結婚について本気だして考えてみた

結婚について本気だして考えてみた。

3組に1組のカップルが離婚すると言われる現代で結婚とはなんだろうとロクに恋愛経験もない21歳の女が考えてみた。
まず結婚のロールモデルになるのは両親だろう。
私にはお金を稼ぐことが極端に得意だが、完全無欠かと問われると口ごもってしまうクレイジーな父親と最近風水と気功に凝ってスピリチュアルババアと化した常識人の母親がいる。

夫婦仲は決して仲がよいとは言えないし、子供からみてお互いにリスペクトが足りていない部分も大きいが、バランスはいいと思う。
夫婦対抗の武闘会があったら中々いい線にいくのではないだろうか。舞踏会ではなく、武闘会であることが重要だ。
人生の大半は煌びやかで美しい場面ではなく、耐え忍び、戦う場面で構成されている。

もうひとつのロールモデルは祖父母である。残念ながら祖父は一昨年なくなったのだが、こちらもまずまずバランスのいいチームであった。
少々どころではなくわがままな祖母が半世紀連れ添ったおっとりしすぎた天然ボケの祖父の遺影をもって涙を流す姿には私も嗚咽を堪えきれなかった。

一瞬を楽しむためなら恋人で十分だ。だから、単純に二人でいるとお互いに一番強くなれる人を選べばいいのではないかと思う。
社会という戦場を乗り切るために背後を任せられる人でないといけない。
生半可な相手と組むくらいならわざわざ結婚する必要はないと思う。
それなら1人でいる方がずっと強い。
世間の「結婚しないの?」なんてお節介には両手の親指で目潰しを食らわせてしまえばいい。

もし、あなたがどんな男と結婚するべきか迷っていたら、結婚式場で思い浮かべた男より葬儀場で思い浮かべる男と結婚することをお勧めしたい。
経歴も容姿も財力もなにもかも失った葬儀場でそれでも愛おしいと思えたら、それは掛け値なしの愛だと思う。

私は晩婚化が進む社会において珍しいほど結婚願望が強い。

私にはヒモと呼んでいる男がいる。恋人ではないが、私は結婚するとしたら間違いなくその男を選ぶと思う。私はお金を稼ぐのと使うのが得意だが、片付けだとか探し物に関しては偏差値25がいいところである。反対にヒモは野心や勤労意欲というものを恐らく東大に落ちた時点で誰かに置き引きされたが、ゴミの分別と節約にかけては右に出るものがいない。

ヒモというと寄生虫のようにお金をたかって暮らす男のイメージを持たれがちだが、私のヒモは違う。タランチュラや文鳥や他のペットたちのようにたまたま愛していて餌をあげる関係を表すための適切な言葉がなかったから仕方なくヒモと呼んでいる。

最初は恋をしていた記憶がわずかに残っている。この男が、私の承認欲求に咲き乱れたブログを探し出し、晒しあげて笑い者にするものだからこいつは私のことが好きに違いないと確信をもって告白したら、特にそんなことはなく、ただ人をからかうのが好きなだけの男だと判明した。12年も女子校で純粋培養された女の凄惨な事故として後世まで語り継いでくれたらと思う。

それでも一緒にいはじめてから4年がたった。よく聞かれるが、4年間一度も性的な関係を持っていない。私に関心をもたないことにあまりに腹が立つから時々にヒモの白くて柔らかい太腿に思いっきり歯を立てる。ヒモはこれをとても嫌がって身をよじって逃げ出そうとするが、ろくに働いたことのないふわふわの手は私よりずっと弱い。私はこれでなんとなく満足した気になる。
ペットのタランチュラとなにひとつ変わらない関係だというのに、人間のオスだというだけで、私はヒモと結婚することができる。ヒモはそれを就活と呼んでいるが、一向に構わない。ヒモはセックスこそしないけれど、様々な奇行を繰り返す私の傍にいてくれるからきっと愛しているのだと思う。

 私には夢がある。ヒモと結婚して子供をもつのだ。ヒモとセックスする想像は全くできないのにヒモの子供を産む想像は容易にできる。十月十日の月日を経てこの世に生まれてくるのは私に似た利発な女の子。ヒモには全然似ていない、私のクローンのような娘。私の娘はすくすく大きくなって、そのうち、どこかヒモにも似ていると気がつく。年頃になってヒモと私の容姿を半分ずつ受け継いだ娘は自分のぱっとしない容貌に不満を爆発させ、ある日、私に八つ当たりするんだ。そしたら、ずばりと言ってやろうと思う。「あなたがお母さんよりずっと美人に生まれてきてよかった」と。娘はやがて家を出て、あまり会いにこなくなる。ヒモと私はまた二人きりになるのだ。そして、ヒモと私は年をとってどんどん醜くなって、手がつけられないほど醜くなっているくせに私はまだヒモに甘えている。ヒモは縁側に座って執拗に擦り寄る私をめんどくさそうに愛するんだ。私は水分を失ってシワシワに脆くなった太腿にまだ歯を立てるのだろうか。その時、私は総入れ歯になっているかもしれないと思うとなんだかおかしい。そんな平凡極まりない人生が待っていると思うとまだ死ねないと思う。

私は4年間一緒にいて、未だにこの男の正体をつかめていない。わかったことは求肥のようになめらかな肌をしていることと話が面白いこと、事故物件に喜んで住むほど肝が太いことくらいだ。あまりご飯を食べていないくせに丸々と太っている理由すら解明できていない。

遺伝子を後世に伝えるために欲望の乗り物として生きている私たち人間の中で睡眠欲しか持たない彼は大変異質な存在だと思う。
私は彼を研究する時間があと50年は欲しい。

おそらく、私の方が長く生きるだろう。私とヒモとでは、生に対する執着がまるで違う。私はいつか、冷たくなったヒモの体にすがりつく日を耐えなければならない。きっとヒモは今と殆ど変わらない。私がどれだけ強くかじりついたとて微動だにしなくなるだけだ。

 祖母が祖父を看取る際に「最後、アイスクリームをひとさじ口に流し込んであげればよかった。」とつぶやいたのをいやに鮮明に覚えている。
私は最後の日、一生分の愛を込めてヒモの口に生ハムを一枚放り込んでやろうと今から考えている。

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

note.user.nickname || note.user.urlname

いただいたサポートは今後の活動の糧になるように大切に使わせていただきます。

62
ミステリーハンター。慶應義塾大学政策・メディア研究科在籍。著者『恋する昆虫図鑑 ムシとヒトの恋愛戦略』文藝春秋、『LIFE 人間が知らない生き方』文響社など。

コメント2件

こんばんは。
私は既婚者ですが、今更ながら夫婦二人して似た者同士なことに気付いて四苦八苦しています。
二人とも金儲けが不得意だったということに気付いてなかったのです。
夫婦どちらかは金儲け得意であるのは必須項目ですね。
素晴らしき文才!
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。