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究極のコーンポタージュはどこにある?コンポタ今むかし:2016年8月スープラボ・レポート(後半)

8月のスープラボ・ポタージュマラソン。折り返して後半戦へと向かいます。後半はいよいよ今回の目玉、コーンポタージュの食べ比べです!

さまざまなポタージュを味わいつつ、どんなポタージュがあるかとお話ししたラボレポート前半を先にお読みいただくと、より楽しめますのでどうぞ。

●昭和35年のコンポタは、なめらかクリーミー

ここでは、今と昔、2つのコーンポタージュを食べ比べながら、レシピの変化を見ていきたいと思います。最初は、昭和35年レシピのコーンポタージュ

レポート前半でちらりとご紹介した『スープの本』(鈴木博・村上信夫著・婦人画報社)。ここに載っていた、クレーム・ド・ワシントンという名のコーンポタージュを、レシピに忠実に作ります。下の写真がそれ。

典型的なポタージュ・クレームです。バターと牛乳で作ったベシャメルソース(ホワイトソース)ととうもろこしのピュレ、ブイヨンを合わせて、さらに生クリームで仕上げた、リッチなスープです。

しかも、とうもろこしをピュレにした段階、ベシャメルやブイヨンと合わせた段階で2度漉すという念の入れよう。昭和35年当時はミキサーも一般家庭にあるものではなく、すり鉢と金網でやっていたのだろうと思うと胸が熱いです。

それほど手間がかかるだけあって、仕上がりはクリーミー。舌から胃まで何の躊躇もなく、絹がするりと滑り落ちていくようなのど越しです。私たちがとうもろこしのポタージュといって思い浮かべる味の、最上のものと言ってよいでしょう。ブイヨンは、今回鶏のブイヨンを使いました。

シルキーな口当たり。冷やしても美味しいです。

●平成28年のコンポタは、甘く濃く、ダイレクトに

さて、このポタージュ。確かに美味しいのですが、とうもろこしの分量に対してベシャメル、ブイヨン、クリームが多めに入ることもあって、とうもろこしそのものの味は薄めです。それには、ある理由があります。

それは、素材の差。50年前と、今のとうもろこしは、味が全く違います。昔のとうもろこしは最近のとうもろこしのように甘く、ゆでただけで食べられるような感じではありませんでした。もっとぼそぼそとして、当り外れも多く、あまり美味しくないものだった記憶があります。

おそらく、コーンポタージュはそういう「おいしくない」とうもろこしを、「おいしく」食べるためのレシピになっていたはず。だから、クリームやミルク、他の野菜で味をプラスしていたのではないでしょうか。

しかし、時代は変わりました。今や、スーパーで100円ちょっとで買えるとうもろこしですら、ゆでただけでおいしく食べられます。どのとうもろこしも甘い。そのかわり、とうもろこしのうまみにはやや欠けるかもしれません。

そこで、平成のとうもろこしに合ったコーンポタージュを作りました。それが、こちら!

とうもろこしのシンプルポタージュ。最初のポタージュより色が濃い!

こちらは、とうもろこしのピュレそのもののような、ポタージュです。使っているのは、とうもろこし、バター、水だけ。とうもろこしの粒をバターで炒め、水でのばします。混ぜ物が少ないので、濃厚なとうもろこしの甘さが味わえます。ミキサーにはかけてありますが、裏ごしなどはしないので、多少ざらっとしていますが、またそれが食べ応えとなって、美味しいのです。クルトンが似合う素朴なスープです。

●究極のポタージュはどこに?!

素材が変われば、調理法も変わる。これ、料理をしているとごく当たり前のことなのですが、一旦レシピになってしまうと、それはひとり歩きを始めます。とうもろこしのポタージュはこうあるべき、と思ってあれこれ足している方は、一度この平成のとうもろこしだけポタージュをお試しください。

平成のポタージュ(左)、昭和のポタージュ(左)

とはいえ、昭和のポタージュほど手がかからず、平成のポタージュより繊細な、両者のいいとこどりしたポタージュはないのだろうか。みなさんそう考えますよね。

そこで作ったのが、第3のポタージュです。

ミキサーにかけてなめらかにしたとうもろこしのピュレをブイヨンでのばしてあたため、卵の黄身と生クリームを合わせたものを混ぜ込んだ、スペシャルコーンポタージュ。

卵は黄身だけを使います。

卵やクリームの量を参考にしたのは、この本です。江上トミ『西洋料理』(主婦の友社・1963年)

本のレシピはもっと手間のかかるものです。

卵を使うことで、中華料理で出てくるような味わいのコーンスープになります。卵の黄身と生クリームが入るため濃厚で、それでいてとうもろこしの味わいがより引き立つような、そんなスープです。ブイヨンを合わせたところで一度漉しています。

3つのスープを食べ比べましたが、どれもそれぞれの個性があります。どこまでやるか、何を捨てるかということを意識すると、味がコントロールできると思います。参考までに

●漉すと、口当たりはなめらかになり、食べ応えは減る
●バター、クリーム、ミルクは入れるほどコクが出てまろやかになり、とうもろこしの風味は消えていく
●ブイヨンを加えると味が複雑になる
●ベシャメルソースを入れるととろみがしっかりつき、サラサラ感は消える
●卵を入れると、とろみとコクを同時につけることができ、中華風の味わいになる


どの行程にも、表と裏があります。昔風のポタージュがいいか、とうもろこしの素材感を楽しみたいのか、コクがありうまみが高いのがいいか。自分の好みや気分に合わせて作ってみてください。

こうして、いろいろ試しましたが本日の最大の結論は、

どんなタイプであれ、やっぱりコーンポタージュは美味しい。

ということ。ラボの参加者も「私はこっちが好き」「私はこれ」と、意見が分かれます。それぞれの好みがこうして言えるのも、コーンポタージュが私たちの生活にしっかりと根付いているからかと思います。そのことがわかるような、食べ比べでした。

盛り上がりのうちに心臓破りの丘も軽々と越え、 “ポタージュ・マラソン”もそろそろゴールです。

ポタージュの世界はまだまだ深く、調べていると深みにはまっていきそうです。夏も終わり、本格的なスープの季節がやってきます。レシピも公開しますので、ぜひ作ってみてくださいね。

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スープ・ラボ#14 テーマ:ポタージュ・マラソン
2016.8.22(月)17:00~20:00 湯島イワシハウス
写真協力:大谷りえ子さん、田上理香子さん




読んでくださってありがとうございました。日本をスープの国にする野望を持っています。サポートがたまったらあたらしい鍋を買ってレポートしますね。