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「譲渡に向かぬ犬」年度末に集中殺処分~広島県動物愛護センター、1月から方針変更、ピースワンコに広報適正化も要請

1、殺処分は前の年度の3倍に

 広島県動物愛護センターが殺処分した犬の数は、2019年度216頭となり、2018年度(69頭)の3倍に増えました。

 今年1月、攻撃性のある犬など譲渡に向かない犬の殺処分を増やす新しい方針を県が決めたからです。

 新しい方針の決定を受けて、譲渡不適と判定された犬たちの殺処分は2月から3月に集中的に実施されたもようです。

2、ピースワンコに過剰な忖度

 この方針は外部に公表していませんでした。しかし、殺処分対象の「全頭引き取り」を掲げて保護犬活動(ピースワンコ)を展開していた地元NPO法人ピースウィンズ・ジャパン(神石高原町、大西健丞代表理事)には、すでに昨年11月、広島県の担当者が文書で相談をしたということです。

 まったく、この不透明なやり方はどうしたことでしょう?

 担当者は、ピースワンコに事前通報したのは「適切な広報をお願いするため」だとし、殺処分ゼロとか、全頭引き取りとかという表現は適当ではないということも口頭で伝えたとしています。

 寄付金をたくさん集めるため、情に訴える宣伝にお金をかけているピースワンコに、正確な状況を支援者に伝えるよう指導するのはよいことです。しかし、そうであってもなぜ他の愛護団体や世間に対して方針変更の事実を、公表しなかったのでしょう?

 ピースワンコと広島県は持ちつ持たれる、2年前の狂犬病予防法違反など法令違反も両者は共犯関係にある、と私が思うのはPWJ/ピースワンコに対する過剰なまでの気配り、忖度がいろんな場面で目に付くからです。

3、ワンコの引き取り抑制中

 PWJ/ピースワンコは2年前の狂犬病予防法違反の反省を踏まえてだと思われますが、犬の引き取りを「適正飼養」可能な範囲に制限しています。

 筆者も情報開示請求によって、広島県からの犬の引き取り状況を検証しましたが、1週間に13~15頭程度に抑えているようです。一度に30~40頭程度引き取っていく滋賀県からやってくるNPO法人・動物愛護団体エンジェルス(林俊彦代表)より少ない月もあります。

 エンジェルスは飼い主が確実に見つかる子犬中心に引き取っています。譲渡適性のない犬の引き取りは、それを訓練すれば譲渡に回せると主張するPWJ/ピースワンコがもっぱら引き受けていました。

4、岡山県は「スタッフ不足」問題視 

 しかし、譲渡問題に詳しい専門家によると、昨年あたりから引き取られず行き場を失ってしまいそうな犬が県動物愛護センターの収容施設に残されるようになっていました。

 先週のことになりますが、ピースワンコが攻撃的だったり、人を警戒して近寄ろうとしない扱いの難しい犬を主に移送しているとされる岡山県高梁市の西山犬舎に、岡山県動物愛護センターの立ち入り調査が入りました。

 西山犬舎には合計680頭程度の犬が収容されていたそうですが、世話をするスタッフが足りず、岡山県の担当者からは犬を減らしたり、人を増やしたりするよう指導を受けています。

 ピースワンコには寄付金がたくさん集まりますが、お金はスタッフ養成のために十分に使われているのでしょうか。現場は理想通りには回っていないのかもしれません。

5、殺処分ゼロ、広島方式は背伸び

 今年初めごろには「県動物愛護センターは殺処分が再開するのではないか」という噂も聞こえてきました。筆者も当時の愛護センター所長に電話をして確かめましたが、「収容能力にはまだ少し余裕がある」とはぐらかされました。

 もちろん、広島県は神奈川県など先進事例にならって、かつてのようにガス室にまとめて追い込む残酷な殺処分は中止していて、現在は薬物などにより安楽死させる方法をとっています。その処分は新しい方針が決まった1月以降、年度末の3月にかけて集中的に行われたもようです。

 ピースワンコが掲げる「殺処分ゼロ」は、民間独自の目標ですが、広島県も全面的にサポートしてきました。すでに熊本市や神奈川県などが、官民連携してそうした目標は達成していて、珍しいものでもありませんが、「ふるさと納税」を財源にしたり、まず最初に殺処分対象を全部引き取るという派手な振り付けが話題を呼びました。

