判断保留で『新宿野戦病院』

雑であることを台詞の中で自己言及までしているので、それがドラマ内で触れられるあらゆる「重い」とされるテーマ(外国人労働者、性的搾取、戦争、医師と生死、ジェンダー)をかなり手荒に扱うことのエクスキューズになっている。とするか、なっていないとするか。を視聴者としてはどこかで決めないといけない。

けれども、ちょっと現状では「エクスキューズになっている」と言えるかどうかまだ判断がつかないと感じています。これが前作『不適切にもほどがある!』では一話の時点で「明らかに描きたいことがあるからこそ」「エクスキューズになっている」「覚悟持ってやっている」ということがバチバチに伝わってくる宣戦布告みたいな60分になっていたので「私は乗ります」宣言がこちらもできたのだけど、その強さが本作ではまだ無いなという印象。

クドカン作品と聞くとあらゆる責任がこの脚本家個人に乗りがちですが、勝手ながらこの「覚悟の伝わってこなさ」は何となく座組が原因かなあと推測している。クドカン最新作と聞いて勝手にいつものTBS金曜座組だと勘違いしていたのですが、今回はフジ水曜枠。クドカンドラマに限らず、TBSドラマが社会との接合を常に前提に、特に金曜枠は時代の少し先を見ながら作られているのに対して、フジにはその点の読みの甘さと調整力の不足があるんじゃ……と思ってしまいました。個人的には新宿周りの描写は全面的にコメディ化するということで一旦留保できたけれども、戦地描写は流石に受け入れ難いなと思ってしまった。

あと、台詞が英語と日本語を行き来しまくるの、最初の小池栄子のキャラクター説明としてやるなら良いと思うけど説明が終わった以降も続くの、流石に視聴UIが悪すぎると思った。日本語で喋り始めたら最後まで日本語で喋ってくれないとかなり聞き辛いし見づらい。英語で喋るのは何らかの狙い?海外向け?と思ったけどそれを目指してるとはちょっと思えない内容だし、仮に海外販売を目指してるとしたら日英言語の行き来のUIの悪さは英語視聴でも変わらないので(第三言語の人は一番見やすいかも)狙いがはまるとは思えない。とにかく、そういう視聴時の生理的なUIも全く考えずに作られてるのも局側の調整不足に見えてしまい気になる。

ただ、もしかしたらあるかもと思う巨大な光としては、社会問題そのものに全く関心を持たない層に届く社会問題ドラマになり得るということかなと。こっから『新宿野戦病院』ばりに雑なことを言いますが、藤井道人映画とか野木亜紀子ドラマのメッセージとか立憲民主のマニフェストが「刺さる層」って「前から元々仲間だった層」「前から社会問題に関心ある善良で余裕のある市民」だろ、的なことってあるじゃないですか。いや別に対象広がってないじゃん?みたいな。そういう「元々社会に関心層」を意図的に一話でおさらばすることによって「完全なる無関心・反ポリコレ層」だけを対象に、最終的にはエンターテイメントで彼らの関心を少しだけ根付かせる、みたいなことをやりたいんだったら試みとしてはチャレンジングだし面白いし頑張れ!って思います。でもこれですらやるとしたらTBSかなって思ってしまうんだけど。

とはいえ、とにかくあらゆるテーマを「寄り添い」「丁寧」で取り扱わなきゃいけなとは私は思わないし、思いたくないし、雑で粗っぽくても人と人とを描くことを放棄しない作家の作品としてどこに辿り着こうとしているのかは見届けたい。ユイちゃん、ユイちゃん……あ、橋本愛ちゃんの役はいい具合に効いてきそうですよね。でもこれってクドカン個人への信頼で成り立っているだけでドラマへの信頼になってないんだよな。と思うとやっぱり座組の問題を感じる……。作家じゃなくてドラマとして先の展開への信頼をチラつかせる努力が足りてないよ!

今のところ手放しで褒めたいのはまじで小池栄子って美しくてスタイルが良いってことと、エンドロールのサザンオールスターズ!これはとても良い!

新宿野戦病院
#TVer
https://tver.jp/episodes/epipfh8did

dev.50


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