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傘と包帯 第四集

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詩を書いてもらいました。目次からどうぞ。
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目次

2018.04 015+1 ೫ Profile 序文・一期一会一花 / 早乙女まぶた 少女と男 / 菫雪洞 7分30秒と沈黙 / 間富 大学と皮膚 / 水槽 欲求と液体に就て / shakainu 罰当たりクリニックケースカンファレンス第5号少年Qの事例 / ひのはらみめい 私の部屋 / だんご ラブリー / 煩先生 パラグラフ26 / naname うるさいくらいにふるえてる / おだやか 音は壁を抜ける / 黒崎言葉 詩 / 藁反詩 亡命者 /

序文・一期一会一花

人間を信じるべきではありません。なぜなら人間は論理ではなくどうあがいても本物でいることしかできないからです。論理は常に同じ答えを出力しますが、それと同じように人間が生きようとした場合、まず論理に擬態する必要があります。しかしそれはたとえどんな憧れを持っていたとしても完全に不可能なことなのです。 さっきまで互いに慈しみ合っていた春色の恋人たちが、突如として相手の心に雪を降らせ遠い孤独の中に逃げ出してしまうようなごくありふれた奇跡も、なんの根拠も持たずに現実を変容させるという超

少女と男 / 菫雪洞

水面下の剣、満月のもとに兎 光の瞳の涼しさに 宝石を散りばめたこの眼差しは 一夜の貴女に衣裳を着せて 永遠にしてしまった もう二度と会わないだろう 二度とそこへ行かないから ナイトテーブルの端にペンを置き 裏表紙を閉じたなら 辛苦と妙なる衝突 等しくなにも知らなかったふたりの衝突が 今はきみだけを先に行かせて

7分30秒と沈黙 / 間富

〆切を 開いたドア 翳す桃 落着き 外す的 開いたドア わたし 部屋 纏わる壁 直線の端 使い古して 包んで 方位 消える 連絡先 新体制 壊れた端末  着信 終える 押印 インク切れ  開いたドア  白い風 乾く水 見ろ 食器 初期設定 脱水 〆切を 開いたドア 挿頭す桃 見回し 花吹く襟 開いたドア かなし 今朝 纏わる辞書 60度の角  覆い隠して 交して 波形 湿気る 座席 回転 壊れた端末 half half half 閉め切ろ

大学と皮膚 / 水槽

la 解答欄、アパートの空室のようで 白い肌で話しかける パイロット、(空白になっている) 彼女は、自転車から逃げたことがある 「車輪が男に似ていたから」 そう言って 服の裾をなおすついでにキスをしてくれた 血色のいい陽だまりに、ふたりだったから せっかく持ってきてくれたチョコレートが とけましたね (no im not すら、言えなかったのだ) 飛行場は風がやまないのだろう 僕は逆行するパイロット生活だ sadistic and evil 研究

欲求と液体に就て / shakainu

かろうじて人間である。 人間の姿を保持しているわたしは鳴く。欲する。 いつから言葉を発しているのだろう、大人になってからそんなことは気にも留めなくなった。 言葉に変換することさえも煩わしい、いつの間にか溜まり溜まった欲求は液体となってわたしから溢れる。 おなかがすいたら唾液が分泌されるように、ふとしたタイミングで、感情が溢れ出したら涙が。それは最早悲しいのかもわからない。 泣いて、鳴いて、言葉では表せぬ感情は誰に伝わることもなく、気の済むまでわたしから排出される。排泄行為で

罰当たりクリニックケースカンファレンス第5号少年Qの事例 / ひのはらみめい

隣人が死んだ。 なんの関わりもない人だった。 あのひとはその電車にたしかに乗っていて、逆方向にどんどんどんどん進んで行っていた。 ほんとうはそんなぎゅうぎゅう詰めにならなくてもよかったのに、 一つ隣の、スカスカの綺麗な座れる電車、 ゲロひとつない昼14時の電気をつけなくてもやさしくひかりのはいってくる電車 あのひとはあれに乗るはずだった 口を開けたままチョコレートを食べ尽くしてしまったので外袋を投げつけてわたしは祈った。 この蔓がどこまでもどこまでもどこまでも、のびて、あの

