しが眩しい園内を走った。

 ここでハヤトとタイマンをし、氷のアリバに目覚めたのが、もうずいぶん前のことに感じる。

 象の檻の前に、サユリは佇んでいた……。


e_47_boss_サユリ


 その、気だるげで、どこか浮世離れした様子は、いつもの、デートでの待ち合わせのときとまったく同じで、不思議な既視感を覚える……。

 サユリの瞳が紅く……

 そばに、荒い息で汗にまみれ、苦しそうに横たわるハヤトが居なければ。


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「やあっと来たね、ヤノくん! 待ちくたびれたよ!」


キャラ (16)

「サユリぃ! これはいったい、どういうことなんだよお!」


「どうもこうもないよ。ワタシは悪意になった。そして、教団にもらった毒をハヤトさんに盛った。それだけの話!」

「それだけじゃないだろうがよおおお! なんでおまえが悪意になんかなってしまったんだよお!」

「それ、そんなに重要?」

「あたりまえだろお!」


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「悪意になれば、ワタシの故障した腕が治るって言われたからね! アナタのせいで失ったアーチェリーを取り戻せるっ! やあっと手に入れたこのチャンス! 見のがすほどバカじゃないっ!」


 アーチェリー……俺のせいで……奪われた……

 両膝から力が抜け、フラリと倒れそうになる……

 そして、俺とサユリの因縁であるアーチェリーが、頭をめぐった……。



 ……俺とサユリのなれそめは、東西大学アーチェリー部での、先輩後輩という関係からだった。

 俺のほうは競技者としてはパッとしなかったが、サユリは東西大学が誇る名選手だった。

 何度も大会で表彰され、国体にも出場経験があった。サユリは才能もあったが、それ以上に、努力の鬼だった。人生のすべてを弓に賭けていたと言ってもいい。

 それは俺と付き合いだしてからも変わらなかった……。

 だが、その妥協を許さないストイックさと、敵を作りやすい本人の性格のせいで、まわりからは妬まれ、部では孤立し、コーチからは厳しく扱われた。

 そんなまわりを見返すため、サユリはどんどん無理をするようになった。

 身体もかえりみず、

 ただただ自分を追い込み、

 過酷な練習をおのれに課した。

 ……俺は……サユリのただひとりの味方として、応援し続けた。

  ガンバレ。ガンバレ。と……。肝心なことは見落として……。

  そして、あの事件が起きた……。


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「…………っ痛ッッッ……!」


 いつもの練習中、サユリの腕の腱がついに限界を超えた。

 慢性的な腱鞘炎。本当は、コップも持ちあげられないほど、サユリは傷ついていたのだ。俺はそれも気が付かず、サユリをただ応援していただけだった。

「…………うそみたい……もう……アーチェリー……できないんだって…………」

 手術は失敗し、サユリの右腕からは、弓を引く力がなくなった。


e_47_boss_サユリ


「…………なんなの、これ…………ワタシには、アーチェリーだけだった。敵だらけの世の中で、弓だけがワタシを救ってくれた……! なのに、なにも悪いことしてないのに、その弓を奪われたッ……! フザけてる……ほんっとフザけてる! ……ねえヤノくん……」


 サユリはゾっするような暗い瞳で笑った。


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「……どうして、こんなふうになるの……止めてくれなかったの……?」




メインキャラ (12)

「だからって、なんでハヤトに毒を盛るんだっ! ……教団がそんな勝手を許すはずがないっ」


 ナミの声で我に返った。サユリをにらんでいる。


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「ふうん。アナタがナミ? 詳しくは知らないけど、教団の方針もちょっと変わってきたってことじゃない?」


キャラ (11)

「…………なにが望みだ?」


 珍しくササハラが前に出た。

「……わざわざ即死させない遅効性の毒を使い、福岡ファイターを呼び出した。さしずめ、ハヤトは人質といったところだろう? ここまで用意周到に計画したからには、なにか要望があるのだろう。それを聞こう」


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「話が早いね! ワタシは……アナタたちと、ゲームがしたい!



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