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刈谷メソッド_11「グラフィックデザイナーさんに発注する」

 ゲームデザイナーさんにライセンスの許諾をいただくことができたら、イラストレーターさんを探すのと同時にグラフィックデザイナーさんの選択も行います。
 ただグラフィックデザイナーさんはイラストレーターさんに比べて比較的選択肢は限られていますので、まずネットの海に数日ダイブするところから始めて……といった話にはなりません。
 もちろん世にグラフィックデザイン会社やグラフィックデザイナーさんはたくさんおられますが、「ボードゲームに詳しい」という条件が挟まると、おのずと選択肢は絞られます。

 この「ボードゲームに詳しい」というのは、現状基本的にキープしておきたい条件です。
「右利き、左利きによる遊びやすさへの配慮」とか、「弱視の方への配慮」といった部分に対し、息を吸って吐くように自然に対応していただけるかということは、やはり最終的な仕上がりに対して重要な意味を持ちます。
 もちろん上記のような問題点をテキスト化し、列記してお伝えすることはできますが、究極的な部分で「遊びやすさ」につながるデザインは、「普段からそうしたゲームに触れることが多いかどうか」によるところはどうしても大きいと思います。
 体験として身体に「ここの処理は気が利いてるな」とか、「ここがこうだったらもっとこうなのにな」と刻まれたことがあるかないかが、最終的なお客さんの満足度に大きな影響を与えると思うからです。

 挑戦的な商品であれば、そうしたセオリーを外したところから生まれる魅力を追求することがあるかもしれませんが、「挑戦的なゲームシステム」ならともかく、「挑戦的なグラフィックデザイン」をボードゲームに持ち込んでも、普通に遊びづらくなることが多いでしょう。
 言うまでもないことですが、我々メーカーが作るボードゲームとは人間が遊ぶプロダクト商品であり、単体で成立する美術作品ではありませんので、「お客さんが遊びやすい」デザインであることがひとつの前提です。

 ちなみにボードゲームに詳しいグラフィックデザイナーさんの探し方ですが……まあ、「ボードゲーム グラフィックデザイン」とかで検索していろいろ見て過ごせば、普通にあたりがつくはずです。
 ウチのスタッフには具体名をいろいろ挙げますが、本稿は特定の誰かを応援する(それは同時に名前を挙げなかった方々を応援しないことでもある)ことを目的としていませんので、ここで例を挙げることはしません。
 まあ、きちんと調べれば、優れた実績を残されている方々が何人か(何社か)ピックアップされるはずです。

 彼らにも得意とする方向性がありますので、そうしたことを意識して「このタイトルならこの方にお願いするのが良さそう」などと判断して、依頼の連絡をさせていただくことになります。

 依頼のアプローチの仕方はいままでいろいろ書いてきましたので、ここでは繰り返しません。
 原則「相手を尊重する」ことです。
 老婆心ながら加えますと、ゲームデザイナーさんやイラストレーターさんのような、生の作品で勝負する作家さんと、グラフィックデザイナーさんのようなある種裏方仕事(個人的にはグラフィックデザインとか超☆表仕事だと思っていますが)をする技術者さんで態度を変える人がいるかもしれませんが、そういう区別はしない方がいいです。
 というか全員を尊重しなさいという話ですね。
 相手によって態度を変える人は、まあ分かります。
 そういう人が尊敬されることはありません。陰で笑われるよりは、関わる方みんなに誠意と敬意をもって接する方が、商品にとってプラスなうえに生きるうえでも楽です。

 ちょっと話はズレますが、「すぐ分かる」という話の例で言うと「言い訳」もすぐ分かるので注意すべきです。
 言い訳でピンチを取り繕ってやりすごしたという経験がある方もいると思いますが、言い訳された方は大体気付いています。それでやりすごすのは、言い訳に納得したわけではなく、これ以上話しても仕方がないなと思って切り上げている可能性が高いです。
 その場をやり過ごせた方はほっと一安心かもしれませんが、相手は「こいつには二度と重要な仕事を与えないでおこう」と思っていることでしょう。
 逆に言い訳せず、「申し訳ありません」「こういう理由で失敗しました」「わたしの責任です」という話をすれば、その場は叱責されるでしょうが、叱責する方も逆に「見どころのあるやつだ」「どこかでもう一度チャンスをあげたい」と考えるはずです。

 閑話休題。
 グラフィックデザインも指示はタイトルによって千差万別なので、これが正解という例は示しづらいですが、注意点やちょっとしたテクニックを語ることはできます。


◎RGBとCMYK
 普段印刷物を入稿したりしない人が、最初にやりがちなミスがRGBとCMYKを間違うことです。
 RGBとは「Red」「Green」「Blue」のことで、光の三原色です。理屈は割愛しますが、「光」が影響する世界では、色は赤、緑、青の3色の組み合わせで表現されることになります。テレビやパソコンのモニターが代表ですね。
 グラフィックデザイナーさんも基本パソコン上で作業されますので、そこでの調整はRGBで行います。

