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恋愛に寄りすぎず、音楽に誠実であり続けた『リバーサルオーケストラ』の話

大好きなドラマ「リバーサルオーケストラ」が終わってしまい、灰と化している今日この頃。
最終回からしばらく経ち、今は玉響(ドラマの中に出てくるオーケストラの名前・正式には児玉交響楽団)に会いたくてしかたないです。そのため、一向に現実の仕事が進みません。由々しき事態。しかもこの記事、4000文字もありますから。長いです。今まで書いたnoteの中で一番長いんじゃないか?
こんなロス、いつ以来かな。あまちゃん以来かな。

▼第9話の前に書いた記事

※激しくネタバレしているので、今から見る人は回れ右。

最終回の展開はあっぱれの一言

リバーサルオーケストラは、最終話の最後の最後まで右肩上がりに登り続けて、ラスト1分、いや30秒で意外なところから大花火が打ち上がって、え、え、え!!!と狼狽えている間に終わりました。そして大慌てで録画を見返す……(エンドレス)
最後の1秒まで視聴者を離さなかったし、そこに至るまでの展開がお見事すぎて。テレビの前でスタンディングオベーションでした。

最終話の見どころは、田中圭さん演じるマエストロ、常葉朝陽がライバルの高階フィルへ行くのか行かないのか、にありました。
9話の予告がすでにそれを予見させるもので、朝陽が玉響のために自分を犠牲にするという流れも、ある程度予測できました。
予想通り、高階フィルの常任指揮者になること、さらには最後の演奏に自分が出ない代わりに、玉響が演奏することを許してほしいと交渉してた朝陽。演奏会当日、姿を表せないことで、玉響メンバーはその事実を知ることになります。
ああ、やっぱりそうだよね、とわたしを含む視聴者が固唾を飲みながら見守ったと思うのですが、門脇麦さん演じる初音が、頑なな朝陽をほぐしていく過程がとても丁寧で。わたし、おいおい泣きました。
初音は朝陽の判断を責めることなく、朝陽の優しさからきた行動だったことをきちんと理解した上で彼を説得し「あなたじゃなきゃだめなんです」と訴える。
声を震わせながら、目に涙を溜めながらも、一滴も涙を落とさなかった門脇麦さんはさすがだし、表情だけの演技で感情を雄弁に語っていた田中圭さんも素晴らしかった。

ここで余談ですが、もしわたしが初音なら、朝陽の判断を「そんなことしても誰も喜ばない!」とかなんとか言って一旦朝陽を傷つけていましたよね……(遠い目)。そういうことを一切初音に言わせなかった脚本の清水友佳子さんはすごいなあと思ったし、同時にわたしの発想の乏しさに嫌気がさした瞬間でもありました。

話を戻します。
そうして迎えたチャイコフスキー交響曲第5番の演奏シーンは7分の長尺。圧巻でした。
主題曲としても、挿入曲としても、アレンジされたその曲を何度も聴いてきたけれど、オリジナルの持つ壮大さが短く編集されたその中でちゃんと生かされていた。これまで散々嫌がらせしてきた本宮議員が曲を聴きながら感極まっている表情をしていたけれど、ああなるの、わかる。わたしもテレビの前であんな顔してたと思います。
チャイ5、果てしなくいい曲すぎて。今なら本宮議員と仲良くなれそう。

無事高階フィルとのコンペにも勝ち、玉響の存続が決まり、引いては朝陽の高階行きもなくなり。万々歳。
珍しく初音と朝陽が適度な距離を保ちながら二人並んで帰るシーンがラストへと繋がります。
ここまできてもう一つの見どころであった初音と朝陽の恋愛模様はまだ解決されていません。ドラマの残り時間はこの時点であと3分弱。焦る視聴者。

互いへの感謝の気持ちを伝え、固く握手する初音と朝陽。
スイッチが入った初音が「常葉さん、高階行きなくなったんですよね。玉響にいてくれるんですよね。いつまで?いつまでですか!?」と握手した手を離さず子犬モード全開で朝陽に迫っていると、朝陽は深くため息をついて「……帰りましょう」と初音の手を取り歩き出します。

ここで、全視聴者「ぎゃーーーー!!!!」だったことでしょう。わかります。わたしは今でも思い出すだけでぎゃー!です。みんな、よく生きていたね。
朝陽の「帰りましょう」から二人が歩き出して小さくなっていくまでの時間、わずか30秒。いい大人が手を繋いで歩き出しただけで、全視聴者は満たされ、放心状態。そこでリバオケ最終回は幕を閉じました。


劇中の恋愛要素の塩梅が絶妙だった

最終回の、初音と朝陽が手を繋いで歩くシーンだけでもう十分。お腹いっぱい。キスもハグも、好きだの愛してるだのがなくたって、全然いい。
その後ろ姿は、彼らが互いを思いやり、共に音楽を奏でることで、少しずつ何かが変わっているのだということを物語っていたし、そのことを見ているわたしたちはしっかり受け止めることができました。
それは、1話からずっと人物描写が丁寧だったことと、リバオケが音楽ドラマであることに一切の迷いがなかったからでは?と思います。

