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松雪泰子さんについて考える(29)映画『子宮の記憶 ここにあなたがいる』

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*松雪泰子さんについて考える(51)「歌は語れ、セリフは歌え」*

松雪さん出演シーンの充実度:7点(/10点)
作品の面白さ:4点(/10点)
公開年:2007年
視聴方法:TSUTAYAディスカス
 
※以下、多少のネタバレを含みますが、決定的なオチや結末には触れないようしております。
 
松雪さん主演映画。
 
18年前に病院から新生児を誘拐した主人公・桜井愛子(松雪)。そのとき誘拐された子・島本真人(柄本佑)が、愛子(松雪)に会うため沖縄に行く。愛子(松雪)の働く海の家の食堂で、島本(柄本)がアルバイトをすることになり…。
 
結論から言うと、とにかく説明不足に感じた。ストーリーもそうだし、登場人物の性格・背景・考え方…。何もかも。
 
『渡る世間は鬼ばかり』のように一から十まで口で説明してくれる必要はないが、それにしてももう少し説明があってほしいと思う。感情移入も没入感も得られないまま映画が終わっていった。
 
どうやって島本(柄本)は愛子(松雪)の居場所を知ったのか。持ってきた大金は結局どうしたのか。愛子(松雪)に会って何をしたかったのか。あることを確かめたかった、ということが終盤で判明するが、「なんだそれだけか」と肩透かしを食らった。
 
まだある。愛子(松雪)はなぜ夫(寺島進)と結婚したのか。逆に夫(寺島)こそ、なぜ前科持ち(誘拐)と知りながら結婚したのか。そのわりには、妻(松雪)をぞんざいに扱う。その一方で別れようとはしないし、性交渉を持ち掛けたりもする。この一貫性のない言動はどういう心理なのか、解釈するための材料が提供されない。
 
さらに、義理の娘(野村佑香)は一体なぜ愛子(松雪)を罵倒するのか。何を以て愛子(松雪)を「性格が悪い」と毛嫌いするのか…。
 
島本(柄本)を追ってきた同級生の女子生徒は、なぜ彼を頼ってきたのか、そしてなぜ…。
 
愛子(松雪)が夜に近所の墓参りをしていた目的も分からないし、終盤のクライマックスも、結局何がしたいのかよく分からない。
 
挙げ始めたらキリがないくらい、説明不足なことが多すぎる。自分の理解力不足のせいもあると思うが、それにしても。
 
このように、ストーリーに関しては不満が募るが、それらに目をつむって松雪さんの役作りと演技についてとりあげよう。
 
いつも痩せている松雪さんだが、本作ではいつも以上に絞っているように見える。役柄のイメージに合わせたのだろうか。化粧も薄い。生活感の滲んだ色香が漂う。
 
シーンに応じたメリハリの利いた演技も健在。そして、いつも作品や役柄に応じて声色を巧妙に使い分けているが、今作は中低音で抑制的な声色。他作品で似たような声色を使っているものは少なく、珍しいと思う。
 
終盤、遠浅の海でのクライマックスシーンは、ロケーションの良さも相まって松雪さんが美しい。…だが、視覚的な美しさだけが目立っていて、正直、心に訴えかけてくる演出やセリフは無かった。
 
ここまで書いて思ったが、作り手側も、もしかしたら松雪さんを撮りたかっただけなのではないだろうか。そう考えると、一貫性が見えてくる。
 
不必要なまでに松雪さんの濡れ場(の一歩手前)のシーンがあったり、タバコを吸っているシーンが一度だけ唐突に登場したり、酔っぱらったシーンを一度だけ差し込んだり、「セックス」というワードを言わせてみたり…。

良くも悪くも、作品の精度や一貫性はそっちのけで、「とりあえず松雪泰子の〇〇なシーンを撮りたい」という倒錯した動機が見え隠れするが、邪推だろうか。だが、もしそのせいでストーリーと登場人物が描写不足になっているのだとしたら、むしろ納得だ。
 
ところで、2013年映画『脳男』でも、不必要に「セックス」というワードを松雪さんが言わされているのだが、同じようなことを考える制作者がいるものだなと思い、苦笑した。
 
ちなみに、映画『甘いお酒でうがい』(2020年)でも同じワードを発するシーン(というかモノローグ)があるが、このときは物語上の必然性があるので違和感は無い。ついでに言うと、映画『デトロイト・メタル・シティ』(2008年)ではさらに破廉恥なセリフのオンパレードだが、これこそまさにキャラクター的に必須の言葉使いなので、むしろ◎。そういった「必然性」をこの映画では感じなかった。
 
…というわけで、松雪さんのファンなら観て損はないと思うが、そうでない限りは、この映画をおすすめはできない。
 
それにしても、2010年『Mother』の前にも、幼い子どもを誘拐する役を演じていたとは、不思議な偶然。
 
最後に、余談になるが、今作で共演した余貴美子さんについて。この作品から約10年後には、NHK朝ドラ『半分、青い。』で、その1年後には『ミス・ジコチョー』で共演している。3作品それぞれ、松雪さん演じる役の友人、主治医、母親役ということで、世代が違う関係性を演じ合っているのが面白い。


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