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やりたくなるカテイカ

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料理の基本の、その前に。家庭料理が楽しくなる、そして楽になるやり方と考え方を、スープ作家のキッチンからお伝えします。
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家庭の新しいカタチをたくさん見たと思った日

この日曜日、食の学び舎フードスコーレとの共催で『炊事から考える家事』というイベントを開きました。参加者が料理や家事について語り合うこのイベント、最大の特長は、参加者が男性限定ということ。 「男性限定」の料理イベントをやる理由 これまで家庭料理や家事としての料理に関するトークイベントを多数やってきました。そこに来てくださるのは9割が女性で、男性の姿はほとんどありません。 コロナ禍を経て、若い層を中心に料理を日常的にする男性は確実に増えているはず。それなのに男性の声はなかなか

「主婦」の新しい呼び方を考えてみた

大人気料理家の山本ゆりさんが、「主婦」や「カリスマ主婦」という肩書で呼ばれることがあり、(どちらかといえば自分は仕事人という自覚があるため)主婦に対して少し申し訳ない気持ちになる、という取材記事を読んだ。 山本さんの気持ちに料理家としてちょっぴり共感。料理家は本当の主婦ではなく、職業だ。私たち料理家の一部がイメージ上、親しみや共感を持ってもらえるように主婦と呼ばれたり、家族のためのごはん作りが高じて仕事になった、という文脈を持たされることは十分にあって、それが現実の主婦とち

出す?しまう?つるす?キッチン道具

うちはリビングに入ったときに一番目に付く棚に、鍋がずらーっと並んでいるんですね。これは私がスープ作家というかなり特殊な職業だからで、たいてい鍋はキッチンにあると思います。さらに、雑誌のキッチン特集なんかを眺めていると、キッチン道具を「出す人」「しまう人」「つるす人」の3タイプがあるように見受けられます。みなさんのキッチンはどれですか? 私はずっと「しまう派」でした。そもそもが散らかし屋なので、料理をはじめてなるべく広く場所を使えるようにしたかったのです。鍋はすべて流しの下、

春夏秋冬を炊き込もう

スープは、旬の野菜を食べる最も簡単な食べ方です。どんな野菜にも一年のうちでもっとも輝く時期があります。そこをピンポイントで狙ってたっぷり使えば、それほど工夫しなくても、だしや調味料に凝らなくても、おいしいスープになってくれます。 それと同じぐらい簡単に旬を取り入れられると思うのが、炊き込みご飯。私の母はよく炊き込みご飯を作っていました。ごはんに旬の食材を入れて、昆布を1枚入れて、塩か醤油、お酒を少し。調味料の分差し引いて水加減して、あとはいつものように炊くだけで、季節の食材

ミネストローネのせめぎあい

具沢山のスープを見ると、私は大人数の宴会を思い浮かべます。 最近では宴会は好きではないと言い切る人も多いけれど、私は昔から人の集まりが大好き。普段はひとりで仕事をしていることが多いし誰かとお酒を飲むことが好きだからという理由もありますが、子どものころから人の大勢いる環境で育ったせいが大きいのかもしれません。好きな人たちが集まるにぎやかな場所にいると、自分が人の輪の一部になって混ざり合って溶けていくような安心感があるんですよね。 とはいえ、会話を楽しみたいなら宴会じゃないな

にんじんしりしり器は、なぜ人にすすめたくなる道具なのか

にんじんしりしり、という沖縄の郷土料理があります。千切りのにんじんを卵などと一緒に油炒めした料理です。このにんじんしりしりを作るときに使う千切り器が、しりしり器です。 しりしり器は要するにスライサーなのですが、その最も大きな特徴は「よく切れない」ということです。しりしり器でおろしたにんじんは、よく切れるスライサーと比べると、切り口がギザギザしていて形も不ぞろいです。でもそのおかげで油や味のしみこみがよく、おいしくできるというわけです。 私は数年前にこのにんじんしりしり器を

最後の食事と丸鶏のスープ

毎日料理を作る主婦や料理人で、鶏肉を触ったことがないという人はめったにいませんよね。でも丸ごとの鶏については、見たことはあっても自分で買ったことのある人はものすごく少ないんじゃないかと思います。丸鶏のスープの話です。 私もスープ作家になるまで、鶏一羽なんて自分で買ったことがありませんでした。叔母が料理上手で、昔クリスマスにローストチキンを焼いて上手に切り分けてくれた記憶があります。実家でも一度や二度ぐらいは、家族か客かが面白がって買ってきたことがあったかもしれません。でも、

