奇跡の瞬間

その時、私はバスに乗って通勤していた。ある日の帰り、席がちょうど埋まるぐらいの混み具合。私は入り口近くに立って、つり革につかまっていた。停留所で、なんだか小さく見えるおばあさんが乗ってきた。席が空いてなかったので、おばあさんはそのまま私からは少し離れたところに立っていた。

バスが走り出したとき、何にもつかまっていなかったおばあさんが、ふらっと転びそうになった。その瞬間、私は片手をぐいっと差し出した。その手をおばあさんもさっとつかんだ。それで転ばずに済んだようだった。映画やドラマのワンシーンみたいにパシッと決まった。

バスはそのまま走っていて、座っていた人が慌てて席を代わって、おばあさんを座らせていた。それからはもう何事もなかったようになっていた。

私は内心、今のすごくない?って誰かに言いたくてうずうずしていた。

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