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今日の本 26

新潮文庫

神様のボート
作:江國 香織
¥438(税抜¥481)


自分自身、生まれてからずっとそのまま同じ街に住み続けています(ほぼ変わらない様な引越しは一度だけした)。小中高と転校生を迎え入れ送り出す側の人間をしていました。簡単に言ってしまえば、何も変化のない日常を繰り返すことが当たり前で、それ以外の世界を知らない生活を送ってきていたのだなあとこの本を読んで思いました。同時に、今まで転校していった、今後も絶対会うことのな位であろう友達を思い出しました。

「神様のボート」

あとがきで作者の江國さん自身が、「これは狂気の物語です。」と言い切っているのが面白かったです。ちなみに、江國さんの書いたものの中で「いちばん危険な小説」でもあるそうです。

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<あらすじ>
野島葉子は娘である野島草子と共に、色々な街を旅している。草子の父親であるパパにまた会うため、葉子は引越しを重ねていく。幼かった草子は高校生になり…。

この本は母である葉子と、娘である草子の両方の視点で短編なエピソード(?)が交互に語られています。草子→葉子→草子→葉子…みたいな。

物語が進むにつれ、大人の葉子はあまり変わらないのですが、初めは小学生だった草子が、ものの考え方やことの進め方などが、どんどん成長していくのを感じました。あることに対して、自分の考える一方の面だけを見て自分の思いを持っていたのが、自分の考えに客観的な視点を持っているところを感じる様になり…。草子の母でもなんでもないのになんとなく思うところはありました。

絶えず引越しをし続け、その度に転校を経験する草子。転校生未経験者なのでなんとも分かりませんが、、、。
小学校低学年の頃、仲が良かった友達たちが尽く転校していく期間がありました。一番最初は韓国と日本のMIXの子で韓国へ転校。次の子は中国の子で、次はアメリカに行くと言っていました。もう一人は友達と言うよりバトル仲間の様な感じで、喧嘩ばかりしていましたが(時には手もでる)どこに行ったか知りません。
一番目の子は転校する時に連絡先を知っていたので繋がろうと思えば今でも繋がることもできます(実際文通をしている時期もあった)。しかし、後者二名は所在が不明。今会ってみたいなあと強く思うことが何度もあります。

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草子の母であり、愛しているパパを探し続け、待ち続けている葉子。ワタクシが、所在不明な何年も昔の友達に会いたいなあと思っている感覚と似ているのかもしれないと思います。16年もの間思い続け、草子にエピソードを話したり、今はいないパパの誕生日を祝ってみたり。自分(待っている側)の気持ちが変わらなくても、どうしたって16年も経っていれば相手(待たれている側)が自分のことを意識し続けている可能性の保証なんてどこにもないわけで。そこに気づくことができるかどうかなんだよなあと思います。それに気づくかどうか、みたいな。

ずっと過去の「箱」に囚われ続ける葉子と、現実の世界を生きることにする草子。親子だけど、仲がいいけれど、確実に別の世界に進む瞬間がなんとも言えず、虚しい様な気持ちになりました。

この本も人の生き方を知ることができます。是非「危険な小説」読んでみてくだサイッ


今日の本、第26号、神様のボート

これにて。


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