 ですが紙の上で表現される色の三原色は、赤、青、黄の3色ですよね。学生時代、絵の具を混ぜていろいろな色を作った経験がある方も多いかと思います。
 印刷業界では「Cyan(シアン)」「Magenta(マゼンタ)」「Yellow(イエロー)」「Key plate(キープレート。まあブラックのことと思っておけば大丈夫です)」の4色のインクを組み合わせることで複雑な色合いを表現します。
 ですのでwebサイトの広告とかであればRGBのデータで作って納品ということでいいのですが、紙などに物理的に出力する場合は、RGBで作ったデータをCMYKのデータに変換して入稿しなくてはなりません。家庭用プリンターでもインクは基本CMYKなので、カートリッジを交換する際など目にした方も多いかと思います。

 RGBとCMYKを間違うと、色合いが全体的に暗くぼんやりした感じになるなど、狙った通りの色に出ないという羽目になります。グラフィックは最悪「そういう色にしたかったのです」と強弁できなくもないですが、イラストは言い訳できないですよね。イラストレーターさんから「こんな色で塗ってないでしょ」と突っ込まれて、まあ印刷し直しです。
 もっとも、印刷所さんが気付いてくれて、「CMYKデータになってないですよ」と注意してくれることも多いです。なので編集者がそこまで神経質にならなくてもいいと言えばいいのですが、誰も気付かないまま印刷されたら地獄ですし、注意された際に「し、しーえむわぃ……?」となると会話が止まるので、基礎知識として知っておくべきです。


◎三原色と補色の関係
 赤、青、黄が色の三原色というのは、大体の方が知っていることかと思います。
 また赤と青を混ぜると紫になり、赤と黄を混ぜるとオレンジ(橙)になり、青と黄を混ぜると緑になるのもある程度常識でしょう。バランスを傾けると赤紫や青紫、山吹色や朱色、青緑や黄緑になります。

 そこまでは大体誰でも感覚として持っていると思いますが、一歩進んで「補色」ということを理解していると、グラフィックデザインを考えるうえでグッと引き出しが広がります。

 難しい話ではありません。
 赤にとっては緑が、青にとってはオレンジが、黄にとっては紫が補色になります。ようは三原色の自分以外の2色を組み合わせてできる色がその色の補色になるということです。

 そしてここが重要なのですが、「原色と補色の組み合わせは、鮮やかに写る」のです。

 そう意識して世の中を見つめ直してみると、その組み合わせが多いことに気付かされるのではないでしょうか。

 赤と緑でまず浮かぶのは、「ポインセチア」であり「クリスマス」ですね。「マリオとルイージ」も赤と緑です。
 青とオレンジでもっとも有名なのは『ドラゴンボール』で悟空が着ている亀仙流の道着でしょう。
 黄と紫はこれという例が難しいですが、ワリオとか、ちょっと古いですが『クリーミーマミ』なんかはこの組み合わせですね。

 例として分かりやすいので主にキャラクターで説明しましたが、世の中のいろいろなもの、ちょっとした看板や広告、ロゴなどを見ていると、この組み合わせが多いことに気付くはずです。
 多いのには理由があって、それはやはり鮮やかに見える組み合わせだからです。
 補色の発展形として、「青とピンク」「黄と黒」なんかも組み合わせとして相性がいいですね。あと補色という話からはズレれますが、「赤と白」「オレンジと黒」なんかも相性がいい。

 また補色の関係を逆手にとって、「緑とオレンジ」「緑と紫」「オレンジと紫」といった普通合わせない色で違和感を演出するということもあります。
 エヴァンゲリオンの緑と紫(+黒)の組み合わせとかは、登場時は強烈な印象を与えたものです。これはロボットアニメの記号として広く認知されていた、ガンダムの赤青黄(+白)のトリコロールカラーに対抗する意図だと思います。

 いかん。
 また関係のないことをダラダラ語ってしまいましたが、ようは原色と補色の関係を理解していると、グラフィックで迷った際などの指針になるということです。
 イラストが青っぽければ、タイトルロゴをオレンジやピンクにするとパキッとして綺麗に見えます。

 あとこの補色の考え方は当然イラストについても言えます。
 なのでイラストレーターさんに相談されたら、「赤い髪に緑のジャケット」とか、「黄ベースのキャラと紫ベースのキャラのバディ」といった提案ができるわけです。

◎彩度と明度
 彩度と明度もビジュアルを考えるうえで重要な要素ですね。ただまあ、編集者という立場で言えば、過剰に考え込む必要はないと思います。
「彩度の低いイラスト原稿があがってきたので、タイトルロゴは彩度強めで作ってもらおうかな」とか、「この作品はどうしても青を基調として作りたいから、彩度と明度を意識してメリハリを出してもらうか」といった感じでグラフィックデザイナーさんに指示が出せるといいよねといったレベルです。

