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刈谷メソッド_17「レイアウトの実際」

 それでは実例をあげながらレイアウトの説明をしていきましょう。
 使用するサンプルはアークライト版の『モンスターメーカー』。言うまでもなく鈴木銀一郎さんの代表作であり、力造くんもテストプレイやルールブックのチェックに関わってくれたタイトルです。
 グラフィックデザインを手掛けてくださったのは、decoctdesignの出嶋さん。『オクラコーク』や『おにぎりさん』といったボードゲームの作者さんとして認識されている方も多いかもしれませんが、本職はグラフィックデザイナーさんです。人気ゲーム『ボブジテン』シリーズのグラフィックデザインも出嶋さんが手掛けられており、『モンスターメーカー』のリメイクという重荷を一緒に背負っていただく方として、是非にとご依頼させていただきました。

モンメカルルブレイアウト案-1

 上記がわたしの描いたラフで、下記が実際のルルブですね。

モンメカルルブ-1

 表紙からいきなりアレンジが入っていますね。わたしはパッケージイラストを表紙に収めるイメージでいたのですが、出嶋さんはガッツリ裏表紙とひとつながりで構成してくださっています。そちらの方が断然かっこいいですね。グラフィックデザイナーさんのこういうアレンジは、「ありがたいありがたい」と拝みながら採用させていただきます。

 さて、ひとまずこの7ページ(+背表紙)を俯瞰して見ていただければ、見出しがページの頭にくるようにレイアウトされていることがお分かりいただけるかと思います。
「内容物」と「手番にできること」の項目がページの途中に配置されていますが、これはルールブックを24ページに収めるうえでの取捨選択ですね。例えば24ページで収まらず、32ページにしなくてはならない場合などは、このあたりも改ページすることになるでしょう。
 そうしたルールブックのテキストからページに収める作業の実際は、現在作成中のゲームで見てもらうのが一番分かりやすいと思うのですが……当然ながらここで作成中のルールブックをお見せすることはできません(笑)。
 そのへんは申し訳ありませんが、実際の作業工程を想像で補完しておいてください。

 4~5ページの見開きは、わたしの案では4ページに「キャラカードとモンスターカードの説明」を、5ページに「迷宮カード、宝物カード、往路/復路タイル、帰還ボーナスタイルの説明」を収める形を提案していましたが、実際には4ページに迷宮カードの一部がはみ出してきています。
 この構成ですと、迷宮カードの説明が4ページと5ページに分かれてしまうので原則からは外れますが……実際に見開きで見てみると、特段見にくいわけでもないなと気付きます。
 逆に迷宮カードを無理矢理5ページに収めると、5ページの方のカードの画像はずいぶん小さくなります(実際わたしの案ではそうなっています)。
 これは出嶋さんからの、「こうすれば回り道カードや宝の小部屋カード、罠カード、聖職者カードを大きく見せられますけど、どうですか?」という問いかけですね。
 上記のカードを見せることがさして重要ではなかったり、見開きに収めることにこだわるなら「わたしの案で構成したバージョンも見せてもらえませんか」という相談をしてもよいと思います。
 ただこのときわたしは、「見やすいからこれでいいや」と判断しました。「お前、あんなにページ単位とかにこだわっていたのに、それでいいのか」と思われそうですが(笑)、見やすければそれでいいのです。それにまあ、こちらの案から外れた提案をするわけですから、先方もそれなりの確信があって提示しているはずです。ですのでこういう状況の場合、あくまでわたしの話ですが、2:8くらいの感覚でデザイナーさんの考えを優先させていただきます。
 帰還ボーナスタイルが6ページにはみ出していたら、さすがに「画像を小さくして5ページに収めてください」とお願いすると思いますが(笑)。

モンメカルルブレイアウト案-2

モンメカルルブ-2

 さあ、8~15ページに移りましょう。
 しつこいようですが、ここでもページトップが見出しになるようレイアウトされているのがお分かりいただけるかと思います。
 9ページや11ページの始まりも、小さい見出しが頭にくることで読みやすくなっています。
 レイアウトをするうえでこうした柔軟性を担保してくれるのが、各ページに挿入されている画像です。グラフィックデザイナーさんは、こうした画像のサイズを上手に拡大縮小することで、見出しの位置を調整するのです。ですので編集者は、そうしたことを想定してテキスト分量から必要なページ数を割り出す必要があります。
 11ページや13ページなどは、特にきっちり収まっていますが、このへんが上手く収まらないこともあります。そうした場合は、テキストを削るか、画像を削るか、どうにも削れないなら、いっそページを増やすかを判断することになります。

