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アメリカ労働市場の現状(3)(ヘリテージ財団の報告書)

本記事は、アメリカ労働市場の現状(2)(ヘリテージ財団の報告書)の続編である。前回までの記事は、以下のリンクを参照。

1.本報告書(3)の内容について
  有効求職者を増加させるには、労働を魅力あるものとし、失業にインセンティブを与えないようにすることが重要である。以下、労働を奨励する政策を列挙する。
 ・インターンシップ制度の活用により、労働者の生産性や技術力を高める教育を利用しや
すくするべきである。特に投資に対する二重課税を軽減することにより、生産性が高まり、賃金を上昇させる投資が促進されることになるだろう。
・所得税等を減税するべきである。低所得者層は、可処分所得が1%上昇するにつれ、0.3%から1.2%労働時間を増加させるとされており、各種失業給付などを停止した場合、減税が労働者を増加させる有効な政策になるだろう。
 ・多様な働き方の容認も重要である。2020年の全労働者のうち36%が独立開業ないしはフリーランスであるが、12%はパンデミック中に開始している。ウーバーの調査によると、標準的なタクシープラットフォームではなく、柔軟なプラットフォームを提供されれば1週間当たり平均16時間労働するとしている。
 ・規制緩和、減税政策はビジネス上のコストを下げ、賃金を増加させるインセンティブを与える。減税・雇用法は法人税を35%から21%に減税し、規制緩和により煩雑な手続きを削減したが、この結果ビジネスが拡大し、2020年3月には平均の生産額及び独立開業者の賃金は、1406ドルも上昇した。(図8参照)

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・労働志向の社会保障に転換するべきである。1996年の社会保障政策改革後、社会保障費は拡大の一途であり、COVID-19による対策により、更に労働意欲を挫くことになった。政策の成否を保険加入者で測るのではなく、加入者が努力することを支援する方向で評価するべきである。特に労働者が会社の共済組合に加入することを支援することにより、労働と社会保障を結びつけることができ、労働人口を維持することができる。
・障害者保険制度を改革し、リハビリを奨励するべきである。この制度は給付が認定されるか否かの2択であり、障害等の状況に応じた柔軟な制度になっていない。また障害の認定まで非常に長期間を要し、更に高齢者向け医療保険制度加入まで2年間待たされることになる。労働能力の向上及び職場復帰の支援を主眼とした民間の障害者保険制度は、連邦制度の4倍の人々が職場復帰しており、政治家は現在の制度を改めるべきである。
・労働者向けサービスの統合も検討するべきである。現在の連邦の精度は47に分割されており、管轄も複数省庁にまたがっている。窓口を一本化し、必要とするサービスを容易に受けられるようにするべきである。
・子供の保育サービスの利用拡充を推進するべきである。子供を持つ家庭にとって、保育サービスは極めて重要である。州政府は不必要な規制を止め、供給を増やし、連邦政府は低所得者向けの補助金をより柔軟に選択できるようにするべきである。
・柔軟な有給育児休業制度を拡充するべきである。現在の画一的な制度では、多様な労働環境やニーズに対応することはできない。更に利用率を高めるため、低賃金労働者に有給育児休業か残業手当のどちらかを選択できるようするべきである。
・移行可能な共済組合制度を創設するべきである。平均的な労働者は、12回転職している。このことは、12回も健康保険を変更し、退職金口座を引き継ぐための手続きを行わなくてはならないことを意味している。また自営業者は加入者が多い共済組合に加入できないことになり、保険料も高額になりがちである。フリーランスが増加している現状を鑑み、自営業者が容易に加入できるような制度を創設するべきである。
・労働意欲を挫く高齢者向けの社会保障制度を見直すべきである。多くの高齢者は定年退職(66歳と10か月)よりも前に年金を受給する傾向にあるが、これはアメリカの先行きが不透明であることによると考えられている。また早期に年金を受給することにより、1万9000ドル以上の収入がある場合に、1ドル当たり50セント課税されることになることから、労働へのインセンティブが働きにくくなっている。このため、早期受給年金額の引き下げ、課税制度の選択制導入、勤務年数による年金額の引き上げ、受給開始年齢の延期に伴う年金額の引き上げなどを実施するべきである。
・「よりよい復興予算案」を破棄するべきである。中央集権的な社会保障制度は、労働市場を弱体化させ、サプライチェーンの確保を阻害し、インフレ圧力を加えることになる。生産活動に課税し、非生産活動に補助金を拠出し、失業者の福祉を拡充し、労働組合を優遇し、連邦職業訓練事業に無駄な予算を費やせば、労働市場は弱体化する。テキサス公共政策基金の試算によると530万人の労働者が失われるとしており、マリガン氏の試算では870万人の労働者が失われるとしている。

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