ジップロックと野田琺瑯

私はあるときから、家の保存容器をすべて「ジップロックコンテナ」と「野田琺瑯」に変えました。メーカー指定です。 それまでのうちのキッチンではものすごくいろいろな種類のタッパーウェア的なものが、戸棚にしまわれていたんですね。大きいの小さいの、長いの四角いの丸いの、レンジOKのものダメなもの、密閉できるものできないもの……こういう容器って、なぜかどんどん増えます。戸棚を開けるたびにふたがない、中身がない!とひっかきまわすことに。 実は、私の母が同じタイプでした。小学生だった息子

大量のじゃがいもと父のポテサラ

私の両親は、父が会社を定年になった頃、二拠点生活をするべく山梨に家を持ち、近所の人から畑を借りて野菜作りをしていたんですね。父が体を壊して東京に戻ってくるまで15年近く、結構な量の野菜を作り続けていました。 東京育ちで野菜はスーパーや八百屋で買うものだった私にとって、新鮮な野菜がたっぷりというのはとても魅力的でしたが、そのうち、これは大変だぞ…ということがわかりました。というのも、畑の野菜はスーパーと違い、その時期に採れるものしかありません。きゅうりの時期にはきゅうりが毎日

はるさめはキッチンのお守り

常温保存できる乾物は、長期保存できること以上に、生の食材には出せないうまみや味わいがあって、私はけっこう常備しています。何を買い置きしているかは、家庭によってかなり違うものみたいですね。 かつおぶしや昆布、椎茸、煮干しのような、だしになるもの。ドライフルーツやナッツ、麺類、粉類。こういうのは目的も使い方も割とはっきりしていますよね。 料理に使うものは、みんな何を使っているか、知りたいです。私が必ず家に常備しているものといったら、切り干し大根、ひじき、わかめ、のり、きくらげ、

キャベツのスープと料理の神さま

レストランのシェフを気取るわけじゃないですが、もし私のスープの中で特別な一品があるとしたら、やっぱり『スープ・レッスン』の「焦がしキャベツのスープ」ではないかと思います。 これは書籍の表紙になったレシピです。表紙を決めるときに候補のスープが3種類あったんですね。ところが担当編集者さんがあまりにも迷ってしまったのでTwitterやFacebookで人気投票をやったら、ぶっちぎりで1位だったんです。キャベツを大きく切るというところ、おいしそうな焦げ目、だしを使わずに素材だけのうま

スープの方程式

スープ作家になってから一番聞かれた質問は、組み合わせのコツや法則ってありますか?ということです。最初はうまく答えられなかったのですが、そのうち、自分がスープを考えるときに、ひとつの型の中で考えていることに気がつきました。それが「スープの方程式」です。 (素材   )×(だし   )×(オイル   )×(調味料   ) この(   )の中に何を入れるかの違いによって多様な組み合わせを作り出しています。どういうことか、説明しますね。 ●「素材」は1種類でも2種類でも。たいて

砂糖ひとさじの理由

料理が好きな方やプロの料理家には、レシピサイトに一般の方が投稿する、十分な検証がされていないあやふやなレシピが入っているのはいかがなものか、という方がわりといます。じつは私も料理を仕事にする前はそう思っていました。 スープ作家になってあるとき、ミネストローネについて調べていたんですね。ミネストローネはイタリアの家庭料理です。日本の味噌汁みたいにそれぞれの家庭の味、地域の味があります。それでふと、クックパッドでミネストローネのレシピを調べてみました。 ちなみに今現在、クック

おいしい味噌の見分け方

私は10年ぐらい前まで、味噌がどう作られているか、ちゃんと知らなかったんですよね。毎日味噌汁作っていたのに。あるとき味噌づくりのワークショップに参加して、ほうほう、味噌とは蒸した大豆をすりつぶして米と麹を混ぜて、きれいな樽に入れてふたをして半年以上寝かせておくとできるのだということを頭ではなく体感的にイメージできるようになりました。米の麹を触ったのもはじめてでした。 それまでは味噌を買おうとスーパーの味噌売り場に立つと、ベージュか茶色かこげ茶色の同じスウェットを着た同じ顔の