現在の音MADを形作る、文脈的に重要な音MAD8本を選んでみる

この記事は音MADアドベントカレンダーに参加しています。

『音MAD』は、後追いが難しいジャンルです。
体系的にまとめられた資料が少なく、古い動画は削除されてしまったものも多数あります。
削除跡地の廃止により、その動画がどのような形で人気があったのかもわかりづらくなっています。

そこで、現在の『音MAD』への影響が大きい、文脈的に重要な作品を選んでみました。
私独自の視点で選んだので、「これは違うだろ!」「あれがない!」と思われる方もいるかもしれません。そんな人は自分で選んでみてください。楽しいよ!

私が選んだのは下記の8本です。
中途半端な本数ですが、あと2本がどうしても決まりませんでした。極限まで減らしたためということにしておいてください。


Cntuone(2009年03月26日投稿)

http://www.nicochart.jp/watch/sm6547517
・シンセサイザーのような音作りの草分け的存在。yamas氏や音程合わせメインの音MAD、YTPMVへの影響。
・柴田の声をシンセサイザーのように加工した音MADはこれ以前にも存在するが(【東方頭破七分】ヴォオオヤージュ1992【エア本爆発祭】、soka stormなど)、10選の得票数的にもインパクトが強いのはこの動画ではないかと思われる。
・音声に注目されがちだが、落ち着いた色調補正やPVのような画面構成(恐らく元PVのパロでしょうが)も当時としては先進的に感じる。

モノノケオドル(2009年05月11日投稿)

http://www.nicochart.jp/watch/sm7017728
・エポックメイキングなアニメ音MAD。総集編音MADの元祖といっても過言ではないのではないか。作品に寄り添った雰囲気づくりは当時のアニメ音MADと一線を画している。
・作品をイメージした背景に小窓を配置していくスタイルはこの動画から?
・『ミサカオドル』『トウカトウカ』などの名作に多大な影響を与えており、セリフ合わせメインのアニメ音MADにおける間接的な影響は計り知れない。この動画がなければ後の界隈の様相も大きく異なっていたかもしれない。

はじめての戊辰戦争(2012年6月30日投稿)

https://www.nicovideo.jp/watch/sm18225317
・曲をぶつ切りする『急停止』あるいは『ホモ特有のTNP』。あえて雑っぽく作る手法。伊尻氏をはじめとする、のちのフリースタイルへ連なる最初期の動画。
・同じような手法はサイクロップス先輩ブーム以前にもkodax兄貴の動画でみられるが、よりメジャーになったのはこれ以降と思われる。
・同作者の動画では、静止画ながら運営に管理者削除され、再うpや釣り動画として爆伸びした『サイクロップス伝説』も外せない。

ニコニコオールスターで「遠野妖怪前線」(2012年09月30日投稿)

http://www.nicochart.jp/watch/sm19006365
・現在多く見られる矢継ぎ早に素材が変わっていくオールスター系音MADの元祖。テーマオールスターや『○○コアシリーズ』、Haunted Danceなどの私的オールスターにも間接的な影響がありそう。
・当然オールスター音MADはこの動画以前にも存在するが、ここまでハイスピードに展開されるものはそうそうない。
・『ニコニコオールスター』を冠しているわりに、マイナーや内輪な素材も大量に使用する大胆さも見逃せない。この音MADの登場により、今後の音MAD界隈の文脈が再定義された、ひいては内輪・ハイコンテクスト化が進んだ、という印象もある。

Please kill my love(2015年05月31日投稿)

http://www.nicochart.jp/watch/sm26378530
・正角形のパターン、ピクトグラムの多用、光の表現、などのデザイン寄りな画面構成は、同年の『LOVE Y.R.P』と併せて先駆的。
・現在の音MADは、セリフ合わせ、音程合わせ(YTPMV)、人力ボーカロイドが巧みに融合されている動画が多いが、その最初期の好例と言える。

肌WOW 肌WAR TONIGHT(2017年12月22日)

https://www.nicovideo.jp/watch/sm32461111
・ストーリー音MAD、音MADユニバースの発生。音声に合わない字幕を付け、勝手に世界を救わせたり、やけに重い運命を背負わせたりするのが特徴。
・2018年の10選では本作に加え、『モンハンワールドをかう頃に』や『ハラニシクエスト』『エンドーショージにパンツ一枚とハイテンションを添えて【音MDM】』などのストーリーが展開される動画が支持を得た。2018年はストーリー音MADの年だったといえる。
・ストーリーが展開される音MADは、往年の遊戯王MADなどのキャラの掛け合い重視のものもあるが、それらとは趣が異なる。不条理でスケールの大きな展開は月面ドリルライナー氏の作風(『あったかいざー』など)の方が近いように感じる。

ダンス首絞めダンス(2017年12月27日)

https://www.nicovideo.jp/watch/sm32485786
・ボカロ曲×音MADの時代の幕開け。ナユタンMADを発端とし、『ロキ』『乙女解剖』『ルマ』『ラグトレイン』『神っぽいな』『きゅうくらりん』など今日までボカロ曲が音MAD原曲として隆盛を極めている状態が続いている。
・ダンロボ音MADは2017年5月~6月頃に一度音MAD界隈でも流行しているが、規模としては2017年末~2018年上半期の方が圧倒的に大きい。
・この音MADにより『Vtuberダンスロボットダンスリンク』が人気となる。当該記事に詳しいが、音MADを公認するVtuberが相次ぎ、音MADを自給自足で作成するVtuberや、音MAD制作を促すVtuberも現れた。ネット全体を巻き込んだうねりの中で音MADが著しく注目された、画期的な流行であった。



余談(宿題)

◇刻みが分からない。
・作者によって特徴が違いすぎるので、後の作風への影響という点では語りにくいような気がする。

◇人力ボカロ×音MADの邂逅の時期が分からない。
・2009年~2010年頃のどこかなのは間違いない気がするけど……。
・少なくともエルシャダイブーム時(2010年9月~10月頃)にはメジャーな手法。
・『カビキラメキラリ』とするには時期が遅すぎる。というか今見ると意外に人力ボカロ要素は控えめ。
・『日下部みさおの消失 -VAVAVA END-(2010年1月9日投稿)は良いラインかもしれない。裏表ラバーズブームの前。○○の消失シリーズでこれ以前にここまで自然な人力ってあるかな。
・アニメOPの音MADも探してみたけど掘り起こしが難しい。
・そういえば雪村いづみがいた。
歪音エナもいる。
(令和4年12月4日 追記)
竹塔さんから『マツダと神デレラ』の影響が大きいのではないかと指摘がありました。時期的にもぴったりハマりますね。(削除跡地の廃止のせいでこういう動画を思い出すのが非常に大変で困る)

◇YTPMV×音MADの邂逅も分からない。
・Please kill my loveの前にもう一個置いた方がスッキリする気がする。
・ボム兵のとこシリーズ?stein氏の『if』?なんか違うような……。
(令和4年12月4日 追記)
れでぃばさんから『ぽてまよ』『Redial me baby』辺りが近いかもしれないとの指摘がありました。どちらもYTPMVの枠を超えた話題性があった気がします。特に『Redial me baby』は当時、「YTPMVは積極的に見ないけどこれは好き」といった声がいくつかあった記憶がありますね。