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くるみ味はおいしい味。コロコロ団子のまめぶを学ぶ~スープ旅・岩手編

NHKの朝ドラ『あまちゃん』で有名になった「まめぶ」が気になる!能年玲奈(現:のん)さん演じるあまちゃんが劇中で何度も食べて「甘ぇんだかしょっぺぇんだか」と表現した、なんとも味の想像がつかないあの汁物です。

今回のスープ旅は、このまめぶを学びに、岩手県の北部にある久慈市へ出かけました。車を運転してみて、岩手ってこんなに広いんだ……と気づきました。

地図の、囲んである市町村が今回行った場所・通った場所です。

岩手はなんと四国と同じ面積らしい。今回は岩手北部限定で。
盛岡や遠野、平泉などはまた今度!

久慈はどちらかといえば青森に近いため、八戸まで新幹線で移動してレンタカーで南下するルートで。新幹線の駅に「八戸」や「二戸」があって、一戸、三戸、七戸などもあるのかなと思っていたらその通り。順番に並んでいるわけではなく、岩手には一戸、二戸、九戸が、青森に三戸、五戸、六戸、七戸、八戸があるのが面白かったです。

さて、八戸駅からレンタカーで1時間。久慈の内陸(旧:山形町)にある「まめぶの家」では、まめぶ名人・谷地ユワノさんがまめぶの作り方をワークショップなど通じて伝えていらっしゃいます。今回はマンツーマン指導で、しっかり作り方を教わります!

お店でまめぶを食べることもできるそう(予約制)

まめぶって何?

すみません、あまちゃんを見ている前提でお話してしまいましたが、まめぶを知らない方もいますよね。

まめぶは、小麦粉を練った生地でくるみと黒砂糖を包み込んだ小さな団子。そしてそのまめぶを入れた汁のこと。ごぼうやにんじん、きのこや焼き豆腐などを入れた根菜の汁に入れて、醤油で味をつけ、片栗粉でとろみをつけていただきます。久慈市の中でも山形村(現山形町)でだけ作られていたローカルフードです。

ぎっしりと具の詰まったお椀は汁物というよりは煮物に近く、ご馳走感もあり、冠婚葬祭など人の集まるときにたっぷり作る料理だそうです。

とろみがついてボリュームもたっぷり

私も食べたことがないので、まずは体験してみよう!ということで、ワークショップ開始です。

まめぶの食材

材料は、それほど珍しいものはありません。汁そのものはけんちん汁の中身みたいな感じ。この写真の具材のほかに小麦粉と調味料を用意します。

汁のだしは昆布と煮干し、具材にはごぼう、にんじん、きのこなどの野菜、油揚げとかんぴょう、焼き豆腐。そしてまめぶに包み込む胡桃と黒砂糖。調味料は醤油で

くるみと黒糖

くるみと黒砂糖を団子に包み込むのが、まめぶの大きな特長です。
どうしてくるみを使うんですか?と谷地さんに聞くと、この辺にはくるみの木がたくさんあるから、という答えが。
自生しているくるみはこの地域では馴染みぶかい食材で、おいしい味のことを「くるみ味」と言うのだそうです。

家の裏にも普通にくるみの木があった
秋になると、村の女性たちがくるみを拾って殻を割り、持ってきてくれるのだそう。
リトルフォレストの世界。

砂糖を入れるのも非常に珍しいと思いますが、このあたりは海辺から塩を運ぶ「塩の道」があったそうです。行き来する商人からときどき手に入る貴重な砂糖をおいしいくるみと一緒に団子に包んで、人の集まるときに大切に食べたということなのでしょう。砂糖は貴重なもので、手に入らないときはくるみだけでまめぶを作り、そのかわり汁にさつまいもを入れて甘くしたそうです。

焼き豆腐

材料の中でもうひとつ特徴的なのが、ちょっと独特な焼き豆腐。しっかり固い豆腐で、大きなものをカットしてありました。このあたりでは昔は豆腐は手作りだったそうで、スーパーに行ってもこの豆腐が当たり前のように売られています。大豆は寒い気候でも育ちやすいため、冷害の多い北の土地では重宝される食糧だったのでしょう。
串に刺し、にんにく味噌を塗って田楽にする食べ方もあります。たまたま久慈で催されていたお祭りの屋台で出会うことができました。

甘くない素朴な田楽。にんにく風味の味噌が炭火で焦げて、おいしい!

