全頭DNA鑑定迫る宮城県産和牛の購買者、県の調査に懐疑的

本当に真相を解明する気があるのだろうか?

 そんな感想を抱いた参加者も少なくなかったようです。

宮城県産和牛の遺伝子不一致問題で、宮城県と全農宮城県本部は20日、県本部が運営する家畜市場内で子牛を買い付ける購買者向け説明会を開きました。

 配布資料では「今後は、告発も視野に入れ、関係機関・部署と相談している」と明記していますが、どんな法令違反を想定しているのか、はっきりしないのです。

村井嘉浩県知事は今月5日の会見で、家畜改良増殖法での罰則適用は難しい、実際は民事上の責任となる、とも述べていて、全国から寄せられた非難の声や宮城県産和牛離れを警戒して、告発するフリをしているだけではないかという疑いもぬぐえません。

遺伝子不一致は作業ミスだと説明する獣医師はいまも営業中です。

地元のJAいしのまきは、遺伝子不一致で損を被った農家への補償や支援をどう扱うか、県に相談しているところです。

獣医師が廃業したり、破綻したりすると、十分な賠償をとれなくなることを恐れているのでしょうか。そのくらい県は、獣医師や農協の立場に気をつかっています。

 20日の発表では、これまでDNA鑑定が終わった206頭のうち遺伝子型が父子不一致だったものが23頭で、不一致率は11.2%でした。

検査予定は260頭で、これから結果が判明する牛が54頭いますが、「今後生まれてくる牛もいるため、増加します」ということです。

県は石巻市の開業獣医師に対する立ち入り調査で、凍結精液入りストローの在庫を一本ずつ台帳などの記録と照合し、どのようにして異なる種雄牛の精液を授精したのかを解明中です。

和牛のプロたちの評価は、この獣医師が記録上使ったと書かれている種雄牛は人気の牛ばかり、実際に検出された種雄牛は不人気で精液の値段も安いものがほとんどという点で一致しています。

種付けを依頼してきた農家をだました疑いも浮かんでいるわけですが、告発も視野に入れると言いつつ、宮城県は慎重です。

証明書への虚偽記載など家畜改良増殖法に違反する行為に関しても、詐欺のような刑法上の犯罪行為に関しても、決め手となる証拠を示さないまま、警察と相談をしているようなのです。

県内の別の家畜人工授精師による授精でも遺伝子不一致が判明していますが、県の調査は事実上手付かずのままです。

この問題を私がこのサイトで取り上げる前から、獣医師と面識があり、種付けを依頼した家畜人工授精師がいる、という噂が流れていました。人工授精師が多忙で授精を獣医師に依頼するようなケースであったりすると、獣医師の授精分だけをDNA鑑定の対象にするのでは済まなくなる問題です。

出席者によると、家畜市場での説明会でも購買者から獣医師と授精師の関係を問う質問が出たようですが、県は確かなことがわからないという立場で明確な説明を避けました。

同じことを尋ねていた筆者の質問に対し、県は「複数から情報提供があり、現在確認中です。家畜改良増殖法に基づく立ち入り検査の権限を越えることが想定されますので、この件については、県警にも相談しながら対応していくこととしております」という回答を書面で寄せています。

どういう経過で受精師が関わった授精がDNA鑑定にかけられたのか、他の産子のDNA鑑定をしないでよいのか等々、県はそんなことも警察に任せなければ調査ができないものなのでしょうか。

種付け作業の履歴に解明できないブラックボックスがあると、そこが発火点になって、精液や受精卵のヤミ流通や記録の改ざん、外国への密輸が横行することにもなります。

説明会では、この際、獣医師が授精にかかわった牛に限定せず、宮城県産の和牛の全頭DNA鑑定を実施してはどうか、という意見も出されました。全頭鑑定を一度実施すれば、シロクロがはっきりして、一時的にコストはかかるものの信用回復への近道になるからです。

宮城県や全農宮城県本部にはこの際、県産和牛の血統が本当に正しいのか、時間とカネがかかっても丁寧に調査を進めて欲しいと思います。

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