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「か がいた  す」

市民から学会への通報

【通報内容】
スマホのアルバムにある[ゴミ箱]フォルダに見覚えのない真っ黒な画像が発生する。何の画像か確かめるために明るさを調整したところ、スカートを履いた人のようなものが浮かび上がった。
さらにSNSでその画像を投稿したところ、明度調整で浮かび上がる像が人によって異った。

【経緯】
通報者(Eさん)は自身のスマートフォンのデータを整理していた。その際、一度消去したデータが一定期間保管される[ゴミ箱]フォルダ内にて真っ黒な画像データを発見する。Eさんはデータの詳細を確認するも、スマートフォンの不具合か何の情報も表示されなかった。
Eさんは興味本意で真っ黒な画像の明度を上げた。
何回か最大まで明度を上げては保存を繰り返すと、画像の中央にスカートを履いた女性らしき像が見えた。

[Eさん提供 元画像]


[Eさん提供 編集済みの画像]


他の端末や他の画像編集アプリでも同様の結果となるのか確かめようとしたEさんは、SNSに一連の流れを投稿した。(何が浮かび上がるのかという点には言及せず、明度を上げることだけを呼びかける形を取った)

投稿の一部


この投稿を見た人々は様々反応を見せたが、画像に何が浮かび上がったかについて触れているコメントがいくつかあった。

・人かもしれない
・何も写っていない
・洋服を着ている(スカート含む)
・顔が赤い人
・どうみても日本人形だ

編集の仕方によって見え方が変わり、人によって認識する像が変わることはあり得る。
像の見え方は大きく分けて「洋服をきた女性」「日本人形」に分かれた。
Eさんの知り合いを中心にこの画像に関する投稿が話題となっていたが、SNSを伝ってEさんとは面識のない人物がこの件に類似点の多いとある噂を投稿した。



[投稿内容を一部抜粋]

「うわ、これヤバいからやめたほうがいいよ……」
「知らない? ごみ捨て場の人形の話」
「ごみ捨て場にガムテープでぐるぐるに巻いてある箱を見つけた人が、興味本意でそれを家に持って帰って、箱を開けてみたら日本人形が入ってて、、、っていうやつ」
「いやほんとベタだと思うよな。でもさ、その日本人形を拾った人も最初は同じような反応してて、ブログとかでネタにしたらしいんだよ。日本人形の写真とかアップして」
「そしたらしばらくして、その人のブログに変なコメントがつくようになった」
「“今すぐ祓いに行け” “それが日本人形に見えてるなら手遅れかもしれない” “捨てればもっと酷くなる” “ぜったいに目を合わすな” まあさすがにいたずらだろって、本人もブログの読者も完全スルーしてたっぽい」
「でもその人は人形を拾ってから日が経つにつれ、少しずつおかしな言動をブログに残し始めた。とにかく焦っていて、誤字とか気味の悪い妙な文法とかが増えて、しきりに何かを訴えているんだけど読者からしたら全く意味が分からない」
「“ か がいた  す ” 」
「っていうブログの中で繰り返される妙な言葉が何故か一時期ネットで流行ってたの俺もちょっと覚えてるし、ブログはマジであったと思うよ」
「そんでその人はついに発狂して、借りてたマンションの一室で変死体となって発見された、、、みたいな話」
「結構怪談とかでよくある話なんだけど、これ、狐窓市の■■■■■ハイツ302号室がその現場だって言われてる。この画像の人(※Eさん)もプロフィールに狐窓市民って書いてあるしちょい気になった」
「まあ狐窓ってそういうの頻繁に起こってそうだし、噂もほんとかどうかは知らないんだけどさ」
「今回のそのゴミ箱データのやつ、もしかしてこれが元ネタの創作だったり?」

Eさんはこの噂を知らなかったが、自分に見えているものは日本人形ではなく、また個人の所有する端末のごみ箱フォルダとごみ捨て場は違うものだとコメントを残し、特に気にしなかったという。
噂を持ち出した人物はEさんのコメントに対して