まめぶの作り方

まめぶの作り方としては、①汁を仕込む②まめぶを作る③まめぶを汁に入れて煮る、という3段階です。まずは汁作りから。

①汁を仕込む

だしは、昆布と煮干しでとります。すでに水に浸けてあったものをたっぷりの水で煮出します。その中に切った具材を入れていきます。

ごぼう、にんじん、油揚げなど具材は小さな三角形に切って、まめぶの大きさと合わせる。
だしの中でぐつぐつ煮ていきます

最初にごぼう、にんじん、かんぴょうを煮て、ある程度煮えたら、きのこ、油揚げ、焼き豆腐を加えて煮ます。煮えたら醤油で味をつけます。

あっさり、淡めの味つけ
まめぶ名人「まめぶの家」の谷地ユワノさん

②まめぶ作り

まめぶに使うのは、薄力粉。ここに湯を加えてこねます。小麦粉200gに対して熱湯100mLほど。気候や粉の状態によって調節します。熱湯を加えながら最初は熱いので菜箸でくるくる混ぜ、触れるようになったらしっかり手でこねていきます。
(現場では自分で混ぜていて工程写真が撮れなかったので、後日自宅で撮ってもらった写真とミックスしてお伝えしますね)

小麦粉はふるって
熱湯を加える  (写真:村田克己)
触れるようになったらしっかりこねていく (写真:村田克己)
きれいに丸く整いました!

丸めた生地を4等分してから細長く伸ばして、それを1個10gぐらいずつのサイズにちぎっていきます。1本を9~10等分する感じ。包丁で切ってもいいと思います。

棒状にすると均等なサイズにしやすい (写真:村田克己)
まめぶ1個の大きさに

ここからがまめぶ作りの真骨頂。くるみと黒糖を包みます。

まずはコロコロ丸めてからぎゅっとつぶす
粉状にした黒糖をスプーンで少しのせ、その上にくるみをのせる。
縁をのばして、上でつまんで留める。スライムみたいな形というか、小さな桃まんみたいな形というか。

このあと、このとんがり部分をぱたんと倒して手のひら全体で軽く握って空気を抜き、再度コロコロ丸めます。するとこんなふうに。

谷地さんと私と半分ずつ包みました。同じぐらい綺麗にできてる(つもり)

写真で見ると難しそうに見えますが、生地も伸びやすくて簡単です。動画で見ると簡単だとわかるので、いま編集作業中のYouTubeをお待ちください。

③まめぶを煮込む

できたまめぶを汁に入れて煮込みます。特に難しいことはなく、そのままどどどと鍋に入れて煮るだけ。

最初は沈んでいたまめぶが浮かんできます。

しっかりまめぶを煮込んだら、味を見て、最後に水どきの片栗粉を加えます。これもまめぶの大きな特長。小麦粉の団子ですでにとろみが軽くついているのですが、さらにしっかりとろみをつけます。寒い時期でも冷めにくく、食べれば体があたたまります。

まめぶ完成!

まめぶ試食!

さあ、できたてほやほやのまめぶをいただきます!

汁にしっかりとろみがついている

まめぶを口に入れるとつるんと舌の上に滑り込んできます。そっと噛むと、まずくるみのサクッとした歯触り。そして黒糖の甘みと香りがじんわり広がって、しょっぱい汁と混ざり合い、なんともいえないおいしさです。

谷地さんにも味わってもらい、お墨付きいただきました。「できたてはおいしい」とおっしゃっていたのが印象的でした。みんなが集まるときに大量に作るまめぶ。時間を置いて食べることも多いと思いますし、おそらく作って提供する立場ですから、自分が食べるのは後回しなのでしょう。時間が経つとこれはこれで汁とまめぶが馴染んでおいしいものですが、できたては格別です。

まめぶは山形村独自の郷土汁ですが、集落によって味つけや具材、まめぶの形に少しずつ違いがあるとのことです。「家庭の味」というよりは「集落の味」に近いんですね。そこも面白いなと思いました。

