シンプルたまごスープ

「楽ちん料理」と「料理の楽ちん」はちょっと、いや、だいぶ違う

簡単料理はいつの世も人気があるものだが、昨今では、より簡単、時短、さらに材料もなるべく少なく、家庭のレシピはその極限まできている。

私のスープ本もそんな「楽ちん料理」のひとつとして需要があるのだろうと思う。たとえばレンジでできるスープとか、5分でできるスープとか、包丁を使わないでいいスープ。そういうレシピを作ってくださいと依頼を受けることは多い。このままいくと、料理はしないのが一番楽である、というところに落ち着くことになりそうだ。

けれど、本当にみんながみんな、そこを求めているんだろうか。

そもそも、料理をしないほうが楽であるという感覚を、私は疑っている。確かに切ったり炒めたりは多少めんどうかもしれないが、楽というなら食べ終えたときに楽と感じられなくてはいけない。
自分の体や気分をよく知り尽くしてくれて、料理の腕があって、自分が食べたいときにサッと食事を出してくれる神様みたいな人(それをお母さんと呼ぶ人もいる)がそばにいてくれるならともかく、そうでない人にとって、レストランや、コンビニや、スーパーのお惣菜を買って食べる方が楽だとは、私には思えない。むしろそういう食事は人を疲れさせる。

「楽ちん料理」にもややそういうところがあって、できあいの調味料に味を任せきりにしたり、素材の特性に関係なくレンジにかけたり、カット野菜を決まりごとのように使ってしまうと、作る喜びも食べる喜びも半減する。作ることだけ見たら楽ができても、その結果まで含めると、楽とは言えない気がしてしまう。

日々のことだから多少の妥協は必要だ。毎日きちんとはできない。それでも、新鮮な肉や野菜を煮たり焼いたりして、自分の好みに味つけした料理を食べて、あー、癒されるなあ、とホッとするのが人らしい感情じゃないかと思っている私は、料理をする方がしないよりも楽である、「料理楽ちん」というスタンスをとっている。手間のショートカット自体が目的となっている「楽ちん料理」とは、そもそもの考えが違う。

ただ、レシピを考えるときには作ってくれる人が迷わないよう、おいしさになるべくまっすぐ届く道を探すようにしている。無駄もできる限り削ぐ。その結果、初心者の方にも楽に作れて、喜んでもらえるレシピになっているということは、あるかもしれない。自分では「楽ちん料理」だとは思っていないので、そういう料理を作ってくれと言われるとすこし困ってしまう。できれば料理の喜びを伝えるほうに、力を使いたい。

家庭料理の最大のメリットは、その日の気分や体調に合わせて「自分カスタマイズ」「我が家カスタマイズ」ができることだ。今日は塩味薄めがいいなと思ったらすぐ対応できる。汁物だけという選択もできる。
体やこころはそんなちょっとした微調整で、とても楽になる。だから家ごはんは食べ疲れない。楽なのだ。

なんだか、言葉遊びのような話をしてしまった気もするけれど、何十年も料理をして食べてきての実感。だからやっぱり「料理の楽ちん」を、コツコツ地道にお伝えしていきたい。

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※2020.10.21 新しいカテイカのマガジンが移設しましたので、こちらに張り替えます。過去記事も読めます。



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