第8話 とんこつパンチ
「どーもーとんこつパンチです!」
「ちょっとちょっと何してるん?」
「え?何がですか?」
「出てきて2分は黙ってないとあかんねんで!」
「そんなルールないわ!さっきのコンビが黙ってただけや!黙ってる間、見てる人ただただ不安になっただけやないか!」
-ドッ
出てきてすぐにとんこつパンチが爆笑を取る。前のコンビを中村がいじり、織田のツッコミが笑いをかっさらっていく。それを見ていたケンタがつぶやく。
「すごい、出てきてすぐに空気を変えた」
「でもあれ、誰でもできるで?」
ヒロはどうにも、とんこつパンチが気に食わないようだったが、ケンタにはいくら考えてもその理由がわからなかった。
「僕ね、若いうちに結婚したいと思ってるから、今のうちに結婚のあいさつの練習しときたいんですよ」
「そうなんや」
「だからちょっと俺のお父さんやってくれへん?」
「婚約者のお父さんさせろや!お前のお父さんやったところで、『今日頑張って来いよ!』言うて終わりやないか!」
-ドッ
「俺が婚約者のお父さんするからあいさつに来て!」
「わかった・・・・あ~いよいよ今日は結婚のあいさつに行く日やな。よっしゃ!まずはしっかりスーツに着替えてと・・・」
「どっからやってんねん!なんでお前の家出る前から見させられなあかんねん!」
-ドッ
「あいさつに来るところからでええねん」
「はじめまして!中村カズと申します!お義父さん!お母さんを僕にください!」
「娘さんや!堂々と略奪婚申し込むな!」
-ドッ!!!
ボケる度に、ツッコむ度に、会場に爆笑が巻き起こる
「すごいなぁ!さすが織田さんやなぁ!」
「まあウケてるのはウケてるけど・・・」
「なんやねんヒロ!素直に面白いって言うたらええやんか」
「素直に言うと、面白くないな」
「え?そうなん?」
「面白くないって言うとちょっとちゃうけど、全部見たことあるボケやなぁって」
「そうなんや」
「え?お前、見たことある感じせぇへん?」
「え?・・・まあ・・・」
「ケンタってさ、TVでお笑いとか見るん?」
「当たり前やん、新喜劇とかめっちゃ見てるよ」
「・・・他は?」
「他?」
「ゴールデンやったらネタの神様とか、オンエアウォーズとか。深夜やったらワチャワチャBest10とか」
「おん」
「見てへんやん」
「おん」
「そうか・・・」
「おん・・・」
「でもなんでお笑い番組見いひんの?」
「まあその、家の手伝いと、正直勉強ついていくの大変であんまりTV自体見てないねん」
「そうなんや」
「うん、今はもう大きなったけど、小学校の時とかは弟の世話もしてたし」
「ふぅん・・・まあでも、お笑いやっていくんやったらもうちょっとぐらい見た方がええんちゃう?」
「そうやな、ちょっとチェックするようにするわ」
-ドドド!!!!!
今日一番の笑い声が二人の会話をかき消した。
「そこまで言うなら仕方ない、結婚を認めよう!ヨウ子のこと、よろしく頼むぞ!」
「ありがとうございます!じゃあ早速、ヨウ子さんを幼稚園まで迎えに行ってきます!」
「いや幼稚園児に求婚してたんかい!もうええわ!」
-パチパチパチパチ!!!
盛大な拍手がとんこつパンチに贈られた。
「すごかったです!織田さん!」
「おう、お疲れさん」
ステージから降りてきた織田にケンタが声をかける。
「めちゃくちゃ面白かったです!」
「そうか、ありがとう!来年はお前らが俺らぐらい盛り上げてや!」
「はい!」
「はーい、すみません、お笑いグループの方は移動してくださーい!」
二人に移動を促したのは文化祭の実行委員。お笑いグループの後の学内バンドのライブ準備をする為に、一生懸命指示を出している。
「ま、またなんかあったら言っておいで、俺でよかったら相談のるしお笑い好きなやつ、みんなマブダチやから」
「はい!ありがとうございます!」
そう言って織田は会場の客席に消えていった。
「ほんまあの人、天然のカッコつけやなぁ」
ヒロがまた悪態をつく。
「そんな悪い風に言うなや」
「いや、だってお笑い好きなやつマブダチとか言ってたけど、2年生のコンビの、えっと雨の岩戸やっけ、その人らのことちょっと悪く言うてたやろ」
「そういえばそうやったっけ?」
「うん、それをな、あの人は気づいてないねん。そういうとこが天然やねん」
「ふぅん」
「それでそれを注意されたとこでな、あ!ほんまや!あははは!で終わる人。天然の陽キャの人や」
「おん」
「もう話がわかってへんやん」
「おん」
「ま、ケンタも天然の陽キャやから話あうんやろうけどな」
「おん」
-ギュイーーーーン!!!!
-ワーワーワー!!!!!
学内バンドのライブが始まった。
ライブはとんこつパンチの漫才以上の盛り上がりを見せ、木瓜島高校の文化祭はすべてのプログラムを終了した。
「おつかれ~、ヒロ君めっちゃおもしろかったよ~!」
「アイカちゃん、ありがとう~」
文化祭終わりのヒロにアイカが声をかける。
「この後さ、ダンスチームのみんなとごはん食べにいくんやけど、良かったらヒロ君もけーへん?」
「え?いいの?ダンスチームって女の子ばっかりちゃうかったっけ?」
「うん、でもみんなヒロ君の漫才見て面白かったっていっててさ、なんか喋ってみたいんやって」
「そうなんや、嬉しい、ありがとう!」
「え?じゃあ来てくれるん?」
「うん、そうやな、どうするケンタ?」
「エッ!!!!?」
自分は蚊帳の外だと思っていたケンタが、急に声をかけられて素っ頓狂な声をあげた。
「エ?オレ?エ?イヤーソーッスネ・・・」
「岩山くんも・・行く?」
え?俺が森さんたちとごはん?ほとんど女子と話したことのない俺が?ご飯にいったところで何もしゃべられへんぞ?それでもいいんか?迷惑やからやめといた方がいいんちゃうんか?どうする?どうしたらええ?
それになんか明らかにヒロを誘ってた感じやったぞ?俺はほんまは誘われてへんのちゃうか?どうする?どうしたらええ?
答えの出ない思考がグルグル回る。
そしてケンタは決断した。ここで行かなきゃ二度とチャンスは訪れないと!
「ソウスネ・・・セッカクヤカラボクモ・・・」
「お~~~~~い!岩山く~~~~~~~~ん!!!!」
ポンポン。
肩を叩かれ、振り返った先には柔道部の三年生、古賀がいた。
「いや~~~探したよ、漫才最高だったよ!」
「あ、ありがとうございます」
「さ、じゃあ行こうか!?」
「行こうか・・・ですか?」
「そう、文化祭が終わったら焼肉に行こうって約束してたやろ?なあみんな!」
「「「「ウッス!!!!」」」」
古賀の後ろには柔道部の先輩たちが控えていた。
「そっか~先約があるならしゃーないね」
どことなく嬉しそうにアイカが言った。
「さ、ヒロ君いこ!」
アイカがヒロの手を引っ張る。
「さあ!行くぞ!岩山くん!!!」
古賀がケンタと肩を組む。
離れていくケンタに向ってヒロが言う。
「ケンタ~! 俺はオフェンスを頑張るから・・・お前はディフェンスを頑張れよ~~~~~!」
こうして、ケンタたちの初めての文化祭は幕を閉じた。
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