まめぶと谷地さん

今回まめぶを教えてくださった谷地ユワノさんは、久慈出身。子どものころから村の女性たちがまめぶを作るところを見ていたそうです。「やってみたかったけれど、子どもには決してやらせてもらえなかった」のは、砂糖もくるみも貴重なものだったからでしょう。

ご自身は50歳ごろまで久慈の給食センターに勤務しつつ、まめぶの魅力を発信していました。退職し、久慈にまめぶの店を開店する準備をしていた2011年に、あの震災に遭います。津波浸水で店の機材も水びたし。

そんな中谷地さんは、被災した方々に温かいものを食べてもらおうとまめぶの炊き出しに行きます。土日になると岩手の被災地全域を回って、まめぶ作りをしたのです。「炊き出しのメニューは肉の入ったこってりしたものが多いけれど、まめぶはさっぱりしているのがいいねって案外喜ばれました」と谷地さん。後半はカレーもメニューに加えました。もちろんすべてご自身の持ち出しです。

約半年間の炊き出しの後、谷地さんはようやく「まめぶの家」を開店。脚本家の宮藤官九郎さんがドラマのロケハンを兼ね、まめぶに興味を持って店に来たのはその後間もなくだったと言います。

ドラマ『あまちゃん』は、久慈をはじめ三陸鉄道の周辺を舞台に、都会から母についてやってきた主人公・アキが海女に憧れ、修行をはじめます。その後アイドルに転身していくという思いがけない展開に日本中が沸き、「じぇじぇじぇ」など流行語も生まれました。劇中に主人公を元気づける存在として何度も出てくるまめぶ。その中には谷地さんが作ったまめぶもあったそうです。

現在、谷地さんは久慈にあったまめぶの家を自宅に移し、そこでまめぶを提供したり、ワークショップをしてまめぶ作りを教えたりしています。
子どもの頃におばあちゃんの膝で見て憧れていたまめぶ作り。それをライフワークとして、たくさんの人に届けている姿はとても魅力的でした。

谷地さん、ありがとうございました!

まめぶレシピとお店情報

まめぶ作り、材料数は少々多めですが、汁は具材を切って煮るだけだし、小麦粉の団子も思いのほか簡単で、餃子の皮を包む感覚でできてしまいます。

最後にまめぶの分量や簡単な手順をメモしておきますね。作るときの参考にしてください。私が谷地さんに教わったものを基本に、家庭向きに作りやすい量に起こしたもの。かんぴょうは入れるとぐっとうまみが足されるし食感もいいのですが、やや手間がかかるので省きました。焼き豆腐は普通のものを使って大丈夫です。

▼材料 2~3人分
[団子] 
小麦粉 100g 
熱湯 60mL 
むきくるみ 適量 ※炒っておく
黒糖 適量 ※細かく粉状にけずる
[汁]
にんじん 1/2本
ごぼう 20cm
油揚げ 1/2枚
しめじ 40g
焼き豆腐 1/3丁(100g)
だし 900mL ※ここでは昆布と煮干しだし
片栗粉 大さじ1
酒 大さじ2
しょうゆ 大さじ1
塩 適量

▼作り方
1汁を作る
ごぼう、にんじん、焼き豆腐、油揚げは小さめの三角形に切っていく。しめじはいしづきを取る。鍋にだしと根菜を入れて煮て、にんじんがやわらかくなったら豆腐と油揚げ、しめじを加えて煮て、醤油と塩少々、酒で味をつける。
2団子を作る
小麦粉に熱湯を少しずつ加えて箸などで混ぜる。粗熱がとれたら手でなめらかになるまで練る。生地がつるんとしたら、2つに分けて棒状に伸ばし、9~10個ずつにカットしていく。丸めて少しつぶし、黒砂糖とくるみをのせ、中身が飛び出さないよう上を閉じる。
3団子を加えて煮る
団子を汁に入れて煮る。浮かび上がってきたらさらに4~5分煮て、片栗粉を倍量の水で溶いて混ぜながら少しずつ入れ、適度なとろみをつける。

岩手・久慈のスープ旅
2024年7月26日(金)~28日(日)
協賛・協力 味わい鍋

まめぶの家
岩手県久慈市山形町荷軽部1-59-6


読んでくださってありがとうございました。日本をスープの国にする野望を持っています。サポートがたまったらあたらしい鍋を買ってレポートしますね。