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フレデリック【わたしの本棚④】

小さい頃に読んだ絵本を見かけると、言いようのない懐かしい気持ちがこみあげる。『ぐりとぐら』、『よるくま』、それから『ティモシーとサラ』。もう二十年近くも手に取っていないのに、表紙の色合いだけで記憶はぐんぐん蘇る。それほどに、何度も何度も同じ絵本を読んでいた。

けれど、大人になると手に取る本は絵本から文庫本に変わる。同じ本を繰り返し読むことなんて、そうそうしなくなる。そしていつの間にか私は、「絵本はこどもの読むもの」だと思い込むようになった。

それでも、そんな思い込みを解いてくれた一冊の絵本がある。

レオ=レオニの『フレデリック ちょっと かわった のねずみの はなし』。

牧場の近くの石垣の中に住んでいた、おしゃべりなねずみたち。彼らは迫りくる冬に向けて食料を集めるために働いていたのだけれど、そのうちの一匹、フレデリックはどうやら別のものを集めているようで……、というストーリー。

序盤では、せっせと働くねずみたちにずっと背中を向けて、じっとしているフレデリック。彼らはそんなフレデリックに「どうして働かないのか」と問いかけるのだけれど、彼は彼で、大切なものを集めていた。

「さむくて くらい ふゆの ひのために、
 ぼくは おひさまの ひかりを あつめてるんだ。」
「いろを あつめてるのさ。ふゆは はいいろだからね。」
「ぼくは ことばを あつめてるんだ。
 ふゆは ながいから、 はなしの たねも つきて しまうもの。」

冬が来て、最初の頃は集めた食料でぬくぬくと暮らしていたねずみたち。けれどそれが底をついて、おしゃべりをする元気もなくなってしまったとき、フレデリックの出番がやってくる。

「めを つむって ごらん。」

こう言ってフレデリックが話し出したのは、金色に輝く太陽の光の温かさや、色鮮やかなお花や食べ物のこと。彼はたっぷりと貯めた「言葉」で仲間たちを満たしてゆく。

生きていくために確かに食料は大切だけれど、それが無くなったときに支えになるのは、誰もが紡ぐことができる「言葉」なのだ。大人になって改めて気づく、優しい絵本に込められた力強いメッセージに胸が高鳴った。

『スイミー』と並んで有名なレオ=レオニの作品だから、きっとこどもの頃にも読んでいる。それでも、大人になって読んだからこそ深く感じられるものもあるのだ。

絵本はこどもだけのものじゃない。そう気づかせてくれた、私の本棚の大切な一冊だ。


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