 この8~15ページの中で注目すべきレイアウトは、10~12の3ページでしょうね。
 10ページには「B.モンスターの配置」と「C.モンスターとの戦闘」の2つの見出しが入り、10~11ページの見開きで「C.モンスターとの戦闘」のルールを説明し、12ページで「戦闘の例」を扱っています。
 本来的な見やすさで言えば、「C.モンスターとの戦闘」と「戦闘の例」はひとつの見開きに収まっていた方が視認性が良くベストです。
 このときもし全体が24ページで収まらない、25ページになってしまうという状況であったとしたら、無理しても「B.モンスターの配置」を9ページに収め、10~11ページで「C.モンスターとの戦闘」と「戦闘の例」をひとつの見開きに収めるという選択肢もあったでしょう。

 ただここでまた考えなくてはならないのは、続く13ページの「D.手札の破棄」と「手札の調整」、そして14~15ページの見開きに収まった「『手札の破棄』と『手札の調整』の例」の扱いです。「『手札の破棄』と『手札の調整』の例」が、13ページと14ページというように、見開きをまたぐ形になるのは可能な限り避けたいことです。
 ここも、もしページが足りなかった場合は、「例」を短くして1ページで収まる分量にカットし、「D.手札の破棄」と「手札の調整」と「『手札の破棄』と『手札の調整』の例」を見開きで収めるという選択肢もあったでしょう。
 そういう意味で、「例」も分量調整をしやすい部分です。極端なことを言えば、例はすべてカットしてもいいのですから。
 ただこのルールブックで「戦闘の例」に1ページ使い、「『手札の破棄』と『手札の調整』の例」に2ページ使ったのは、当然ながら編集者であるわたしの強い意志があります。「手札の破棄」「手札の調整」「トラップの扱い」といった一連のルールは、オリジナルの『モンスターメーカー』から大きく変わった部分なので、丁寧に説明することによって、プレイミスが起こる可能性を少しでも減らしたかったのです。

 なおラフの方で例を黄緑の線で囲んでいるのが分かると思います。これは「例なので本文とは違うことがすぐ視認できるようにしてください」というグラフィックデザイナーさんへの指示です。実際のルールブックでも、基本部分の地はベージュですが、例文の箇所は白地になっているのがお分かりいただけるかと思います。

モンメカルルブレイアウト案-3

モンメカルルブ-3

 さあ、最後の8ページです。
 最後まで「ページ頭は見出しで始める」という哲学が貫かれているのがご理解いただけるかと思います。

 この16~23ページで重要なのは、「『宝物カード』の項目の説明に2ページ必要」ということです。
 いままででも説明してきたように、画像の拡大縮小や掲載するしない、「例」の分量や掲載するしないはある程度自由がききますが、ルールはさすがにおいそれと削ることはできません。
「『宝物カード』の項目の説明に2ページ必要なので、この2ページは見開きに収める必要がある」ということは、このルールブックにおいてかなり優先度が高いということです。
 同様の話は4~5ページの「カード、タイルの見方」、8~9ページの「迷宮の移動」にも言えます。
 それはつまり「カード、タイルの見方」と「迷宮の移動」の間は偶数ページであることが望ましいし、「迷宮の移動」と「宝物カード」の間もやはり偶数ページで構成されていることが望ましいということです。
 どうですか。
 けっこういろいろ考えてレイアウトされているでしょう?(笑)

 もちろん、見開きに収めるというのは絶対のルールではありません。「迷宮の移動」も「宝物カード」もページ頭は小さい見出しになっていますので、例え見開きになっていなかったとしても、めちゃくちゃ読みにくいということはないはずです。
 ページ数を4の倍数で収める。理想を言えば8の倍数で収めるというのは冊子型のルールブックにおいて、構造的上絶対のルールなので、そこに抵触するなら、見開きがどうと言っている場合ではありません。
 ただまあ、工夫してどうにか収まるのであれば、見開きに収めた方が読みやすいのもまた事実です。

 ……いかがだったでしょうか。
 こうした目線で改めて見ると、ルールブックを「美しく構成する」ことに、いかに編集者とグラフィックデザイナーが心を砕いているかがご理解いただけるのではないでしょうか。わたしなどは、ルールブックを美しくレイアウトすることができたら、陶然とするような喜びを感じます。

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