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彼女の四季: 我が家の犬の話

9歳から28歳まで、約18年共に暮らした犬がいます。私が小学校の4年になる春、家族に迎えました。

秋はやがて冬へ

犬種は、秋田犬と柴犬のミックスです。 柴犬を二回り大きくした、中型犬です。柴犬と比較すると、柴犬ほどシュッとしておらず、おそらく秋田犬の個性を受け継いだのでしょう、若干タヌキなんです。 顔つきが。なお、しっぽはクルンとしています。 女の子です。

いろんなことがありました。 生涯を通じて大きな病気をせずに済みました。

晩年、目が不自由になりましたが、最初は困惑していたものの、やがてコツをつかみ、庭の中を不自由なく動けるようになりました。自分が生まれ育った場所だから、見えなくても勘が働いて、 ここはどこだと分かるようになったみたいです。

私の家は小学校の通学路に面していました。どこで聞いたのかは分かりませんが、最初は子どもたち2・3人がうちの犬を呼ぶようになりました。名前を呼ばれると、「何?」という様子で、うちの犬も行きます。門は閉めてあり、小学生には開けられないようにしてあります。

だから、門越しに子どもたちが何がしかを話しかけ、うちの犬も尻尾を振って応えることが増えました。

近所に小学校がある方はご想像ください。登下校時は、子ども達のカラフルなトーンで、通学路が染まります。Disneyのパレードを小さくしたような、祝祭的な光景です。

そうした音を耳にする度に、うちの犬は人間の子どもが好きなので、「老後の楽しみができてよかったね」と見ていました。

そうすると子どもたちの間で、通学路のあそこの家には呼ぶと返事する犬がいるよということが口コミされたんでしょうね。 だんだんうちの犬の名を呼ぶ子どもたちの合唱が増えていきました。

登校時はいいんですけど、下校時は低学年の子、中学年の子、高学年の子で、帰宅時間は異なります。

全員に対して、「お帰りなさい」とねぎらって、「やれやれ」とうちのおばあちゃん犬が休もうとすると、今度は高学年が帰ってくるので、休む間もなくお迎えをしていました。

春の喜び

彼女が我が家に来た時のこと。まだ、生まれて数ヶ月。中型犬だからか、手足がちょっとずんぐりしているのですけど、 ぬいぐるみみたいに、もこもこした、ふわふわした生き物なわけです。そんな哺乳類を見たことありませんから、これは愛おしいと駆け寄りたくなります。でも、父は犬を連れてきた最初の日、甘やかすのではなくて、不思議な儀式をしました。

玄関の土間で、父はぬいぐるみのような子犬の小さな前脚に手を添えて、上り框に前脚をそーっと触れさせます。子犬は何をするのかなと、そのまま前脚を私の父に預けています。父が静かに、「いけない」と言います。 これを数回繰り返しました。 この不思議な儀式が、わが家で行われた、私の犬に対する躾けのほぼ全てです。

「いけない」を理解してくれました。「どうもここ以上の向こうは、私は行っちゃいけないのね」だけでなく、「そういうことはやめて」も通じるようになりました。犬と暮らしたことがある父の教え方もあったのかもしれませんけれど、 うちの犬の個性もあったのでしょう。 聞き分けのいい子で、人に対して気を使うところがありました。

どう、気を使うかというと。2階建ての民家の玄関から私が出てくるとします。 玄関の先に小さな階段があり、その手前に庭に行く道があります。 庭の向こうで、家の隅からうちの犬が顔をひょこっと出してこっちを見てます。

「 私、今、遊んだり、かまってもらったり、もしくは散歩に行ったりしたい気分なんだけども、話しかけても大丈夫?」

という感じで。
期待した眼差しで。
ちょっと耳を動かして。
尻尾も少し揺らして、待ってます。

「どうしたの? おいでよ」と、こちらで声をかけると、「話しかけてもいいんだ」と安心した様子で、私の近くまで来て、座って見上げます。

体を撫でてみたり、「ブラッシングする、どうする?」、と言っているうちに、散歩に行くことになります。 住宅地を一周、15分ぐらい歩くのが、彼女のテリトリーです。異常が無いか、ニオイを嗅ぐポイントも決まっています。

同じルートでも、だからこそ、春の景色、夏の色の鮮やかさ、秋の様々な変化、そして冬の空気感といった季節の違いが鮮やかに感じられます。うちの犬と共に、季節を共にしました。

散歩コース以外、車に乗せて、どこかに連れて行くこともあれば、一緒に歩いて、4キロから6キロぐらい、遠くまで歩いてみるということもしましたけれども、 彼女にとっての世界は、ほぼ我が家の庭であり、またご近所の町内だったのでしょう。

夏の輝き

こんなことがありました。まだ1歳前後で遊びたい盛りだったのでしょう。何かの弾みに門から出て行ってしまいました。 呼び止めます。振り返りはしますが、「私、今、すごく楽しい気分なの!」という感じで、話を聞かないんです。 そのまま、造成地の草むらへダイブ。

交通事故が心配でしたし、人を噛む子ではないけれども、何が起きるかは分かりません。他人に迷惑かけてはいけないと、家族で手分けをして一生懸命探しました。いません。どうしても見つからなくて、また明日探そうと深い藍色になった空の下、我々は家に戻りました。

翌日、なぜか庭にいました。ちょっと申し訳なさそうな感じで。「私、反省してます。もうしません」という気配を漂わせて、尻尾も元気なく垂らして。

何があったのかというと。お隣の中学2年生のお姉さんが、部活の朝練で朝早く家を出たら、 うちの犬が自宅の庭に入れず、門の前で無力感と直面している様子に気づき、門を開けて庭へ入れてくれたのでした。

私達家族にとって、あの子は遠慮しすぎる傾向のある犬ですから、「あの子もやんちゃな時があったね」ということと、門の前で途方に暮れている犬を見かけて、 てきぱきと門の中に入れてくれた、お隣のお姉さんの配慮も含めて、今も私たち家族の胸を温め続けています。

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