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宇佐見りん【推し、燃ゆ】~若者が描く、若者の推し活~


こんにちは、りょうこです。

書評をブログからnoteに引っ越ししてきました。

今回ご紹介する本はこちら。

宇佐見りん 著 【推し、燃ゆ】

はい、言わずとしれた、第164回芥川龍之介賞作品です。

ページ数 :128ページ。 
☆小説を読み慣れている方ならば、2~3時間で一気読みできます。

一言:読んでいて、とにかく苦しい。現実の生きづらさと心血注ぐ推し活の苦しさ。推すことのひたむきさと苦しさを若者が描く、「今」の空気を切り取った一冊。読むならば「今」読みたい。

お勧め度(りょうこ調べ): ★★★★☆

あらすじ

主人公の女子高校生あかりには「推し」がいる。アイドルの 真幸(まさき)くん 。ある日推しくんが、ファンをなぐって炎上する。

真幸くんのアイドル活動の浮き沈みとあかりの推し活への傾倒。真幸くんのアイドル活動の行き詰まりに呼応するように、破綻していくあかりのリアルの生活を描く、読んでいてちょっと苦しい一冊。

りょうこの書評

あなたには、【推し】いますか?
推しがいない、生まれてからこのかた三次元でも二次元でも、推しと呼べる人に出会ったことがない、そんな人にはこの本はお勧めできません。あかりの行動の全てが、なんのこっちゃ、全然わからないと思うからです。または、推し活がとても怖いもの、ちょっと変わった子たちがのめりこんでいるものと、偏見を持ってしまうかも知れません。

私には【推し】がいます。小学生の時にはじめて好きになった子役の男の子から始まり、漫画の主人公であったり、お笑い芸人さんであったり、ミュージシャンであったり、その時々で一番の 【推し】 は変わりましたが、いつも推す対象がいました。推し活とは、人生が豊かになり、辛いときの心の支えになり、友だちも増え、素晴らしいものであると、アラフィフのりょうこは断言したいと思います。(だから変な目で見ないでほしい)

さて、私の話は置いておいて、本書では初っぱなであかりちゃんの【推し】が燃えています。

推しが燃えた。ファンを殴ったらしい。まだ詳細は何ひとつわかっていない。
【推し、燃ゆ】Page.1

そう、一見大河ドラマのようなタイトルを持つこの本は、生き生きと活動していた推しが燃えるに至る様を描く話ではないのです。冒頭で燃えています、めらめらと。

あかりちゃんは、推しに関するブログの管理者でもあり、推し仲間のなかでは一目おかれている存在です。推しが発した言葉、着ていた服、全てを書き留めて分析していくタイプのファンです。ブログで記事を書くと、他のファンから「まってたよ~~~!」とコメントが入るような、そんな存在。

推しファン界隈では文才もあり、分析力もあり、人望厚いあかりちゃんですが、実はリアルの世界では正反対の生活を送っています。成績は振るわず、部屋は汚部屋(でも推しの祭壇だけは美しい)、居酒屋でのバイトでもクビ寸前の失敗ばかりです。

家はお母さん、成績の良いお姉ちゃんの3人暮らしで、お父さんは海外に単身赴任中。お母さんは、お父さんの転勤について行きたかったのにおばあちゃんに反対されて行けなくなってから機嫌が悪いです。あかりちゃんが全然勉強しないことにも、朝起きられないことにも、家の手伝いもせず、部屋が汚いことにも機嫌が悪く、怒ってばかりいます(そりゃそうだろう)。

最終的に、あかりちゃんは学校を中退し、「1人で生きて行きなさい」と家を追い出され、1人暮らしするに至ります。

なんと言いますか、全編読んでいて苦しいです。あかりちゃんのリアルの生活が苦しい。家でも学校でもバイト先でも良いこと無しです。心のよりどころとして心血注いでいる推し活も、推しの言動がいまいちで苦しいです。真幸くんは、だんだんアイドル活動に投げやりになっていき、ファンを大切にしていないような発言や行動をするようになっていきます。あかりちゃんは、どうすればよかったのだろう。読み終わって考えても、救いが見いだせないのです。

推し活に心血を注ぐ子にも、「推しが今の自分を見てどう思うか、推しに恥ずかしくない自分でいたい」というモチベーションで自分を律することができる子もいるんですよ。あかりちゃん、がんばって!

そして私は子を持つ母親なので、どうしても親視点で見てしまいます。お母さんがあかりちゃんに苛つくのはよくわかる。食べたお皿も片付けないで、着替えもしないで、突っ立ったままテレビを見ていたら、見ていた番組の内容も聞かずにテレビを消してリモコンを取り上げるかもしれない。だからといって、高校中退して何もしないからと言って、家から追い出してそのままほったらかしたりするかなあ。成人しているならばまだしも、高校中退したての未成年の女の子です。お父さんが単身赴任しているとは言え、家になにか複雑な事情があるわけでもありません。

そんな親の気持ち・親のふるまいという点において、本書は深みが足りないと思ってみたり、あかりちゃん視点で書けばそうなるのかもしれないと思ってみたり、著者もまだ若いということに思い至ってみたりするのです。

娘が推しに熱を上げて、いまいち何を考えているのかわからないという全国の親御さんに、この本をおすすめしてよいかはわかりませんが、ただ、あかりちゃんのひたむきな気持ちと苦しさを追体験することに、意味はあるように思います。

SNSの使い方や若者口調の語り口から、空気感があっという間に過去になってしまいそうで、読むならば「今」読むべき本です。いかがですか?


【推し、燃ゆ】を手に取ったきっかけ

芥川賞作品であることはもちろん1つ目の理由。

中田敦彦さんのYouTube大学で紹介されていたのが、2つ目の理由です。

中田さんは、人気芸人さんという「推される側」の視点を入れながら、本書紹介をされています。他では聞けない「推し、燃ゆ」評だと思いますし、中田さんの小説紹介は本当に面白いので、ご興味あればぜひ。

そういえば、最後に近いシーンの解釈が、中田さんと私は異なりました。あまり書くとネタバレになってしまうのですが、あかりちゃんが見かけた人影について、中田さんはほぼ明言されていましたが、わたしはあの人ではないと思っています。みなさんはどう思われましたか?

リケジョ・ワーママの子育てブログ書いています。
子育ててくてくブログ

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