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【クリエイティブ生活】それは水割り? それともカクテル?【フィクションの各要素】

 ある人が言うには、今の『小説家になろう』などを中心とするウェブ小説の主流は要するに、人間の根源的な願望を、薄めることなく原液そのままストレートで描いたものなのだという。

 他のフィクションにはそうした物はほとんどない。だから人気があるし、みんな読みに集まってくるのだと。

 その前提が正しいものとする。

 まあ原液というと少しあれなので、度数の高い蒸留酒をストレートで飲むのか、それとも水割りか、のような違いだとしておこう。

 では人間の根源的な願望とは何か? 承認欲求、性欲、物欲、安全安心への欲求、楽して成功したい、憎たらしい奴をぶちのめしたい、などであろうか。

 他のエンターテイメントのフィクションでも、それらの願望を読者やプレイヤー、視聴者に、特に主人公を通して擬似的に体験させる故にエンターテイメントとして成り立っているのだが、通常それは他の綺麗事的な要素で薄められているのだと。

 綺麗事的な要素は、愛とか友情とか、困っている人を無償で助ける、使命感、他にもあるだろうが、そんなところだろうか。

 あるいは、知性や文化の香りを感じさせるような、うんちくだったり設定だったり描写だったりもするのだろう。

 さて、これらの綺麗事は果たして単なる水割りの水に過ぎないのであろうか?

 私の考えではそれは違っていて、水割りというよりはカクテルである。


 薄められる原液も、それ自体いろいろな雑味がある。

 根源的な欲望が性欲だったとして、単にヤルだけでなくて、様々な点で好みの美女と理想的なシチュエーションで、ならそれ自体雑味があるし、その雑味こそが味わいである。

 それで、そのゴールに至るまでに障害を乗り越えて進んでいく。途中では心身ともに痛い思いもすれば、人々の助けを得て人情を感じたり、美女への強い愛情が描かれたり。それは希釈するために注がれるシャンパンやらジントニックやらに相当する。

 背景となる舞台設定は、近未来東京で、今よりずっと格差が広がり治安も悪化した、ちょっとサイバーパンク風の世界だとしよう。これは風味付けのためのライムやシロップなどに相当する。

 飲んだ後の口当たりはどうだろうか?

 甘くて純粋に美味しいか。少し苦い味がするだろうか。

 そんなわけで私にとってはエンターテイメント作品とはカクテルのような物である。

 なぜ原酒そのままストレートではないのか、なぜウェブ小説ではストレートが受けるのか。

 そこの考察は今回はしない。

 ただ一つ言えるのは、ストレートや甘い口当たりだけがエンターテイメントではないと言うことだけだ。

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