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刈谷メソッド_08「メールの書き方①」

 稟議書が通り、作業の流れも確認しましたので、あとは粛々と仕事をこなしていくだけです。

 なにはともあれ、まずはゲームデザイナーさんにライセンスの許可をいただかなくては話になりません。いかに会社が企画にOKを出そうが、ゲームデザイナーさんに断られればそれで話は終わりです。
 そのための最初のコンタクトは、原則メールになると考えた方がいいでしょう。

 一昔前は、「メールは簡単な確認にとどめるべき」「本当に大事な案件は直接会って伝えるか、次善策として電話で伝えるべき」みたいな常識があり、40代以上だとそのやり方に固執している方もそこそこおられる印象ですが、現代的なやり方ではないですよね。
 そもそもコロナ時代においては、直接会うこと自体のハードルが上がっています。
 電話に関しても、実業家の堀江貴文さんの発言を目にしたことがありますが、「いまやむしろ電話の方が失礼だ」と。理由は相手の都合を考えず、相手の時間を拘束することになるからです。メールなら相手の都合で読むことができ(途中で読むのを止めることもできる)、相手の都合がいいときに返信できます。

 またさらに言うと、「twitterのDMやLINEといったSNSツールで仕事の話をするのはビジネスマナー違反」みたいな考え方もありましたが(刈谷自身、15年ほど前にイベントのゲスト参加の打診をmixiのメッセージでもらい、相手に「こういう依頼はちゃんとメールで送るものだ」と叱ったことがあります)、こうした考え方ももう圧倒的に古いですね。
 むしろ毎回「お世話になっております。アークライトの刈谷です。」みたいな挨拶のテキストを打つことこそ無駄に近い。
 もちろん締め切りや報酬の話は、ある程度きちんとした形で残しておくべきだと思いますが、ちょっとしたやり取りなどは、むしろスピード重視でSNSを使う方が合理的です。

 などなど連絡ツールやその使い方は時代とともに変化していくものですが、2021年3月現在の日本では、面識のない方にコンタクトする方法はメールが一般的かと思います。

 前置きが長くなりました。
 メールを書く技術について触れていきます。
 正直メールも相手次第、案件次第でケースバイケースなので、一般論のようなものは語りにくいものがありますが、とにかくサンプルをあげて説明するようにします。

 下記は
・先方とまったく面識がない
・先方はゲーム制作が初めて
 という前提で、わたしがライセンスの相談をさせていただくと仮定して書いたテキストとなります。


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件名:
貴サークルが制作されたゲーム『A』のライセンス契約に関するご相談です(刈谷)


以下本文:
(サークル名)
○○さま


 突然のメールをご容赦ください。
 わたしは株式会社アークライトの、国内ボードゲーム制作部に所属する刈谷と申します。

 今回○○さんが制作された『A』を弊社にてライセンスさせていただきたく、メールをさせていただきました。

 先日『A』を遊ばさせていただいたのですが、非常にシンプルで遊びやすいのに、□□を△△する部分など、あまり類例のないシステムに深い感銘を受けました。twitter上で話題になっているのをよくお見かけしますが、やはりユーザーの皆さまも、そのシステムから得られる体験の斬新さに強く惹かれていることが伺えます。
 この素晴らしいゲームをより多くの方に遊んでいただくべく、弊社にて『A』のライセンス商品を開発できたらと願っているのですが、ご検討いただくことはできますでしょうか。

 諸条件をご提示させていただく前に、まずは弊社について簡単に説明させてください。

 弊社は株式会社アークライトと申しまして、会社の歴史は20年以上になるのですが、ボードゲームの開発を始めたのはこの10年ほどのこととなります。

http://www.arclight.co.jp
(アークライトのHP)

 海外の人気作を日本語化する業務も手掛けておりますが、『ラブレター』『赤ずきんは眠らない』『リトルタウンビルダーズ』といった、過去にゲームマーケットで話題になった日本人ゲームデザイナーさんの作品のライセンス化も多く手掛けさせていただいております。
 またありがたいことに、我々がライセンスさせていただいた商品群は、お客様から高くご評価いただいております。もし『A』のライセンス許諾をいただけましたら、こちらもお客様に喜んでいただける商品にすべく、全力で取り組ませていただきます。

