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この森の始まりの季節、4月。

この森の始まりは4月から。

ふきのとうが開ききった頃、桜と梅と桃の花が同時に咲き始める。

たんぽぽ、ホトケノザ、タネツケバナ、オオイヌノフグリが一斉に花を咲かせる。小さな野の花たちは子供達のお気に入り。早速花を摘んで、私にプレゼントをしてくれる。

野草の天ぷらを楽しめるのはこの季節から。冷蔵庫に食材が不足している時は、野の草花を採取して食べる。

今夜は、つくしから成長した出たてのスギナ、少し大きくなりつつあるたんぽぽの葉っぱ、ふきのとうが終わって新しく土から出始めた蕗の葉、そして、ホトケノザは全草を揚げる。

たんぽぽの葉っぱはサラダでも。お花もいただくことができるので、鮮やかな黄色の花びらが食卓を明るく彩る。

この頃重宝するのが折り菜。雪が降る前に植えた菜の花たちの花芽をいただく。摘めば摘むほど次々に出てくるので、青物が少ない春先は毎日のように食卓に並ぶ。

おひたし、シーチキンとの和え物、卵とじ、野菜炒めにも。ここは標高が高くて野菜がなんでも柔らかい。根元が太い折り菜も短時間で茹で上がる。そして何よりも甘い。夫も子供も喜ぶから、来年はもっとたくさん作ろうと、毎年思う・・・。

畑はまだまだこれから。氷点下になる日があるので、耕しておくだけ。今のところ自然栽培。肥料は、やるとしても生ゴミを発酵させたものを入れるくらい。できるだけこの土地の力だけで作りたいと思う。


本業である染めは・・・
冬の間に雪で折れた桜の枝があれば、花が咲く前のものを煮出す。今年は集落内のお家で3本、伐採された桜の枝をいただいた。今にも花が咲きそうなふくふくの蕾。本当は咲きたいんだろうけど・・・と思いながらも、今だけしかいただけない色を出そうとくつくつくつくつ2日間くらいかけて煮る。

より赤みが欲しいので、途中で木灰かそれで作った灰汁を足す。そうすると赤に引っ張ってくれる。ただし、そうするときには、染めムラができやすいので気をつけて攪拌を続ける必要がある。

今の季節、正直、染められる植物は少ない。
桜の枝、そして杉の葉っぱ。本当はビワの葉っぱも染めに使いたいところだけれど、ここにとっては寒すぎて手に入らない。1時間半ほど南下した私の実家のあるところに大木があるので、運が良ければそこでもらうか・・・


そして藍染。4月半ばを過ぎてようやく着手できる暖かさに。染める時の液温が25度は必要、かつ洗うのは生水なので冷たくて、冬は染めはお休みしている。290リットルの4つの甕に順番に仕込んでいく。何より大変なのは、この容量の甕に入れる灰汁を準備すること。

自宅の薪ストーブの灰だけで作れればいいのだけれど、より質の高い灰汁作りのため、ナラなどの広葉樹だけの灰を集める。ピザ釜のあるピザ屋さん、ストーブ屋さんに連絡をとる。

藍を仕込み始めると、毎日のお世話が必要になってくる。今年は藍染修行中のNちゃんが管理してくれていてありがたい。私は子育てとともに藍染を始めたから、ここ3年の藍は本当に負担が大きかった。藍の魅力を感じながらも、やはり、生き物を飼うことのように責任がある。片手間ではできない染めなので、煮出して染める草木染めとは全く違う世界。

それだけに、染まる色への愛着は深まる。一度始めたらやめられない、奥深い染めと思っている。


家の仕事はというと、雪囲いを外すことと、薪を片付けること。
薪ストーブの生活とはしばらくお別れ。玄関の土間に大量に積まれて、残っていた薪を外の薪棚に移す。

毎年同じ作業をする。もっと効率よくすればいいところもあるかもしれないけれど、全ては自然のペースに合わせた暮らしの中で必要となってくること。

雪が少なければ、雪囲いはこれからいらなくなってくるかもしれないけれど、大雪が降るかもしれないから、1日かけて囲いをする。皆がやってきたことを同じようにする。それが一番間違いがない。


4月は忙しい。冬が終わり、春を迎えるための準備に勤しむ。その分、喜びも大きい。夏はあくせくと草取りをするけれど、今は新しく生えてきた淡い緑の草たちが愛おしいとさえ思える。(早めにとってしまえば後から苦労はしないのだけれど。)この長い冬を超えて、地上に出てきたものと思うと、愛でる気持ちが生まれてくるのだ。


これから季節が進むと新緑が始まる。それまではまだグレーの世界。靴下を重ねばきして、ズボンの下にはレギンスを履く。一枚ずつ、薄皮をはがすように、軽装になっていく。

雪がなくなり、子供達が自転車やストライダーで外遊びを楽しむ。まだ寒いけれど、時には泥遊び、水遊びも。

大人も子供も待ち焦がれていた春がやってきた。全てが芽吹き、心が明るくなる。

今年は初めて木を植えた。木を植えるのは春がいいと聞いた。梅、りんご、そしてブルーベリーにゆず。実がなって、子供達が喜ぶ顔が早く見たい。


始まりの季節。毎年、新しい気持ちで迎える。今年はいつもとは違う分、あたり前に巡ってくる季節の恵みへの感謝がよりいっそう深まる。

ここで繰り返しされてきた生活を、私も繰り返していく。私なりのエッセンスを加えながら。




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