つまりドラマの核となる部分が、登場人物の恋愛模様によってブレなかった。
これこそがわたしがこれほどまでにリバオケを最後まで楽しく見れた理由のひとつです。

初音が朝陽への恋心を自覚してからも、そして告白してあっさり振られてしまったあとですら、彼女は音楽から逃げなかった。感情豊かで、自分の気持ちに正直に生きている天真爛漫な初音だけれど、コンサートマスターとして、広報担当として、仕事に穴は開けないしっかりした一面がありました。

坂東龍汰さん演じるフルート担当の蒼はオケの最年少。ときどき朝陽にも感情を露わにするくらい、若さゆえの熱さがある青年です。その彼が初音に勢い余って告白したあとも、さすがに初音に振られてしまったあとは二日酔いでぐでんとなっている様子はありましたが、それくらいのこと。きっと彼も自分の仕事を全うしていたはずです。

もうちょっと遡れば、自分の才能と向き合うたびに鬱々としていた瀧内公美さん演じるチェロ担当の玲緒が、恋愛を隠れ蓑に人知れず自分と闘っていたとき。
ちょっとだけ練習を休んだこともあったけれど、それでもカラオケボックスでの練習は欠かさなかった。音楽が好きで、でも己の才能と向き合った時に感じるどうしようもない苛立ちに打ちのめされそうになりながらも、仲間の助けを借りて立ち直り「わたしのいちばんは、音楽だから」と宣言する凛々しい姿に、じんときた人も多いのではないでしょうか。


そういう彼らの、音楽に対する誠実さがドラマの中できっちり描かれていました。
例えばここで「失恋したせいで演奏できなくなり、本番に姿を表さず、振った相手がその人を迎えにいってなんなら恋愛も上手くいく」なんてベタなシーンがあればどうだったでしょう。
……うーん、それはそれでキュンキュンしていたとは思いますが(するんかい)、でもここまでのめり込まなかっただろうと推測します。


好きなことで生きていく覚悟

さらに大事なのは、彼らが音楽と向き合うから恋愛しない、音楽のためにプライベートを犠牲にする、わけではないということ。そんな単純な話じゃありません。
恋愛以外でも、家族の問題と向き合っていたメンバーもいました。
受験を控えた娘との関係に悩んだり、認知症を患ってしまった妻との将来を考えたり。
彼らは家族を愛するあまり、一度は音楽の道を諦めようとしますが、やっぱり音楽を続ける道を選びます。
先述の蒼も、奨学金を返済しながら、防音付きのマンションの家賃が払えず八方塞がりに。おまけに父親の病気が発覚して実家へ帰ろうとするシーンがありました。彼もまた、自分の生き方を問い、迷いながら、好きなことで生きる道を家族に理解してもらった一人です。
それらの決断は、何かを、家族を捨てることではない、とドラマを見ていた人ならわかるはず。自分の人生を豊かにすることを諦めない選択があっていい。そう言っているように見えました。
そして人生において、好きなことを続けていくと決意する日が訪れた彼らを、心底羨ましく思いました。


劇中で朝陽が何度か言った「音楽と生きていく」という言葉通り、音楽と生きる覚悟を決めていく彼らの人生に、いつの間にか自分も伴走しているような気持ちになり、気がついたら毎週彼らの頑張りを見るのが楽しみになっていた。リバーサルオーケストラは、わたしにとってそういうドラマでした。

ああ、寂しい。もう玉響に会えないの?


オーケストラの楽しみ方を教えてくれた

そして、このドラマがわたしにもたらしてくれたものが他にもあります。それは、オーケストラへの興味。
玉響は地方オーケストラ。資金繰りに困ったり、団員の給料も決していいとは言えないものだったり、邪魔が入って存続の危機が訪れたり。そういうことがとてもリアルだということも、このドラマが教えてくれました。
生のオーケストラを聴いてみたい。もちろん日本屈指のオーケストラもいいけれど、地方で頑張るオーケストラがどんな演奏をするのか、俄然気になってきまして……。

そんなとき、運良く上田市のホールでやる群馬交響楽団の演奏会のチケットを入手することができ、なんと今週末、夫とふたりで聴きにいくことになりました。
めちゃくちゃ楽しみです。しかもなかなかいい席。
ピアノを習っていたので、ピアノコンサートは行ったことがあったけど、オーケストラは人生で初めて。しかも演奏曲はベートーヴェンの3番。英雄、エロイカです。ちなみに最終話の中で、高階フィルが演奏していたのがエロイカでしたね。
オケコンサートデビュー戦でこんな名曲が聴けるなんて……神様ありがとう!!
コンサート自体とっても久しぶり。何かのイベントを楽しみにするのも久しぶり。
こんな気持ちも味合わせてくれている、リバオケをつくってくれたすべての皆さんに、この場を借りて一方的に感謝の気持ちをお伝えします。本当にありがとうございました。久しぶりにエンタメで心躍らせることができました。寒い冬を乗り越えられたのも、リバオケのおかげ。


推し活を継続したい

にしても。
楽しみがあると生活にハリが生まれますね。でもこの気持ち、連ドラを楽しみにする気持ちとは微妙に違う……。
そう、言うなればまるで。推しができたみたいな感じ!
とすればわたしは玉響箱推しですね。

とはいえドラマが終わってしまったので、わたしの短い推し活もドラマとともにフィナーレを迎えてしまうのでしょうか。
こんな悲しいことあります?
これはもう第2弾でもスペシャルドラマでも映画でも、どんな形でも続けていただかないと。あなたにはその責任があると思います(by初音)。


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