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『世界の端から、歩き出す』(ポプラ文庫ピュアフル)販促〜本当にあったホテルの「こわい」話・2


前回に引き続き、「ホテルにまつわる怖い話」。
小説の方は、以下より、ちょっとだけ試し読みできます。
冒頭部分で「ファンタジー?」とか「あやかし系?」とか思われる方が多いようですが、実はこの後はその要素はほぼありません(笑)。


今回は、自分が働いていたホテルの話。

実はそのホテルは廃業してしまってもうありません。
運営していた親会社も廃業してしまいまして、ほんとに跡形もなく。
そんな今だからこそ話せる話。


よく「ホテルの怪談」ていうとありがちなのが、ほら、「昔このホテルが建つ前、ここには病院があって、建てる時に地中からいっぱい白骨が出てきたんだよ」的なヤツ。
これ、うちのホテル、前半は事実でした。昔病院があった土地に建てられたのです。
勿論後半は与太話。大体病院が建ってたんですから、その地中にどうやって死体を埋めるんだと。それはもはや工事だ。
でも前半が事実のせいで、後半もまことしやかに言われてたものです。


自分自身は霊感なんてゼロを通り越してマイナスくらいの人間なのですが、当時その手のことに敏感な方々の間でまことしやかに囁かれてたのが、「 和室が怖い 」と。
ホテルなので基本洋室なのですが、どうしても和室が良い、あるいは完全バリアフリー希望の方の為に、バリアフリー和室が2室だけ、地下フロアにあったのですね。
「 その和室がこわい 」と。

空気が重い、息苦しい、この部屋にいるとやたらに肩が凝る。頭痛がする。
社員の人や、清掃会社の人の間で、そんな風に言われていて。
口惜しいことにわたしには全然、判りませんでしたが。


そのホテルの冷蔵庫は、自動精算タイプのものでした。
今はもう、古い旅館に時々あるくらいのレア物です。
冷蔵庫の中に穴の開いたパネルのようなものがあって、そこに飲み物が差し込んであるんです。飲む為に抜くと、それが機械に感知されて、最終的にログアウトの際に一緒に精算される仕組み。
この為、「冷蔵庫のチェック&補充専用のパートさん」がいました。
ホテルは365日営業ですから、交代要員として2人いた。


この内の1人が、いわゆる「見える人」でした。
個人的にそう言ってるだけでなく、商売として占い師さんもやっていた。
それがもうあまりにもあまりにもガチで当たるので、かなりのお客さんがついてしまって、だがそれをメイン仕事にしてしまうと収入がえげつないことになってしまい旦那さんが嫌がる為そちらの仕事は控えめにして、あくまで「メインの仕事はパートさん」でやっておられたとか(当時は今と違って、「女房が自分より稼ぎがいいのはどうしてもイヤ」てタイプの旦那さんがたくさんいたのです)。

もう1人の人は、ごくごく普通の人。
で、基本、週の殆どをこちらの人が働いていて、たまの休みの時に占い師パートさんが出勤、という形態でした。上の通り、あまり稼ぎたくないので、出勤も少なめにしたいとかで。
つまり、自分が普段、圧倒的に会話があるのが、普通の人の方。
だから普通さんのお人柄は、よくよく知っているのですね。
とても気が好く面倒見のいい、開けっ広げな関西のおばちゃん。
ネットでよく聞く「京都人の腹黒さ」的なものの一切無い、本当に裏表の無い人。
そういう人に、聞いた話。


もともとは占い師さんがメインでこの仕事をしていて、そこに普通さんが入社。
だから最初、仕事を覚えるまでは二人体制で働いていたそうで。
初めて和室に入った時に、占い師さんが一言「この部屋はあまり良くない」。

普通さんは特に霊感など無かったそうですが、確かにその和室に入るとどことなく空気が淀んでいるような気分はしたそうです。でもそれ以上のことは特になく。
そんな中での出来事。


パートさんの制服は、白シャツに紺ネクタイ、そして紺のベストにスカート。
飾りのネクタイなので長さは短く、ネクタイピンなどは無い。

ある日のこと。
和室にて作業中に、占い師さんのそのネクタイが突然、ふわ、と持ち上がったんだそうです。
誰かが指でつまんで持ち上げたみたいに。

普通さんが度肝を抜かれて見つめていると、占い師さんはまるで平然とした様子で空中に向かって「こらっ」と一喝。
その瞬間に、ネクタイがぱたっと元に戻ったそうです。
怖いやら驚いたやらで口もきけない普通さんに、占い師さんは「あんなのはただのいたずらだからどうってことない、大丈夫」的なことを言って、それっきり。
その後、そんなことはもう二度と無かったそうです。


これがね、もう本当に、うん。
普通さんは自分に対してその手のウソをつくような人ではないし、そもそも普段は一切、オカルトとかスピリチュアル系な会話をしたことがないんですよ。
で、もし占い師さんが何かトリック的なものでネクタイを動かしてたとしたら、そこには何か意図がある訳じゃないですか。いたずらしてやろうとか、怖がらせて自分の信者にしたてようとか、占いにお金つぎこませようとか。
でも、もしそんな意図があってのことなら、そのたった一度では済まないと思うのですね。もっと何回もやる方が効果が出る。

だけど、その一度きり。
そして勿論、普通さんに自分の占いにお金を使わせたりすることも一切無し。


創作物としては大好物ですが、現実問題として、霊方面オカルトって残念ながら無いんだろうな、と思っていて。
だって人類の歴史開闢以来、死者の数は天文学的なもので、世にも恐ろしい恨みや無念を抱いて死んでる人の数だってもうとんでもない訳ですよ。
もし霊的オカルトが現実にあるなら、もっとガンガンに頻繁にそこら中で起きてないとおかしいだろう、と思うのですよね。皆さんこんな、毎日平和に暮らせないだろうと。

だけど普通さんの体験したことは、どういう理屈でも通らなくて。
どうにも説明がつかないもの、というのはこわいものです。
あれをもって霊的オカルトを信じるのか、と問われたらうなずくのは難しい。けれど、ならその現象にどう説明つけるんだ、と聞かれたら答えられない。
どうしても白黒びしっとつけられない。
もやもやとしたものがずーっと胸の内にたまっている。


ちなみにその占い師さん、当時わたしにこう言ったことがあります。
「あんたは将来、お金持ちになるわ」


まだ当たってません(笑)。
将来、ていつまでを指すのかな……。


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