私の部屋 / だんご

今晩は画期的なアイデアを実行する いつもと反対の方向に頭を向けて眠るのだ ほらね 見慣れた部屋が知らない場所になる 普段一緒に寝るテディベアは足元にいる 「今日は君とは眠れないんだ」 私はテディベアのおしりを蹴った 私がいつもと違うことを家族は知らない 背徳感に頬がゆるむ いつにもまして外が騒がしく 目を閉じてもなかなか眠れなかった (知らない場所で眠るとき私は音に敏感になる) 道路を走る車の音 恋人同士の話し声 風が木を揺らす音 トイレに行く姉の足音 飼い猫の媚びた

ラブリー / 煩先生

綱維の森は 円き加飾で 経始せども 未全を着る 悲境の島は 戦績さえも 蟠結させて 鳳字を剃る 濛気の腰は 軽き魔性で 迷離せども 奇絶を診る 私曲の雛は 変成さえも 散見させて 壮美を掘る

パラグラフ26 / naname

ベルトコンベアから流れてくる魚たちを次々と拾い上げ、錫でできた小さなヘラで一対の目玉をくりぬき、目玉だけを次のラインに乗せる。他の部位は不要なので足元に置いた番重に捨てる。すぐに一杯になるので勝手の分かった従業員がどこかへ運んでいき、いつの間にか空の番重が用意されている。 スズキ、タラ、ヒラメ、マグロ、アイナメ、イカ、ホシササノハベラ、アカササノハベラ、リュウグウノツカイ、サヨリ、キンメダイ、またヒラメ、シャコガイ(目の無いものはそのまま捨てる)、タコ、サワラ、またヒラメ、

うるさいくらいにふるえてる / おだやか

いつのまにか池袋がこわい 偽ものの女のこ 移動販売のクレープ屋さんと どこかへ消えた 魚が死んだ 私が殺される 直前で目を覚ました朝 たぶん、ほかの魚たちは 彼(もしくは彼女)が いないことに気づかない あのこがくれた飴玉は ポケットの中でゆっくりとけた いつのまにか池袋がこわい トンチンカンな笑い声

音は壁を抜ける / 黒崎言葉

垂れ下がる雨滴はすべて苦く 一瞬の爆発的拡大を見せ 落下していく (引きちぎれた皮を名残惜しく 見つめながら) 塗料の上から爪を立てる ぱき、と ひび割れから弾力 落ちて 居場所だって減っているのだ 隙間に詰まる実感が 凍った皿の裏に 頭を抱いている 指のなぞる鱗粉は耐え難くて じっと唇の傷をなめた

詩 / 藁反詩

うんざりだ 退屈だ 虚無だ うんざりだ 不幸だ 不幸な人は何しよう 不幸な人は詩を書こう 神の不在も死んだ世界で 神の不在のふりをして 不幸な人は詩を書こう 神の不在のふりをして 何者にもなれない不幸な僕は 神の不在のふりをして 詩人を騙っていっちょ金儲け 嗚呼 なんて僕は不憫なの 神の不在のふりをして 真空が真空となり 重力が重力となり ぼくと世界の間にある帳 韻を踏んでみた どうかな? かっこいい?(批評:真空が真空となるという表現は一見単なるトートロジーに思えるが、シモ

亡命者 / 岩倉文也

ぼくは人生を 道とする比喩はとらない おお、口中が枯れる そして断崖 けれどぼくは あくまでここを立ち去ろうとする 矛盾であるか? 矛盾であれば ぼくを眠気から覚ましてくれ! どんな歴史にも従うものか どんなイメジにも 劣化し腐敗し崩壊する 精霊たちの馬鹿笑いが聞こえるではないか ぼくは進む 断じてここを去ろう その為ならいくらでも死んでやる からだが熱い 熱いぞ ああ ぼくは氷河を喰らいたい ぼくは孤高のペンギンとなって この時代の斜面を滑ってゆきたい どこまでも、そう ど