 また弊社はボードゲーム開発のほか、アナログゲームのイベントとしては国内最大級である「ゲームマーケット」の運営も手掛けさせていただいております。貴サークルもこの春ご出展なさっておられたかと思います。
 ボードゲーム開発に直接関係する話ではありませんが、弊社のボードゲームに対するスタンスという意味で、何らかの安心感につながりましたら幸いです。

 では改めまして、ザックリとした条件をご相談させてください。
 なお今回は初めてのご連絡となりますので、あまり細かい条件は述べておりません。前向きにご検討いただけるということであれば、次回以降のメールで改めて詳しい条件をご説明させていただきます。

・印税:○%
・希望小売価格(予定):2,000円+[税]
・初回製造数(予定):3,000個

 基本は上記条件で考えております。
 具体的には、初回にお支払いする印税額は「2,000×○%×3,000」で○円の見込みとなります。

 ゲームシステム面ですが、そのまま販売しますとすでにインディーズ版を所有されているお客様にとって魅力が少なくなりますので、拡張ルールを付けることを検討したいと考えております。弊社側で2~3アイデアがありますが、○さんの方でも「実はこんなアイデアが」などありましたら、ぜひご相談ください。
 なお拡張ルールは必須という訳ではありません。検討の結果、拡張ルールは蛇足ではないかと思われるなら、拡張ルールはなしとして、別の部分で価値を高めることを検討いたします。そのあたり、可能な限り○さんのご希望をくみ取らせていただけたらと思っておりますので、何かありましたらご遠慮なくご相談ください。

 次にビジュアル面ですが、イラストはイラストレーターの□さんにお願いさせていただくことを検討しております。

http://www.□.jp
(□さんのHP)

 ですがこれも決定という訳ではありません。○さんの方でご希望の方がおられるようでしたらご相談ください。
 少々先走り過ぎました。ビジュアル面は正式にライセンスの許諾をいただけてから、改めてのご相談になると思いますが、『A』の世界観であれば□さんのイラストが非常にハマるのではないかと考えておりまして、事前にお話しさせていただきました。

 なおスケジュールですが、いまのところ下記のように考えております。

・6月末までにルールを確定
・7月中旬までにルールブックを完成
・8月末にグラフィックデザイン完成、入稿
・12月上旬発売

 ですがこれはあくまで現時点でのザックリした目安です。ルールの確定やイラストの完成が遅れた場合は、全体のスケジュールも遅れてしまうことをお含みおきください。

 ……ひとまず以上となります。
 突然のご連絡でありながら、長文のメールとなってしまったことをお詫びします。
 失礼いたしました。

 最後になりますが、『A』に関して、本当に楽しく遊ばせていただきました。ありがとうございます。
『A』はネット上でも非常に評判になっておりますので、もしかしたらすでに複数のメーカーさんからライセンスのご相談が届いているかもしれません。そうした場合など含め、我々返事は急いでおりませんので、ぜひゆっくりご検討ください。

 ご都合の良いときに、お返事いただけますと幸いです。
 よろしくお願いいたします。

株式会社アークライト
国内BG制作部 刈谷圭司

〒101-0052 東京都千代田区~
TEL:
E-MAIL
携帯.

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 ……ホントに長文ですね。
 でもまあ、本当にこれくらいは書きます。
 今回はサンプルなので、時間をかけずにかっ飛ばして書きましたが(20分くらい?)、本当に送るメールはけっこう時間をかけます。ざっと書いて1日寝かすといったこともしますので、相手のことを調べ、お伝えすべき内容を頭の中で構築するのにトータル3~4時間、執筆時間トータル2~3時間といったところでしょうか。1日仕事ですね。それでも早くなった方で、キャリアの浅いころは1通メールを書くのに24時間くらいかけたものです。「1通メール書くのに24時間もかけたら仕事にならんだろ」など思われるかもしれませんが、ライセンスの許可がいただけるかどうかは、そもそも商品が出せるかどうかの根本部分ですので、ここは相当ナーバスになります。

 このサンプルを元に細かいテクニックについて解説していこうと思ったのですが……ここから解説を書くと、この倍くらいの長さになりそうですね。
 本稿は1年かけて完成させる予定ですし、焦ってやっても何ですので、具体的な解説は次回に回すことにしましょう。

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