 ただ、熊本市などがボランティアや動物専門学校などとも幅広い協力体制を作って、環境を整えたのに対し、思い付きのような広島のアイデアは背伸びが過ぎたようです。

6、「困難犬」の譲渡方針を撤回

 2年前に大西健丞代表理事らPWJ幹部や法人が広島県警の捜査で狂犬病予防法や動物愛護管理法違反に問われてしまいました。

 広島県にもずいぶんと批判の声が集まりましたが、県はそれでもPWJ/ピースワンコをかばいました。無理をし過ぎたピースワンコの負担を軽くするよう、譲渡しやすい犬は他の愛護団体に引き渡し、ピースワンコには譲渡困難な犬を重点的に渡すという方針を、なんと当時の県副知事が会議で指示したりしているのです。

 しかし、「殺処分ゼロ」の前提条件、定義は移ろいやすく、今回の殺処分3倍増にみられるように実質的には崩壊していて、達成度合いを評価しにくい目標になっています。

 広島県の方針は、環境省が今年4月に改正した「動物愛護・管理施策を総合的に推進するための基本的な指針」に盛り込まれた殺処分についての新しい考えを先取りしたものだとしています。

 環境省指針は、殺処分を①譲渡することが適切ではない(治癒の見込みがない病気や攻撃性がある等)、②①以外の処分(譲渡先の確保や適切な飼養管理が困難)、③引き取り後の死亡、の3分類を示し、②を重点的に削減していく方向を打ち出しています。

 こうした議論が起きた昨年から広島県でも対応を検討していて、殺処分ゼロを目指すとしても、譲渡しやすい犬猫を対象とする②を中心に進めていくことにしたのです。つまり、今後も①や③を除く実質ベースでは「殺処分ゼロ」が続いていると説明するものとみられまあす。

 しかし、実際には殺処分対象は増えて、処分される犬も増えます。いままでは副知事の指示にあるように、むしろ①をPWJ/ピースワンコに重点的に譲渡するようにしていたものを撤回し、県が殺処分していくことになると、ピースワンコが標ぼうする殺処分ゼロとは中身が異なってきます。

 昨年11月に県庁食品生活衛生課からピースワンコ側に県の考えを文書で伝えたのは、むしろ、「殺処分ゼロ」や「全頭引き取り」を過度に強調して寄付を集めたりしないよう念を押す狙いがあったということです。

7、「ゼロ」よりも野良犬対策優先へ

 広島県では、野良犬の捕獲数が県の計画通りには増えていません。そのため県動物愛護センターに収容される飼い主のいない犬の頭数も減りません。

 2019年度の収容頭数は1511頭(速報)で、2018年度より9%程度減っていますが、過去5年間は1492頭~1691頭の間で推移していて大きく減る兆しはありません。

 筆者は今回、PWJの犬引き取り数が激減しているという噂を確認するため、県に情報公開請求し、個人・団体による譲渡申し込み書類の内容を分析しました。

 その結果、ピースワンコにおよそ640頭、滋賀県の動物愛護団体エンジェルスにおよそ450頭、その他団体に40頭、個人向けに130~140頭程度が譲渡されていると推定できたのですが、合計頭数は1260~1270頭で2018年度(1479頭)より200頭前後少ないことがわかりました。

 その200頭の行方を広島県に問い合わせたところ、処分対象を広げて、年度末に集中的に安楽死処分していたことがわかった次第です。

 環境省の指針は、短期的には殺処分ゼロにこだわらず、野犬の集中的捕獲と再生産の抑制を急いだほうがよい地域もあるとしていて、野良犬が多い広島県は限られた予算や人員を野良犬の捕獲と不妊去勢に集中投入することを迫られることでしょう。

 県自身が検討していた時期もありますが、「ふるさと納税」などクラウドファンディングで民間資金の協力もあおいで、野良犬の捕獲・収容を急ぐ必要もあるかもしれません。


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経済ジャーナリスト 日本記者クラブ会員 ウォーターサイドラボラトリー代表社員 早稲田大学政治経済学部政治学科卒、日本経済新聞社でシンガポール、大分、千葉の各支局長及び編集委員、日経グローカル研究員など。国際開発高等教育機構リーダーシップアカデミー修了 広島県尾道市出身

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