 彩度とか明度とか言われてもよく分からんわと思われるかもしれませんが……『モンハン』とかのキャラクターメイキングとかで肌や髪や瞳の色を変更できますよね。そのへんで実感できますよ(笑)。

 補色も結局そうですが、要はメリハリですよね。
 赤の隣に緑を置くからパキッとして両方が目立つ。彩度の高い(ようは色味がよりくっきり強い)紫に彩度の低い(ようは色味が不明瞭になる=グレーに近づく)黄を合わせることで不安定な雰囲気を出す、明度の高い(ようは白っぽい=明るい)青と明度の低い(ようは黒っぽい=暗い)青を組み合わせることで、同じ青だけどシルエットを浮き上がらせる……みたいな感じです。

 そうした感覚を身に付けられると、グラフィックデザイナーさんに「なんかこう、暗いんだよね~」みたいな抽象的な話ではなく、「ここの赤の彩度を上げたパターンをいくつか見てみたいです」みたいな具体的な指示ができるようになります。
 無から有を生み出すクリエイトの部分は、ある程度生まれつきのセンスというものが存在すると思いますが、色の組み合わせや彩度、明度の効果に気付けるかは、勉強で手に入れられる技術です。商品のパッケージや広告などを見るとき、配色や彩度や明度に注意し、どんな意図があって、どんな効果が得られているのかとかを意識しておくと、だんだん自分の意図を正確にグラフィックデザイナーさんに伝えられるようになるはずです。

 あ、でも勉強したからといって、知ったかぶりとかはやめた方がいいです(笑)。あと変なプライドを持つのもNG。
 なんといっても相手の方がプロなわけですから。自分は素人であるという自覚をしっかりもって、「素人なりにこういう印象を受けるのですが、参考にしていただければ幸いです」というスタンスでいるのがよいでしょう。
 あとは他人に責任を負わせる(笑)。「以前仕事でこういうことを言われたことがあったのですが、どう思われますか」という言い方ですね。それであればその意見はプロの意見ですので、相手も検討しやすくなります。以前言われた経験がホントかどうかは、この際重要ではありません(笑)。


◎グラフィックデザインの作業順番
 作業順なんて、「グラフィックデザイナーさんがやりやすい順番でやってもらうのが一番じゃない?」と言われればまあそうなのですが。
 わたしはいままで基本的に

・ロゴとパッケージを先にやっていただいて、お互いが持つ作品のイメージを擦り合わせ、固める
・そのへんが固まってからカードやタイル類の作業をしていただく
・そうした作業をやっていただいている間、編集者はギリギリまでルールブックをいじくり、最後にルールブックを仕上げていただく

 ……といった形で進めていただいてきました。
 ところがこれだと、ルールブックをチェックする時間が短くなってしまうんですね!
 このことには、本当につい最近気付きました。
 こんな当たり前のことに気付くのに、7年くらいかかっているのだから嫌になります。

 今後は順番を変え、

・飾りとか雰囲気とかは後回しにして、まずいったんルールブックを流し込んでいただく
・編集者とゲームデザイナーさんがそのルールブックを見てベストな形を模索している間に、グラフィックデザイナーさんにはロゴやパッケージを作業いただく
・ルールブックのベストな形が見えたところで、グラフィックデザイナーさんに戻す
・ルールブックをいちから組み直す

 ……そのあとの流れは状況に応じて進めていただき、全部の作業が終わったら入稿ということですね。
 見ればお分かりいただける通り、グラフィックデザイナーさんにとってはひと手間増えることになるので、最初にギャランティも含めて交渉する必要があるでしょう。
 また編集者としては、とっととルールブックの初稿をあげることが要求されるので、慣れていないうちは苦労することでしょう。
 ただ、この工程を入れることで、ルールブックの完成度はさらに上がるはずです。


◎テンプレートを入手する
 テンプレートというのは、入稿データを作るための型紙のようなものです。
 言葉で説明しても難しいので、画像を置いてみます。
『のびのびTRPG ザ・ホラー』のパッケージ画像です。ちょっと分かりにくいかもしれませんが、赤い線がテンプレートです(実際に印刷されることはありません)。「ここで裁断してここで折るよ」という指定で、印刷会社さんからもらいます。

のびのびパッケテンプレ例2

 ご覧いただければ想像がつくと思いますが、これがないとグラフィックデザイナーさんは作業をフィニッシュできません。
 もちろんあたりをつけておいて、あとから調整することも可能ですが、グラフィックデザイナーさんとしては二度手間気分ですよね。べつに後回しにしていいことがあるわけでもないので、印刷会社さんからとっとともらうのが吉です。

 テンプレートを手に入れるには、パッケージはもちろんタイルやカードのサイズも決めなくてはならないのですが……そのへん語り始めるとそれだけで1項目になりそうですし、グラフィックデザインの話というよりはディレクションやプロデュースの話な気がしますので、後日改めて解説したいと思います。

 グラフィックデザインの話はこれで終わり……というわけではないのですが、ひとまず今回はこのへんで終わることとします。

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