【仮設】私的文学工房

Ouvroir (provisoire) de littérature personn…

【仮設】私的文学工房

Ouvroir (provisoire) de littérature personnelle "Le cadavre exquis boira le vin nouveau." 「優美な死骸は新しい葡萄酒を飲むだろう」

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  • 『上陸』第四号感想記事まとめ

    『上陸』第四号(旧ラドン発行)の感想記事をまとめました。

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【小説】 動物園

 動物園に行こうと思い立ったのは、残忍な暑さが影をひそめ、冷たい風が不器用に秋を午後のなかに混ぜ始めた九月の終わりのことだった。 「動物園でも行くか」と出しぬけに僕が言った。  僕はベッドに寝転がりながら、スマートフォンでサッカーゲームをしていた。「雑魚は消えろFC」に0−4の大差で負けていて、こちらを煽ってくる相手の壮絶なラフプレーを口をぱくぱくしながら呆然と見ていた。 「うん、動物園に行こうか」、僕の隣に寝そべり、YouTubeで動画を見ていた彼女が言った。  単なる思い

    • (特に理由もないが)ちくま学芸文庫全読破を夢想してみる

      ちくま学芸文庫全読破の野望 先日、ちくま学芸文庫の既刊2019冊をリスト化したというnote記事を目にした(註:かるめらさんの記事参照)。大変な力作で、上から下まで眺めるだけで、結構な時間がかかった。 タイトルと著者名を見ているだけでも、なんとなく勉強した気になるのだが、しかし、本はやはり読まれてこそ価値あるものであるはずだ。 (なお、これは大量の積読を抱え、日々背表紙を眺めるだけで充足している自らへの自戒と自虐をこめた言葉である。) そこで、僕は一念発起し、発刊された

      • 『上陸』第4号感想2 「OTHER」朝倉千秋

        先日、公式ツイッターからラドンという名前を脱ぎ捨て、『上陸』になったということを知ったので、この記事の表記もそちらに従います。 前記事に続いて、『上陸』第4号の感想記事です。書評のようなかたちに感想をまとめました。 ●「OTHER」朝倉千秋 この小説は、徹底的に、あるいは決定的に冷たい。 雑誌自体の末尾に挿入された作者のコメントには、清美に「肩入れしてみた」と書かれていたが、僕はあまりそうは読まなかった。もちろん、作者がある程度まで清美に寄り添っていることはわかるが、どこ

        • ラドン『上陸』第4号感想1 「人形遊び」直嶋犀次

          少し前のことになりますが、縁あって、創刊から毎号欠かさず購入しているラドンの合評会におじゃまさせていただきました。 大変白熱した合評会で、僕自身の創作にも大きな刺激を得ました。 そのときの感想を書評のような体裁にしたので、作品ごとに何回かに分けて記事にします。 ●「人形遊び」直嶋犀次  「人形遊び」という行為は、何かを見ないようにする「嘘」を内在している。その共犯関係を成立させることで、初めて可能になるコミュニケーションがある。それを嘘、と言い切るのは暴力的でもあって、

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          好きなもの、好きじゃないもの

          好きなもの 朝、早起き、青信号。猫、空き缶、横断歩道。青、雑草、水平線。島、自転車、湾岸線。 部屋、お昼寝、新幹線。海、灯台、望遠鏡。 。アトレティコ・マドリードーーただし監督はシメオネに限る。田舎の駅のホームーー電車は日に三本しか来ない。水面、電話ボックス、ふりかえる蛍光灯。夜のスタジアム、人気のない公園、冬の海岸。ギター、無頼派、新聞紙。フランツ・リスト。映画館、片づいた冷蔵庫、組織的なプレッシング。自動ミル付きコーヒーマシン、紙パックの旧式な掃除機。本棚、ガラクタ置き

          好きなもの、好きじゃないもの

          【夢日記】夜の蜘蛛

          なにかを飲みこんでしまったかもしれない、と思った。 喉の奥にひっかかる感覚、かたくて、とがったものが、喉仏あたりに残っていて、ちくちくと動いている気がする。仰向けになったまま、つばを飲みこんでも、その感覚は消えない。どうしてか、蜘蛛を飲みこんでしまったのだ、と思う。もしかしたら、寝るまえに小さな蜘蛛がベッドのそばを歩いていたのを見つけたのかもしれない。わからない。ただ、僕はそのとき、蜘蛛を飲みこんでしまったんだ、と思った。そう考えると、喉のちくちくとした痛みは、僕の粘膜を鉤

          【夢日記】夜の蜘蛛