見出し画像

その門出に花を添えたい

最近、結婚する友達が増えた。いわゆる「結婚ラッシュ」のはじまり。去年は三回結婚式に行って、さらに続々SNSでの結婚報告もある。あまりに結婚式が重なると「ご祝儀貧乏」なんて言葉もあるけれど、結婚式は何度行っても、しみじみ良いものだと思う。好きな人の隣にいる、幸せそうな友達。緊張しながらスピーチをする職場の上司。新婦のお父さんがうるうるしている姿を見た日には、こちらまで号泣してしまう。あんなにみんなが幸せな空間は、日常にはそうそうない。

去年初めて、結婚式の受付を頼まれた。中学生の頃からの友達の結婚式だった。家も近く、六年間同じ部活に所属していた彼女が「受付誰にしてもらいたいかな、って考えたら、かおりちゃんだなって思ったの」とくれた連絡は、最高の結婚式の招待状になった。ふたりが新しい生活をスタートさせる大阪で開かれるというその式を、私はとても楽しみにしていた。

結婚式の二週間前のこと。彼女から再び連絡があった。

「直前で申し訳ないんだけど…スピーチもしてくれない?」

プランナーと打ち合わせを重ねる中で、進行の都合で友人代表スピーチを入れる必要が出てきたのだという。「受付とスピーチなんて、ほぼスタッフだね!」と言いながら、これも二つ返事で引き受けた。人生に一度の、大切な一日の数分間を任せても良い。そう思ってもらえたことが嬉しかった。

彼女が一番魅力的に伝わるエピソードは何か、それから毎日考えた。当日高砂で隣に座る旦那さんのことを、会場中の全員が心底羨むようなスピーチがしたい。「いいな」と思ったことをきちんと言葉で表現できるところ。困っていると、そっと心配していてくれるところ。彼女のいいところは本当にたくさんあったけれど、結婚式にふさわしいのは、シンプルだけれど「家族を大切にしているところ」だと思った。

中学生の頃、私たちはいつも地元のショッピングモールで遊んでいた。プリクラを取って、クレープを食べて、そのあとは雑貨屋をうろうろして、お互い気になるものがあったら「ちょっと見てもいい?」と言って時間を取る。それが私たちのいつものスケジュールだった。

ある日、「ちょっといい?」と言って入った雑貨屋で彼女はキャンドルを見ていた。「これかわいいなあ。ママ、そろそろ誕生日だから」と指さしたのはケーキ用のピックがついた「HAPPY BIRTHDAY」のろうそくだった。私たちのお小遣いで買うには少し高いそれを彼女は嬉しそうに選んでいて、その横顔がとても大人っぽく見えた。照れくさくて家族に誕生日プレゼントが渡せない私には、彼女はとても眩しかった。

スピーチは、あの日の「そろそろ誕生日だから」の一言から始めた。緊張して足も手も声も震えたけれど、これが私にできる精一杯のお祝い。スピーチの途中一瞬目が合った彼女は、一生懸命こちらを見てくれていた。彼女のお母さんは嬉しそうな顔をしていて、こちらまで泣いてしまいそうだった。

とてもいい式だった。「昔から青が似合ってたもんねー」と選んだドレスの色あての正解はオレンジだった。親戚のおばちゃんっぽく「すっかり変わっちゃって…」なんて思ってみたけれど、旦那さんの隣に立つ彼女には間違いなく青よりもオレンジが似合っていた。生まれたときと同じ重さの米俵を、愛おしそうに抱く旦那さんのお母さんの姿に泣いた。「僕、号泣しました!スピーチめっちゃよかったです!」と駆け寄ってくれたのは、旦那さんの弟さんだった。そんな一日に、たった数分間ではあるけれど関わることができて、本当に嬉しかった。

今年の初め、スピーチのお礼だと言って大阪の新居に招待してもらった。ホテルでのいちごビュッフェを楽しんでいる間に、旦那さんは一生懸命部屋を掃除してくれていたという。何とも微笑ましいふたりは、変わらず幸せそうだ。

お邪魔すると、壁に作りつけられた本棚には結婚式の写真が飾ってあった。リビングで彼女と私がお酒を楽しんでいる間、旦那さんはキッチンでおつまみを作ってくれた。彼女がお手洗いに行くと言って席を外すと、空いた席にさりげなく旦那さんが座る。

「ありがとうございます、作っていただいて」

旦那さんは「いやいや」と言って、笑顔で続ける。

「俺も料理するの好きやし。でも、奥さんの料理もめっちゃおいしいんですよ!」

ああ、これは幸せだ。すごいなあ。幸せだなあ。私にもいつか、こんな人が見つけられるだろうか。

お手洗いから帰ってきた彼女が「何話してたの?」と聞くと、旦那さんは「内緒!」とはぐらかしてキッチンへ戻っていってしまった。

先月の彼女の誕生日。彼女のSNSには、大きな花束を抱えて帰ってきた旦那さんの写真がアップされていた。誕生日の花束は、出会ってから年々大きくなっているみたいだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?