「でも、ネットに落ちていたものを拾って中身を確認してしまった人たちは、まさにこれだよね。日本人形が見えた人、大丈夫?」と返した。

噂を含めこのやり取りを読んだ周囲の人々、特に日本人形が見えたEさんの知り合いはしだいに焦りを見せるようになる。
さらには不可解な現象が身の周りで起きはじめたと主張し、この件の発端となったEさんを非難するなどの行動も見られた。

不可解な現象として、原因不明の顔の痛み、鏡に映る自分が一瞬別人に見える、誰かに呼ばれる、脳内に玄関チャイムの音が響く、などがある。
その後Eさんの知り合いは精神的に不安定な状態となり、自身のブログには支離滅裂な文章を投稿するようになる。

[Eさんの知り合いのブログ]


▼噂で出てきた「 か がいた  す 」という言葉を繰り返している。たちの悪いいたずらかとEさんは知り合いに何度かダイレクトメールを送るも反応がなかった。
Eさんはこの時点で学会に通報。現在、Eさんの知り合いのブログ更新は止まっている。

【考察】
この件が人の生活に支障をきたす程の怪異レベルとなった要因は以下の2つである。

①Eさんのゴミ箱フォルダに入っていた画像を不特定多数の人間の目に晒した。
②第三者がその画像と日本人形の噂を強く結びつける投稿をした。

▶️①のゴミ箱フォルダの画像に関して、Eさんに元データを提供していただき解析したところ、怪異汚染の数値はやや高めであったが正常の範囲内だった。
Eさんが初めに画像を見つけた時点では人的被害が出るほどの強さを有していないものであったといえる。
しかし不特定多数の目に晒し、加工の具合により見え方の変わる画像に対して、不穏さや恐怖の認識を与えることで怪異レベルはわずかに上昇した。

▶️②は、本来画像とは全く関係のない噂である。しかし直前の行為(Eさんの画像を保存し、明度を上げ日本人形を見た)が噂の内容とリンクし、Eさんの知り合いは強い暗示にかかった状態となる。
例の噂はインターネット上で様々装飾が施され、検索するとあらゆる情報がヒットする。
その中のひとつで「 か がいた  す 」は「かおがいたいです」という文章なのではないかとする考察サイトがある。(日本人形を拾った人物のブログに顔が痛いと訴える様子があるのだとスクリーンショットを添えてその根拠が示されている)

「 かおがいたいです 」だと仮定すると
「 か がいた  す 」のスペースに入る文字は
「  お   い で 」となる。
ブログの主はしきりに「おいで」と何者かに呼ばれ続け、ついに“あちら側”へ行ってしまった。

という内容の考察サイトが、検索のトップにヒットした。
Eさんの知り合いは噂を検索し、これらの情報を全て認識した状態にあったと考えられる。強い暗示のかかった状況下で、Eさんの知り合いは噂の内容に引っ張られる形で認知機能に影響が出た可能性がある。
Eさんの知り合いが訴えた不可解な現象の数々は、噂や考察サイトの内容から連想された、いわば思い込みであると言える。

このように、画像が持つ単体の怪異的脅威が原因ではなく、情報を得る過程に原因があるケースは多々ある。
その多くは上記②のような、「その行為は危険である」と第三者が主張することにより怪異レベルが上昇する傾向にある。
何の意味も含まれない行為に対して危険だと主張した直後に、それまでの行為に特定の意味が生じる。
これは“呪詛のメカニズム”そのものであり、日常的に起こりうる現象である。またホラー作品などの創作物にも用いられる手法でもある。
暗示の強さと認知機能の変化に関しては個人差があり、周囲の情報を多く拾い通常とは異なるものを見たりする人間は「霊感がある」とされることがある。

Eさんの知り合いの様子がおかしくなった原因への考察は以上である。

【補足】
・Eさんの知り合いは呪詛行為による暗示状態から脱させる処置が必要であると判断し、現在捜索中。

・怪異汚染の数値が上昇した後のEさんの画像を入手。調査員の個人端末で明度調整を行った。




[明度調整を行った画像]
かお


▶️顔の一部が潰れ苦痛を伴っているようにも見える

※なお、怪異の調査員である立場上あらゆる怪異汚染を蓄積させており、他の怪異が画像の結果に作用している可能性もある。


・最初から画像にうつるものとして「顔が赤い人」と回答した人物が“何”を見ていたのかは不明である。

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