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T町の『入ってくるひと』

調査記録 公開

とある地域(T町とする)で限局的に流行した都市伝説がある。
都市伝説自体は民家の玄関の写真が変化するというよくある形式のもので、
「長時間写真を見つめていると締め切られた状態のドアが開き人間が何かを言いながら家へ入ってくる」
というものである。

[実際の写真]

市内の中学生らがグループチャットアプリ内に投稿した噂が発生源とのことだが、証言者たちは最初に噂を流した中学生が誰なのか知っている者はいなかった。

以下、学会がT町で聞き取り調査を行った記録である。

【実際にその現象を体験した町民の証言】
▼ドアから入ってきた人間(以下 訪問者とする)の容姿、言葉、行動などを調査した。証言者によって記憶している範囲が異なるため、それぞれ項目ごとに特徴を挙げていく。

[訪問者の容姿]
・スーツを着た中年男性
・エプロンをつけた高齢女性
・下駄をはいた少年
・右足を負傷した若い男
・赤ちゃん
・ワンピースを着た腕の無い少女
・膝から下が潰れた高齢男性
・真っ黒い人
・首が真横に折れている誰か
・自分

[訪問者が発した言葉]
・「ゆむれぎ」(不明)
・「のぉーいたうとのぉ」(不明、方言風)
・「わっみ、ぃいあなうゆ?」(不明、方言風)
・「おろれ」(不明)
・「そもおおよろそ」(不明)
・「さごさごあぐぎ」(不明)
・「なぁいられいもどぉや」(不明、方言風)
・「あした」(明日)
・「まーれぃほろろうかぇ」(不明、方言風)
・「もところとおろごとお」(※1)

[訪問者の行動]
・慌てて玄関を見渡し、こっちを見た
・わずかなドアの隙間からぬっと入り込み、こっちを見た
・しばらく直立したのち、こっちを見た
・玄関で膝をつくように崩れ落ち、こっちを見た
・肩を回し伸びをしてから、こっちを見た
・ぼとっと水気のある赤い塊を落とし、こっちを見た
・這いながら玄関に入り、こっちを見た
・数回ジャンプを繰り返し、こっちを見た
・最初からずっとこっちを見ていた
・目がなかったが、こっちを見ていた

(なお表情は、全ての証言に共通して「笑顔」であった)

【補足】

▼容姿に関して
老若男女、あらゆる人間が入ってきていることが分かる。「自分」と回答した証言者以外は、訪問者との面識はなかった。身体の一部を欠損してる、または負傷している状態の訪問者の目撃例が多い。

▼発された言葉に関して
いずれもほとんど明確な意味を成していなかった。唯一単語となっているものに「あした」があるものの、それが“明日”を指しているのかは不明である。
※1の「もところとおろごとお」の子音の並びに規則性があるならば “みてくれてありがとう” となるのではないかと証言者は推測している。
また、どこかの方言のように聞こえるという証言が多く、証言者たちはそろって「懐かしさを感じた」と回答している。

▼行動に関して
共通して、玄関に入った直後に1アクションをしてからカメラ目線となっている。証言者たちの多くはスマートフォンなどの端末で写真を見ており、訪問者と目が合った時点で画面が暗くなったと証言している。目が合った瞬間のことを振り返る証言者たちは、訪問者に対して「愛おしい」と感じたとのこと。
聞き取り調査中、自らの体験を改めて思い出すことで恐怖を感じたのか、質問を重ねるたびに証言者たちの表情は固くなり、怯えている様子であった。

一方、無意識に泣いている証言者が複数みられた。
聞き取りを中断し、念のため怪異汚染の数値を調べたが異常はなく、精神も落ち着いているように見えたため続行。
自覚のない涙を流した証言者のひとりは「小さい頃を思い出した」と述べた。

以上が、T町で流行した都市伝説『入ってくるひと』の現段階での聞き取り調査記録である。
証言者たちは学生が多く、精神的にやや不安定になることが懸念されるが、目立った被害などは無い模様。
関連した別の怪異が絡んでいないか定期的に様子を確認すると共に、写真の出所を調査する予定である。

【追加情報】
T町では現在「グループチャットに知らない人間が紛れ込む」という都市伝説が流行している。

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