ウィルトンズサーガ【厳然たる事実に立ち向かえ】第3作目『深夜の慟哭』第63話

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「しかし俺たちは、どこをどう他の妖精たちを探したらいいのかは分からない。ブルーリアには、心当たりがあるだろう? 今から探しに行こう」

「ここからしばらく歩けば、大樹の森に着くわ。地下世界にある森よ。森もかつては緑だった。果物や木の実が豊かに実って……。でも今は」

「そういえば、パンのような木の実が成る木を見つけてくれたよな。そんなのは無いのか?」

「探せば見つかるわ。全く何もないところではないの。多くの大樹は立ち枯れてそのまま。だけど今も緑の木もある。木の実が成る木もあるのよ。少しはね」

「じゃあ、さっそくそこへ行こう!」

「待って、まだ少し休ませてちょうだい。心の整理がつかないの。私たちのせいだったなんて、私がそれを思いつかなかったなんて!」

「ブルーリア、それでも暗黒の神ダクソスが悪いのには違いないさ」

「ええ、そうよ。でなければ、そもそも私たちが恨みを持つ事もなかったわ」

「そうだ、人間の身体、ロランのための人間の身体は? それはどうなったのですか?」

「レドニスの洞窟の中よ。私が愛した人間の青年の身体。あの身体も、恨みから解放されている頃ね。もう一度洞窟の中へ戻りましょう」

「どうなるのですか? 恨みから解放されたら。あなたの髪の色は明るくなりましたね。レドニスが奪った人間の肉体には、どんな変化があるのですか?」

「彼はとても凛々しく素晴らしい青年だったわ。その肉体は元のように、金髪で青い瞳の青年の姿になるわ。ロラン、あなたの新しい肉体になるのよ」

 ロランはまだ、主(あるじ)の背負い袋には入っていなかった。

「金髪で青い瞳。まるでアーシェル様のようですね。僕たちを温かく迎えてくださったあの田舎のご領主様は、そんな僕の姿を見たら、何と言われるでしょうか」

「ええ、似ているわよ。だって私の彼の肉体は、アーシェル、あなたたちの世界の貴族の、母親の違う兄弟なのですもの。アーシェルが兄よ。二つ歳上なの」

「弟だって?! じゃあ、その青年も貴族なのか?」

 ウィルトンは驚いて声をあげた。

「違うわ。だって、私の彼は、身分の卑しい女から生まれたから。貴族の中には、入れてもらえなかったの」

「それはそれは……。なんて言ったらいいのか。アーシェル殿は、弟をそんな風に扱う人とは思えなかったんだが」

「それは決まりだから仕方がないのよ。人間の世界の決まり事。お兄さんにもどうしようもなかったのでしょう。けれど、その代わり、私の彼は自由だったわ。お兄さんのように、貴族としての責務はなかったのよ」

「名前を聞いてもいいですか? あなたの恋人だった人の名を」

「僕も知りたいです。これから……その身体をいただくのですから」

「エーシェルよ。兄に似た名を付けてもらえたの。兄のアーシェル自身が五歳の時に、弟にその名を付けたのよ。生まれてからそれまで、ただ『次の子』とだけ呼ばれていたらしいわ。エーシェルの母親がそう言っていたのよ。でも兄のアーシェルが、弟がいることを皆が忘れないように、自分と似た名を付けたの。そう聞いたわ」

「そうか! やはりアーシェル殿は素晴らしい貴族であり、ご領主様だ。俺なんかより、ずっと新たなご領主様にふさわしいさ。センド殿に代わって、俺の村も含めた、このあたり一帯を治めるのにふさわしいのはアーシェル殿に違いない」

「私も、そう思います」

 アントニーは言った。どこか、ため息にも似た声音だった。

「お前も素晴らしい貴族さ。俺にとっては、この世で一番だ。だけどお前は、もう貴族として責務を果たすのに疲れてしまったのだろう?」

「アントニー、あなたはもう地上での責務など果たさなくていいのよ。この地下世界を解放したら、ここでずっと幸せに暮らすの。地下世界が解放されたなら、地上にも平穏が訪れるのだから、あなたはもう、戦わなくていいの」

 ブルーリアは、そう告げて立ち上がった。

「さあ、ついてきて。ロランのための肉体を取り戻しに行きましょう」

 先に洞窟の中へと戻っていった。二人の男たちは後からついて行く。

 再び、妖精の墓のある場所へ来た。

「俺にくれたこの銀の鎧があった場所だな」

「きっと、この近くにあるわ」

 墓所の後ろ側に大きな岩に隠れて、横穴が見つかった。ブルーリアはかがみ込み、中をのぞく。

「あったわ」

「そうか! ロラン、よかったな!」

「待ってください。気が早過ぎますよ」

 アントニーもブルーリアのそばに来た。ひざを着いて、かたわらから穴の中を見た。

「奥に何かありますね。そう、あれは、人の身体ほどの大きさの物を、布に包(くる)んでいる」

「そうよ。きっとあれだわ。待っていてちょうだい」

 ブルーリアは、アントニーたちの返事を待たすに横穴に入っていった。

続く

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