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播磨陰陽師の独り言・第446話「ゲバラのこと」

 業務用ゲームの『ゲバラ』を開発したのには理由がありました。その前に開発した『怒IKARI』のコピー品がK国から販売されていたからです。
 社長が言うには、
「やつらは点滴を打ちながら、一週間ほと徹夜してコピーするからな」
 とのことでした。違法なコピー品は、ほぼ完璧でしたが、ただ一箇所、本物と違う部分がありました。戦車の上に人の上半身が乗っていたのです。絵の合わない感じでも、何も気にしていないような粗悪なコピー品でした。
 これを見た時、悔しさで心がいっぱいになりました。苦労して作った商品が、あっと言う間にコピーされ、しかも最悪な仕上がりで安値で売られていたのです。それこそ血を吐きながら仕事して、利益の何割もが勝手に持って行かれたのです。それで次回作『ゲバラ』の開発となりました。私としてはイヤミを込めての開発でした。
——コピー品があんなのなら、少し真似して、もっと良い商品を出そう。
 と考えたのです。
 しかし、当初はテーマは別なものでした。確か『都市攻防戦』と言う仮タイトルがついていたと思います。戦争ゲームであることに変わりはありませんが、キューバ革命の英雄など、まったく無関係な作品でした。それが企画書が出来上がって、いざ、プレゼンと言う時、社長が企画書を開きもせず、
「ところで、ゲバラって知っとるか?」
 と言い出したのです。
 それまでゲバラのことは、うっすらとした知識しかありませんでした。
「聞いたことはあります」
 とだけ答えると、
「ゲバラを作って欲しいんや」
「えぇと、今回の資料のは?」
「それは、もう、ええ」
 この言葉で準備にかけた三ヶ月が消えました。しかし、社長の思いつきが変わる訳はありません。しかたなく、
「では、三ヶ月後に、ゲバラの企画書を完成させてプレゼンします」
 と告げて、企画部に帰りました。
 それからが大変でした。今のようにネットもなく、資料と言えば図書館へ行くか、本を買うしかありません。あの頃でもゲバラは古くて、すでに忘れかけられた存在でした。とにかく資料が少なかったのです。色々と苦労して調べた結果、無事に企画書を完成させることが出来ました。

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