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匠の言葉たち: トラガラの私設note図書館

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小さな図書館や書店に暮らしたいと夢見る少年でした。このマガジンは、そんな原点から運営しています。 読んで良かった、学んだ、みんな読んで! というnoteを収録しています。 私…
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#小説

『匠の言葉たち: トラガラの私設note図書館』マガジン開始のお知らせ、Leonard AI日記と、SNSの文法のこと

『匠の言葉たち: トラガラの私設note図書館』マガジン開始のお知らせ、Leonard AI日記と、SNSの文法のこと

幼稚園に上がる前の記憶は断片的ですが、当時はすごく背の高い本棚に思えた図書館も、実際はマンションのそばにある小さな分館でした。母に連れられて行くその場所は、やけに静かで時間の流れが違う。異世界でした。

30代になって懐かしくなり再訪すると、記憶とはずいぶん違っていました。おそらく配置や本棚自体は大きく変わっていない。私が物理的に大きくなったのだけど、図書館が縮んだように見えました。

こうして自

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記事の書き方マニュアル

記事の書き方マニュアル

わたしは毎日100以上の記事を読んでいます。
毎日沢山の記事を読んでいると、文章の奥深さに感動することがあります。
それは、書く人によって読者に与える印象が全く異なるからです。

例えば、『夏休み』というテーマで記事を書いたとします。
そうすると、情景的な文章を書く人、事実をそのまま書く人、特に印象が残ったことだけを書く人がいるでしょう。
どの記事も個性的で素晴らしいものばかりですが、記事という側

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仮初の安全と声色の呪縛_4

仮初の安全と声色の呪縛_4

(前話はこちらから)



 中学2年生、隆太と僕の某日。
「これが、レッチリだよ。かっこいいだろ」
 隆太は自分が演奏しているかのように誇らしげな表情をしている。僕が初めて『Red Hot Chili Peppers』を聴いたは、14歳。隆太の部屋にあったライブビデオだ。上半身は裸で全身タトゥーだらけ。ステージで飛び跳ね観客を煽り続ける。その姿に観客は発狂し、我を忘れる。この異様な光景とパワフ

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人生から、要らないものをどんどん切り離していったら、
「書きたい」という想いだけが残りました。

詩は今のところ、あまり書いていないけれど、
昔からの詩人仲間と、表現者としての活動を地味に始めます。

私のライフワークである小説の方は、短編から中編にシフトさせていくつもりです。

就職氷河期、手書きの履歴書

就職氷河期、手書きの履歴書

「デジタル化の恩恵で嬉しい」
最初に思い浮かんだのは、『履歴書』

履歴書マナーでどれだけ紙の無駄遣いをしたか、
精神的プレッシャーが大きかったか。

わたしの就活時代は氷河期。
OB訪問、就職セミナー、ペーパー試験、面接は二度三度ある多忙な日々、
家やファストフード店では履歴書職人だった。

履歴書マナーとは、
1字間違えると、真っ新の履歴書に書き直し、
鉛筆の下書きをペンでなぞり、インクが乾い

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28歳

28歳

28歳。新卒で入った都内のセールスプロモーションの会社を辞めた。退勤は毎日23時を廻る。時折会社に4日間ほど泊まり込む。そんな勤務は少しずつ身体と頭にダメージを与えた。辞めると定収入が途絶えるのでバイトでつなぐ。学生の時にもやっていたテニスインストラクター。それだけでは厳しい。大学同期のKが家業のビルメンテナンス会社に入っていた。声を掛けてくれた。うちでバイトしないか?

新大久保にある小さな会社

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【短編小説】『ポケットから一縷』

【短編小説】『ポケットから一縷』

 リビングのエアコンを切って窓を開けると蝉の声がうるさくて頭が痛くなりそうだった。せりあがる憂鬱を押しのけるように、のろのろと歩いてこども部屋へ向かった。

 ようやく片づける気になれたわけではない。片づけることにしたのはこの家を引っ越さざるを得なかったからだ。もうすぐ私たちは離婚する。

 建売住宅だったが、私も隆文も気に入っていた。購入した当時、もうすぐ子どもが産まれる私たちにはすぐに入居でき

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【原稿に向かうだけではいい小説は書けない】自分の作品に向き合い続ける覚悟とは(2013年2月号特集)

【原稿に向かうだけではいい小説は書けない】自分の作品に向き合い続ける覚悟とは(2013年2月号特集)


※本記事は2013年2月号に掲載された高野和明先生のインタビュー記事を再掲載したものです。

映像化できないことを小説に――高野先生はもともと映像業界で活躍されていたそうですが、制作の現場に入ったきっかけは?

 実は映画監督を目指していて、高校卒業後、浪人時代に城戸賞(脚本の公募)に応募しました。運よく最終候補に残り、あるプロデューサーが岡本喜八監督を紹介してくれたんです。それで岡本監督に弟子

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騎士と娘の二小節

騎士と娘の二小節

愛するあなたよ、わたくしの声を風が運んでくれますように。

ふたりで訪った丘を、何故いまわたくしはひとりで歩いているのでしょう。幼子のように髪を乱し、声をあげて泣きながら。

あの夏の日、涼やかな木陰で交わした接吻はわたくしの心を希望で満たしました。そして湖にわたるあなたの歌声の、なんと朗々たること!

ロデマリノに髪をとらわれたわたくしを救ってくださったのがあなたでした。冬尚ふかい銀の枝があなた

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波よせる場所

波よせる場所

海へ向かう道を車で走らせる。窓を開ける。7月終わりの晴れた午後。乾いた風が髪を揺らす。フィアット500というこの車は可愛らしい姿だけど気持ちよい走りをする。
パパに買ってもらった。お父さんではないパパに。
街から郊外、田園地帯を抜ける。助手席には叔母さんの為に選んだシングルモルトとウイスキーグラスの包み、そして紅花を中心とした花束が座る。海に近付くと潮の香りが強くなる。叔母さんに会うのは五年振りぐ

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ロビンソンの飼い犬【後編】

ロビンソンの飼い犬【後編】

【前編】



 足の甲にできた擦り傷を見つけ、指で撫でる。ここのところ暑くて、外出にはいつもサンダルを履いていたから。絆創膏を取り出してきて貼ったけれど、カーブした皮膚にはいまいち張り付きがよくない。
「なあに、これ」
 芽衣子がリビングから顔を出す。手には角が汚れた発泡スチロールが抱えられていた。
「知り合いからもらったんだ」
「お中元?」
「釣り好きなんだ」
 あとでどうにかするよ、と苦笑

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ロビンソンの飼い犬【前編】

ロビンソンの飼い犬【前編】

 芽衣子が両手指にマニキュアを塗っているとき、ぼくは決まって彼女にくだらない話をする。
 ヤスリで丁寧に整えた指先に神経を集中する芽衣子の左の手は、すでに薄いピンク色に染まっている。右はまだ一本目を塗り始めたところで、爪の色が若干の不健康を証明するように白かった。ぼくは母親の腕を引っ張る子供みたいに、芽衣子に喋りかける。
「夢でしか行けない場所ってない?」
 一瞬彼女の動きが止まったように見えたけ

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『かきならせ、空!』立ち読み支援note

涼雨零音さんの新作です。noteや青空文庫や電子書籍は素晴らしいけど、紙の本のようにパラパラめくって好きな箇所と出会うような立ち読みはしにくいですよね。だから、それを行いやすくすることを願うnoteです。

夢と野望と現実、友情と努力など色々あるのですけれど『間違った場所にはまってしまったパズルのピースみたい』という一行が、好きです。

バンドを組むには仲間と出会う必要があります。努力や才能も意識

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